【第二章】第十四部分
「今度も叩く相手が違うだろう!」
「これはアタシの意思じゃないわ。アタシの本能がこうしろって、言うんだから仕方ないわ。バチバチパチ、もう一丁バチ。」
「パチ×3、特に4回目には、明確な悪意が感じられたぞ。」
「それはソレよ。別腹もアリなのよ。」
「言ってる意味が分からないぞ。てか、悪意是認の言葉じゃないか!」
「ずいぶんと仲がよろしくなってるですねですぅ。必殺技を使うですぅ。」
どこからともなく、一万円乃ピン札を取り出して、体に貼りつけるミニスカロリス。
「先生、さっき一敗地にまみれたのに。いったい何をしようというのよ。」
「悪は何度敗れても立ち上がるものですぅ。悪は強さの正義なのですぅ。」
「矛盾する用語同士がケンカしてるわよ。ガンガン。」
亜里栖は、クレーム付けながらも、ハリセン形になった金貨でミニスカロリスを叩いている。
「そんなの全然痛くないですぅ。もっと激しくラブアタックしてほしいですぅ。」
「ずいぶんナマ言ってるじゃない。たかが教師のくせに。こうなったら総攻撃するわよ!」
亜里栖は水と塩をぶっかけた。
「同じ攻撃が通用するといったら大間違いですぅ。てか、先生はもはや、ぐにゃぐにゃじゃないんだから、そんな攻撃はおかしいと考えるのがフツーじゃないですかですぅ。」
「ちょっと、攻撃のアルゴリズムが狂っただけよ。」
「よくわからない説明ですぅ。そんなことはどうでもいいですぅ。ならば今度はこちらから仕掛けてもいいですかですぅ?」
「それはダメよ。先生にはやっていけないことと、やっていけないことしかないんだから。」
「それでは先生は何もできないですぅ。そういうブラフには惑わされないですぅ。えいっ。」
ミニスカロリスが気合いを入れると、体の周りに張り付いた一万円札が上下に揺れ始めた。それはどんどんスピードを増した。周囲には物凄い風圧が巻き起こった。
「きゃああ!」
慌ててスカートを押さえる亜里栖。
「ぐッ。」
ずっと静観の構えだった美散は白目を剥いてその場に倒れた。そこに駆け寄る秀太郎。
「おい。美散。いったいどうしたんだ。こ、これは。」
ミニスカロリスの一万円札から出ている風は、紫色となり煙のように秀太郎を包み込んでいる。
「秀太郎。美散はいったいどうしたのよ。」
「これはただの風じゃないぞ。毒だ。何の種類かはわからないが、吸うと息ができなくなるぞ。オレは美散を助けるから、先生は亜里栖ひとりでなんとかしろ!」
「勝手に命令するんじゃないわよ。アタシも毒を吸ってるんだからね。」
亜里栖の顔色も黒みがかってきた。
「ゴホゴホ。」
今度は毒を出した張本人のミニスカロリスが咳き込んでいる。手のひらには血液がついていた。
「先生、自分もやられてるわよ。このままじゃ、命が危ないんじゃないの?」
「悪だから自分の生命価値は、皆無に等しいのですぅ。」
「そんな!そこまで自我がはっきりしてるのに、どうして。」
「それだからこそ悪なのですぅ。意識ではわかっていても、行動意思は支配される、それが悪というものですぅ。ニセ札はこういう副作用があるのですぅ。」
「悪って、どこまで卑劣なの。」
「ならば先生を倒すのをやめて、生徒会という本丸を先に攻めるですぅ。」
「それはイヤ。」
「どうしてですかですぅ。」
「放出したションベ、じゃなくて、つ、作り始めたジグソーパズルは止められないのよ。だから、先生を完膚なきまでに叩き潰しコンプするわ。」
「ひどいですぅ。」
「うっ。アタシにも毒が回ってきたみたいだわ。く、苦しい。」
片膝をついて、顔色を悪くした亜里栖。
「一本木さんは正義銀行員だけど、先生にとっては悪ですぅ。悪は滅せられるために生まれてきたですぅ。」
もはや、何が正義で悪なのかわからないカオス状態になってしまった。