【第二章】第八部分
亜里栖が自宅にいる頃、学校では相変わらず体調を崩す生徒が出ていた。
その生徒たちの多くが奨学金をもらっていた。
「生徒会から1万円もらった?」「うん。すごくきれいなお札なんだけど、伊勢神宮でお祈りをしてきた霊験あらたかなものらしいわよ。」「それなら魔力が相当に高まりそうだね。」「でもあまりに魔力が強過ぎるっていう噂もあるわ。」「体調不良はそのせいなのかしら。」「良薬は口に苦しだけど、劇薬じゃあねえ。」
奨学金の支給対象を決めているのは生徒会であったので、一部の生徒たちの間で生徒会への疑惑が生じていた。
登校時間。トボトボと歩いている亜里栖。父親の励まし?で通学はできていた。
後ろから誰かがついて来る。単に後ろを歩む人間には気づかないが、不思議なことに、自分を意識して追随している者の気配は、わかるものである。
「誰よ、朝っぱらからアタシの魅力的なオシリを狙うヘンタイはっ!」
小さめのお尻をカバンで隠しながら、後ろを振り返る亜里栖。
「あ~あ。せっかくの眼福タイムが終わっちゃったねえ。」
「下から80、56、78ってところかな?ちょっと、オマケしたかなあ?」
「きゃあ!イヤらしいわねえ。下から数えるとかあり得ないわ!」
「おはよう。朝は意外に早く来てるんだねえ。」
「しゅ、秀太郎!せ、生徒会のサル回し者が何のようなのよ。」
「その表現は正しいけどちょっとトゲがあるねえ。たしかに生徒会の人間だから、誰かに回されてるとは思うけど、サルという位置付けは、人間側に軸足を置いてる者としてはどうかなあ。」
「会長のロボットなんだから、サルという霊長類カテゴリーに入れてるだけでも感謝しなさいよね。」
「すっかり元気に戻った感じだな。」
「そ、そんなこと、ある・・・かも。」
いきなり顔が赤らんできた亜里栖。
「赤くなりついでに、これはどうかな。」
秀太郎の声とは違う高い声が、亜里栖の後ろから聞こえてきた。それには大いに聞き覚えがあった。
「久しぶりだな、亜里栖。」
「み、み、美散、美散なの?ホンモノ?うわ~ん。」
いきなり現れた美散に、犬のようにむしゃぶりついた亜里栖。
「おい、こら、待ってくれよ。頭のてっぺんから足の先までホンモノのあたしだよ。ほら、ちゃんと足も生えてるぞ。」
「ホントだ、よかったわ。オイオイ。」
まだ泣いている亜里栖。整った顔立ちがボロボロに崩壊している。
「こんなところでは話もできない。ホームルームまでまだ時間があるから、球場前に行こう。」