【第二章】第二部分
「検査部っていったい何なの?部っていうんだから、部活?」
「うん、部活のひとつだな。銀行内部の各部活について、行則に従って活動をちゃんとやっているかどうかをチェックする部なんだよ。」
「なんだか、すごくイヤな役割の部活ね。」
「そうだね。銀行員にとっては、同じ行員でありながら、敵のような存在だよ。」
「敵?それは穏やかじゃないわね。」
「銀行員にとっては自分の仕事を外部チェックされ、あまっさえ不備や行則違反があれば自分の処遇にマイナスになるのだから、イヤな相手というほかないよ。イヤがられる部活だから、みんな黒サングラスで顔を隠しているらしいよ。その真意は不明だけど。」
「先生が検査部に拉致されたということは、何か行則に違反したということなの?」
「さあそれはわからないけど、表向きの理由はそういうことになるな。先生はもしかしたらあの調査をしてたのかも。」
「あの調査?」
「いや、何でもない。とにかく先生を探そう。」
こうしてふたりは銀行の中をあちこち回ってみるも検査部は一向に見つからない。
翌日。行内の掲示板に一枚の人事発令が貼られていた。それを見る多数の生徒たちの中に、亜里栖と美散も含まれていた。
『人事発令通知
萌江田萌絵
本日付けで教師ランクを現在のCからEに変更する。』
「美散。この教師ランクって何なの?ここの学校は、教師の業務遂行能力をAからでEにランク付けしてて、資格に応じて、学級担任や学年主任、教頭や校長になれたりするんだよ。萌江田先生はCランクだから、担任をやってて、かつ学年主任に登用される可能性もあったけど、これで平教師になっちゃったみたいだね。」
「え~っ。じゃあ、担任じゃなくなるってこと?」
「そうだよ。それに従い、給料もかなり下がることになるね。」
「かわいそう。しかし、どうしてそんなことになったんだろう。」
「さあ。銀行員の賞罰については個人情報だからなあ。ここは学校の廊下で女子たちのヒソヒソ話が聞こえてくる。」
「萌江田先生のことなんだけど。」
「なになに?」
「ここだけの話なんだけど、萌江田先生は債権回収に手心を加えたことが内部規定に違反したらしいよ。」
「ええっ?そうなの?」
「しっ。声が大きいよ。検査部に聞かれたらどうするのよ。」
ふたりの女子の前に黒サングラスが現れた。黒サングラスは女子をじっと見ていたが、そのまま去っていった。
「あ~。危なかった。壁に検査部あり、障子に検査部あり、だね。」
ふたりの一般女子の話は亜里栖と美散にはしっかり聞こえた。
「先生はまだ戻ってきてないし、検査部に拉致されたままだと思うよ。」
「そうなの?でも検査部の場所はわからないし、どうしようもないわね。」
「何だよ、その諦めムードのセリフは!」
「だって仕方ないじゃない。それに先生を助ける義理なんかないわよ。」
「わ、わたしにはあるんだ。先生には大きな借りがある。」
「美散、本当に検査部に乗り込む気?場所もわからないのに。」
「場所はわかっている。検査部は生徒会の実質下部組織だ。生徒会に行けば何かわかるはずだよ。」
「ちょっと、美散、すごくヤバそうな感じだわ。」
「そうさ。わたしは危険な女なんだよ。もう行くぞ。」
「美散はずんずんと強い足音を立てながらひとりで進んでいく。」
「ちょ、待ってよ!」
右手を伸ばして、美散を追いかける亜里栖であった。
「生徒会室ってどの階にあるのよ。」
「ここにはないよ。別棟なんだよ。」
美散は学校の敷地を出た。