【第一章】第三部分
『魔導中央銀行学園の頭取兼学園長から新入生のみなさんへ祝辞です。』
会場にアナウンスの音声が耳に響いた。
深紅のスーツに身を包むナイスバディな妙齢の女子がステージに登壇した。
黒い髪をカタツムリのように纏めている。
赤い縁のメガネで視線を窺うことができないが、鋭敏な雰囲気は隠しようがない。
頭取兼学園長はメガネを軽く直してから、手でマイクを掴むような仕草をした。
「マイクがないわ。エアーマイクパフォーマンスでもやろうというのかしら。」
亜里栖がツッコミを入れて、周りの新入生から睨まれた。
「新入生のみなさん。魔導中央銀行学園への入行おめでとう。」
頭取兼学園長の声は会場内に大きく聞こえた。マイクを使っているのと同等の響きである。
「この挨拶って、魔法を使っているっていうこと?さすが魔導中央銀行学園ね。」
亜里栖は再び多数の睨み視線を浴びた。
((((((((((((((((((((((この女子、ド天然なの?)))))))))))))))))と言いたげな視線の集合体である。
「カネをもらって入行するということはどういうことか。タダよりコワいものはないと言われるが、タダを超えている。そんなおいしい話が転がっているはずもない。ここは学校にして学校にあらず。すべては資本主義の徹底。授業料いらない、給料が出る。その原資は何か。自分の足で稼ぐしかない。稼がない者はすぐに立ち去るしかない。今から、授業を開始する。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「今から授業?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
口々に疑問の声を上げながら、ざわつき始める講堂内の生徒たち。
「授業での最初の宿題は、入学支度金1万MMの預金を獲得して来ること。これでチャラなら安いものだ。そして期限のない宿題はない。期限は本日の3時まで。1万MMは最低水準であって、持ち帰った生徒の中でランキングを行い、上位80位までが合格となるという条件。つまり、今から行われる宿題は入行試験を兼ねている。ここに並べられた椅子の数が、金額がギリギリなら落ちるかもしれない。しかも3時までだ。」
「ええ?今になって、そんなこと聞いてないわよ。」
亜里栖も反抗の姿勢を示し、周りの大半の生徒も同様であった。
そんな中で一人の女子が校門へ向かって走り出した。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ヤバい、取り残されてしまう!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
群衆がパニック状態になった時、誰かが口火を切ると、その方向にすべてが流れてしまう。人間の心理とはそういうものである。
一斉に校外を目指して疾走を始めた生徒たち。
手当たり次第に民家に飛び込んでいく者が大半である。
当然ながら門前払い。インターホン越しでの拒絶。これが飛び込みセールスのごく普通の結果である。
セールス拒絶を近くの商店に入るも、『うちは●銀行との付き合いがあるから。』と断られる。
楽しんでピンポンダッシュを繰り返す輩も現れたが、こういう生徒はすぐに不合格となり、学園側に収容されていった。
そんな中で亜里栖はかなり楽観的であった。天然系にはおまけのように付いて回る属性であり仕方がないのではあるが。
「預金なんてお金持ちのところに行って、そこのオヤジに頼むのがいちばんよね。うちの取引銀行からは借金だけで預金とかほとんどなかったはず。そんなところには預金を他の銀行に預け替えする余裕なんかないのよ。」