【第一章】第二十部分
それを見た亜里栖も慌てて追随した。
狭い店舗兼住宅なので、ふたりともすぐに一階に着いた。
道路に出て見ると、日中なのに人通りの少ない商店街。
「ここはホント寂れているねえ。これはあんたのところも同じだね。」
「どさくさ紛れて、人のことをバカにしないでよ。ま、まあ、当たってないと言えないこともないわ。」
「身内でくだらない会話をしている場合じゃないじゃん。あたいとの勝負はまだ終わってないじゃん。」
いつきは竹刀を右手から左側に一閃。
「イタイ!」
竹刀はバットの動きよりも速く、美散はまともに喰らってしまった、それも顔面である。
「決まったじゃん!」
『パリ、パリ』
何かが折れた。美散の顔面が真っ二つに割れた。
亜里栖の顔から、血の気が一気に引いていった。
「ちょっと、約束が違うんじゃないの。あんた、ヒロインなんかじゃないけど、銀行員がいくら悪徳でも、この流れならば最後に逆転するというのが、メインシナリオじゃないの?」
「お、折れたさ。」
「まさか、顔が割れて心が折れたっていうことなの?」
「メガネが折れた。」
「それなら顔は無事だったんでしょ。どうせ、メガネで隠さないといけないようなブスにきまってるけど。素顔は見て見たいわね、アタシの優越感がもろ手をあげて待ってるわよ。」
「見たな~。」
「ついさっきどこかで同じセリフを聞いたわよ。」
美散の素顔を見て、いつきと亜里栖が同時に感想を述べた。
「「目がクリックしててかわいい。」」
「クリッ、クリッだろ!自分で言うなんて、恥ずかしいよ~。」
美散の瞳は少女マンガの主人公っぽいつぶらで、星が輝いていた。三つ編みとは実に似合っている。
「何これ?スゴイ、いやスゴくないけど、かなりの美少女じゃないの?ま、まあアタシには負けてるハズ・・・だけどね。」
「だから、メガネレスはイヤだったんだよ。こんなの暴力だよ。野蛮だよ。野獣死すべし、野次馬地滑りだよ。うわああああ!」
美散は顔を両手で隠して、内股で走って逃げ出した。その姿は完全に乙女チックであった。
「言葉の暴力ならわかるけど、非難するようなことは何も言ってないし。どこか暴力なんだか、わからないわ。」
「これは見たことによる暴力じゃん。翼が折れたアホウドリは、何をされても恐怖を感じるものじゃん。」
「突然アホウドリが出てきても何の説得力もないわよ。よ~し。邪魔なメガネがいなくなって、真打ち登場よ。」
「腰巾着がずいぶん居丈高じゃん。壊れた扇風機のように空回りするだろうじゃん。」
「言ってくれるわね。こちらは最新鋭の大損羽根なし扇風機なんだからねっ。」
「おっ!大損こいてる扇風機だな。それで強力な風でも吹かせるつもりなのかじゃん?」
亜里栖は慣れない手つきで金貨を取り出して、頭上に掲げた。
「銭形平次モード!風は風でも固い硬貨のそれよ。しっかり受け取りなさいよ。」
金貨は三枚に分かれてゆらゆらと飛んでいく。硬貨は不規則に変形しておりかなり不恰好である。
いつきは、うら若き女子にはあるまじき仕草の鼻ほじりをしながら、あくびをしている。
「これって、マジックショー?それにしてはエンターテインメント感に欠けるじゃん。」
ゆらゆら硬貨は、いつきに届かず地面に墜ちた。
「ちょっと、魔法のかけ方を失敗したようね。サルも木から落ちておっちょこちょいするわ。」
ブツブツ言い訳しながら硬貨を拾い上げる亜里栖。魔法が解けたのか、一枚に戻っている。
「アハハハ。今のが魔法だったなんて、説明されないとわからないじゃん。」
亜里栖は同じ動作を繰り返すが、結果はほとんど同じ。むしろ魔法を使って疲労が嵩み、変形硬貨の飛行距離は短くなっていった。