【第二章】第一話
魔法銀行では、体調を崩す生徒が増えていた。
亜里栖と美散が、学校の廊下で立ち話をしている。
「風邪が流行ってるらしいのね。春のうららかな季節なのに。」
「それって風邪なのかな?五月病で体調不良になってるのかもしれないけど。顔色悪い生徒をよく見かけるよ。」
「ふ~ん。そうだわね。アタシの見立てでは、何か裏があるような気がするわ。」
「劣等生の直感は当たるからな。」
「何ですって!」
亜里栖と美散は引き続きパートナーとして、銀行員の課外授業に参加していた。
会話は相変わらずかみ合っていなかったが、口論になるようなことはなかった。三次元直線ベクトルは交差しなければ永遠に交わることはないが、感情ベクトル真っ直ぐではない。ゆえに、時間をかければ、少しずつ軌道修正されて、どこかで交差することもある。
そんなふたりの前に異変が起こった。廊下にいる生徒たちがざわついている。
黒いサングラスにスーツの男たちが、小さな物体を引っ張っている。よく見ると、物体は盛んに動いており、遠目に動物であることが確認された。
「動物じゃないですぅ!いや生物分類上は動物だけど、フツーは人間と表現するですぅ。」
両手を左右の黒メガネに繋がれたミニスカロリス。ひところ流行った金星の宇宙人のようである。
「先生!オトナの人たちに、何遊ばれるてるのよ?」
「遊ばれてるんじゃないですぅ。これは立派なラスプーちん、ですぅ。」
「先生、その表現はそこはかとなくヤバくない?」
「ラスプーチンじゃなくて、拉致ですぅ。このオニイチャンたちに拉致されてる最中ですぅ!」
「拉致?それは穏やかじゃないなあ。ちょっと、お兄さんたち、どうして擬似幼女を誘拐しようとするんだ?」
「擬似は余計ですぅ。いや、幼女もオーバーですぅ。先生はせくすぃなオトナ女子ですぅ。そんな話じゃなくて、このオニイチャンたちは銀行検査部の人たちですぅ。先生は内部検査で内部規定違反が見つかり、ショッピングですぅ。」
「検査部にしょっぴきされたということだね。」
あっという間にミニスカロリスの姿が見えなくなった。