【第二章】第六部分
「どうしたらいいか全然わからないわ。ううう。」
椅子もないので、立ったまま両目を覆う亜里栖。
『カッカッカッ。』
男子の強い足取り音が聞こえてきた。
「時代遅れのスーパーストアは、泣いて閉店を待つだけなのか。」
「誰?あ、あんたは、この前の、たしか窮太郎?」
「ひどく悪意のある漢字の使い方だなあ。ヒトの名前を間違えると命取りになることもあるんだよ。」
「店舗がボロボロでも支えてくれる人がいるから、頑張って続けているのよ。」
「そうだよな。わかっているじゃないか。君は支えてくれた人を見殺しにするのか。」
「そんなことしたくないわ。でもやり方、助け方がわからないわ。」
「それは心が足りないからだ。」
「何を言ってるのよ。アタシの心は今ここにあるわよ。グスグス。」
亜里栖は鼻をすすった。目にも涙が溜まって今にもこぼれそうである。
「そんな泣き虫には心はない。」
「あんたにアタシの何がわかるっていうのよ?」
「わからないさ、虫の気持ちなんて。前にもここで同じことがあったよな。」
「怖いのは相手じゃない。相手を恐れる自分の心の鍵をこじ開けることじゃないのか。心の中に隠れているもの、いろんなものがある。すべてをさらけ出すことは難しい。しかし、恐れる心は開いたら必ず得られるものがある。君はそれが何かわかるか。」
「それって、ゆ、勇気?」
亜里栖がそう呟いた時、秀太郎はいなかった。
「よし。勇気をもらったわ、じゃなくて、じゃなくて、自分で勇気を見つけたのよ。これはアタシの力なんだからねっ。」
自己実現を果たしたと自己主張しながら、ひとりで生徒会室に乗り込む亜里栖。
「魔道具の硬貨も準備してるわ。あとは気持ちだけよ。」
亜里栖は、『勇気、勇気、勇気』と幼稚園児のように唱えながら歩いている。
「あいつに言われたから、こんなことしてるんじゃないんだからねっ。」とひとりツンデレもしっかり実行中なのは亜里栖のペースである。
ずんずんと校舎の廊下を歩き、ついに到着した生徒会室の前では、手のひらに、勇気と書いて飲み込んだ。
「頼もう!これって一度言って見たかったのよ。ウフフ。」
努めて明るくふるまって笑顔を作った亜里栖。
「くせ者~!でやえ~!」
黒サングラスたちも、なぜか亜里栖に合わせて、時代劇がかった防御の掛け声で、亜里栖に立ち向かっていく。
「今度は前のようにはいかないわよ。先生の魔法の使い方をしっかり勉強してきたからね。」
亜里栖は金貨を右手に持って、左右に振り回すと、次々と金貨の中から金貨が飛び出していく。それは黒サングラスのメガネを直撃していく。
「「「「「「「「ぐわああ。」」」」」」」
一瞬にして黒サングラスを倒した亜里栖。
「生徒会長はどこよ?黒いのを全部やっつけたから、質問する相手がいなくなってしまったわね。アタシ、失敗したかしら。」
反省の弁的なことを言いながら、達成感に溢れた顔をしている亜里栖。