【第二章】第九部分
秀太郎がふたりを連れて球場へと移動した。
「生徒会の中に不穏な動きがある。美散はそのためにワザと捕まっていたんだ。」
「秀太郎は生徒会なんだから何かあればすぐにわかるんじゃないの?て言うか、七味じゃないの?」
「一味だろう!いや、そもそも一味じゃないし。」
「秀太郎は生徒会の一員なんでしょ?」
「一員ということ自体は間違いないよ。でも今の生徒会は会長支配下の部活と、反会長派に分かれている。オレは反会長派の副会長を務めている。こちらの勢力下にある部活は債権回収部ぐらいだ。」
「反会長派ですって?」
「そうだ。生徒会は傘下に人事部を持ち、銀行全体の人事を掌握している。それだけではなく、銀行全体の計画を司る業務計画部を持っており、その権力は絶大だ。中でも財務部を握っていることが重要だ。」
「財務部って、そんなに重要な部活なの?」
「そうだ。魔法マネーのコントロールをしている部活だからな。財務部の中には造幣局があり、紙幣の印刷を行っている。」
「お札の印刷?そんなことできたら、魔法が使い放題じゃない。」
「そうはならないさ。紙幣を印刷するには、その源となる魔法マネーが必要だ。魔法マネーの存在を裏付けに紙幣を発行するのだから。仮に魔法マネーの在庫を超えて紙幣を発行すると、魔法マネーの供給過多となり、魔法マネーの価値を下落させることになる。だから本来架空の紙幣、すなわちニセ札というものは発行できないことになっている。」
「本来って、言葉を使うということは、まさか。」
「そのまさかさ。今の生徒会にはニセ札発行の黒い噂がある。」
「魔法マネーのコントロールをする役割の生徒会がなんていうことをしてるの!」
「しかもそれだけでなく、ニセ札を使うと、魔法使いの体力を著しく奪い、最悪死に至るということなんだよ、亜里栖。」
美散が口を挟んできた。
「まだ生徒が死んだという報告を受けてはいないけど、やがてはそういう事態も発生するかもしれない。だから、そうなる前にやるべきことをやっているのが、今回の潜入なんだよ。」
「潜入って穏やかじゃないわね。それでその潜入の成果があったから、生徒会から出てきたっていうこと?」
「いや結局足は出さなかったね。でも生徒会がおかしなことをやってるのは間違いないね。財務部造幣局には誰も近づけないようになってるし。」
「だったら、こちらから仕掛けるというのが正義の味方じゃないの?」
「正義の味方とはずいぶん大きく出たね。」
「正義の味方という前に、魔法使いとして勉強することがたくさんあるんじゃないのか?」
「ア、アタシは、本番でホモられて成長するタイプなんだからねっ!」
「ずいぶん言葉に動揺が見られるぞ。」
「と、とにかく生徒会に物申しに行くわよ。」
三人は足の向きを揃えた。




