【第二章】第七部分
中に入ると生徒会長と秀太郎が談笑していた。
「あっ、亜里栖。今会長と話していたところなんだけど、今後のことについてなんだけど。」
「しゆ、秀太郎がどうして、ここにいるのよ。しかも悪の権化会長と仲良さそうに。・・・。ま、まさか、秀太郎は会長とグル?よく考えたら、秀太郎は生徒会の一員だし。」
「そうだよ。オレは生徒会副会長だし、会長とはこうして話をするのが仕事だし。」
「ま、まさか、アタシを騙していたということ?」
狼狽する亜里栖を尻目に、生徒会長は妖しげな口端を少々吊り上げた。
「そうですわ。一本木亜里栖さん。あなたは最初からワタクシの手の平で踊っていただけですわ。拙い魔法使いの演技は見るに堪えませんでしたが。ホーホホホッ。」
「う、うそでしょ。・・・。」
『ダン!』
生徒会室のドアをぶち破らんばかりの勢いで、出て行った亜里栖。
「学校の施設を壊したら、そこで罪が発生するところでしたが、それは辛くも免れたようですわね。でもこれでもうここに彼女がやってくることもなくなりましたわ。うるさいコバエを掃う殺虫スプレーを買う手間とコストが省けましたわ。ホーホホホッ。」
卑しく高笑いする生徒会長を無表情で見つめる秀太郎であった。
その日は課外授業にも出ず、自宅スーパーに戻り、部屋に絶賛、引きこもった亜里栖。
「もうアタシ、銀行員をやっていけないかも。秀太郎のことを、血を吸わないオス蚊ぐらいには信じてたのに。無害だと思っていたのに。」
「ハックション。あれ?風邪でも引いたのかな。そんな季節じゃないのに。」
大して信じられていなかった秀太郎は、生徒会室でくしゃみをしていた。
「帰って来たよ、アリス。パパは今日も負けちゃったよ。ハハハ。」
「このお気楽ギャンブルオヤジが。店のことを考えてって、あれほど言ってるのに。」
亜里栖は学校のことで落ち込んでいたが、スーパーのこととなると、別の感情と勘定で動いていた。どちらも亜里栖の中では大切なことなのである。
「パパにとってはギャンブルじゃないんだよ。スロットで仕入れ魔法マネーを稼ごうとしているだけなんだからな。たまたま結果が伴っていないだけなんだよなあ。」
「それがムダだって言うのよ。どうせ負けるに決まってるんだから。実際に毎日負け続てるし。」
「そんなことはないぞ。月に1回ぐらいは勝ってるんだからな。」
「毎月1勝30敗じゃ、何の意味もないわよ。」
「そう言うのなよ。果報は寝て待て、と言うだろう。このスーパーもこんな状態で潰れてないのは、何もしていないのではなく、全部売れてしまうまで待っている。在庫ロスの方が影響が大きい。値引きで在庫を全部売るやり方が一般的。でもうちは仕入れする魔法マネーが不足している。在庫を半値で売るよりも、魔法マネー収入はこちらの方が多くなるからな。」
「確かに、ウチの商品って、多くの物がいったん売り切れになって、そのクレームもあるけど、賞味期限が切れてるような物はほとんどないわね。」
「そうさ。だから気長に待つというというのも商売のやり方の一つなんだよ。じゃあ、明日もパチスロ行って来るからな。」
「それはやめてよ!バカオヤジ!」
「せめて、お父さんって、呼んでくれよ。昨日まではそう呼んでくれたじゃないか。」
「ギャンブルに勝ったら呼んであげるわ。バカオヤジ!」
「よ~し。やる気が出てきたゾ。明日も盛大に負けて来るゾ!」
「バカオヤジ!ギャンブルやめてよ!」
言葉の墓穴を掘ってしまった亜里栖であった。




