【第二章】第十一部分
「それではだめだ。全身全霊で受け止めろ!」
大きな声で亜里栖に指示する秀太郎。
「誰に命令してるのよ?」
眉間に深いシワを寄せて反論する亜里栖。
しかし、秀太郎は亜里栖よりもディープな溝を額に作っている。
「正義を果たすという目標はどこに置き忘れてきたのか。」
「今それをここで言うの?」
「言うさ。亜里栖は、さっきまでそんな気構えだったんじゃなかったのか?」
「で、でも。」
亜里栖はそれから先の言葉をゴクリと飲み込んだ。ひどく苦かったような渋面が、亜里栖の顔の筋肉を支配した。
「よし、いい顔だ。」
「し、仕方ないわね。先生、かかって来なさい。いや、ぶっかけて来なさいよ!」
「一本木さんの気持ちは、わかりましたですぅ。ではぶっかけてやるですぅ。えいっ!」
金貨ヒトデは金色に輝きながら、回転して、亜里栖の顔に張り付いた。
「ぐええぇ~。気持ち悪い!」
ぶっかけとはこういうものなので、安易に受けるモノではない。
ぶっかけ・張り付きの瞬間、亜里栖の金貨がジグザグ型になった。つまりこちらもほぼヒトデ型。それはグルグルと回転して、ヒトデを切り裂いて、吹き飛ばした。
しかし、内臓とおぼしき残骸がスプラッターとして亜里栖の顔に居残っていた。
「亜里栖、よくやった。そういう必死な思いが魔法の力なんだ。」
高名な僧侶のように、亜里栖を諭す秀太郎。
「でもこんなのいやよ!」
歪んだ表情の亜里栖の顔を丁寧に拭いてやる秀太郎。
「えっ。・・・。」
秀太郎の想定外の動作に、言葉を失った亜里栖。
それを見ていたミニスカロリスは指をくわえている。
「先生もしてほしいですぅ。」
ミニスカロリスは犬のように腰を左右に振っておねだりしている。
「わ、わたしも。」
併せて、美散も物欲しげな顔をしている。
「ちょっと、先生と美散。その顔と仕草は何を意味するのよ?」
「いや、何でもないですぅ。」
「同じく何でもない。」
「先生、攻撃って、これで終わりなの?」
「そんなことありませんですぅ。今のは、モテ調べですぅ。」
「あ~。氷河期の先生にもモテ期が来たってこと?」
「そうですぅ。一万年の時を超えて、って違うですぅ。もう許さないですぅ。真のモテ期攻撃モード、全身ヒトデ型変身!ちょっと芸術性に欠けますけど、これをやるですぅ。」
ミニスカロリスの体が軟体動物のように、ぐにゃぐにゃになり、それは四方八方に発泡して膨み、ヒトデに変身した。
「なんなのよ、これ。さっきよりさらに気持ち悪いじゃない。」
完全に怯んだ亜里栖。
「ダメだ、全力でぶつかれ!」
秀太郎は亜里栖の背中に叫ぶ。