【第一章】第十八部分
「それまで持っていく気なのか?」
「そうだよ。魔力マネーの払い出しは、このハードからしかできないことを知ってるからね。持ち帰って、流出防止をするんだよ。」
「庶民のささやかな楽しみすら奪うのか。こ、このひとでなしじゃん!」
「銀行員は銀行員であって、ヒトには分類されないんだよ。守銭奴という目だな。ワハハハ。」
「もう堪忍袋の緒が切れた。これは非常用にとっててもったいないんだけど、仕方ないよ!」
いつきは紙幣を取り出した。岩倉具視の五百円札である。
「五百円札?そんなものがあったのね。百円ショップに行けば多少の足しにはなるわね。それにしてもかなり使われたみたいね。アイロンかけて伸ばしてるみたいだけど、細かいシワが残ってて、汚れも付いたままだわ。」
「店のことだけでなく、魔道具のこともバカにする気?もうぜったい許さないじゃん!」
いつきは五百円札を振り回すと、バットがでてきた。
「この魔導具で、その冷血銀行員根性を叩き直してやるじゃん。」
いつきは片手で紺色のバットをビュンビュン振り回して、美散に迫ってくる。
「ほほう。生活魔法だけでなく、攻撃魔法も使えるんだねえ。面白いから、かかってきな。そういうことであれば、こちらも紙幣を使おうかな。」
美散はメガネの中の黒い瞳を光らせて、財布からお札を取り出した。こちらもバットに変わった。色はくすんだ緑色である。
「なけなしのお札をこんなことに使わなければいけないのはツラいけど、それだけ重い十字架を背負っているということだからな。それっ!」
紺色バットがいつきの頭上を襲う。
「ほ~い。」
ニンマリしながら、くすみ緑バットを額にかざすと、そこに吸い込まれるように、紺色バットがぶつかる。
『パーン。』
片方のバットが真っ二つに割れて畳の床に落ちた。もちろん紺色バットの方である。
「これは貨幣価値の差かなあ。五百円と二千円って、四倍も違うからねえ。二千円って、別に金持ちってワケでもないのに、奇妙な優越感に浸れるねえ。こんなにオトクな気分の二千円札って初めてかも。特別な体験をさせてくれてありがとう。」
さらに喜色満面な美散。
「気色悪いじゃん。もうホント、ムカつく女じゃん。もうこうなったら、奥の手を使うじゃん。」
いつきが取り出したのは、聖徳太子のお札である。
「あらら。ちょっと古くて高いお札を持っていたんだねえ。1万円だと、わたしの5倍の価値ってわけかな。でも発行枚数が多いから、プレミアはほとんど付かないよ。」
「そんなことは知ってるじゃん。このお札をその性根の腐った目でよく見るじゃん。」
これはいやちょっと違うね。」
「そうに決まってるじゃん。これは現在価値では旧1万円札をはるかに超えるものじゃん。」
「なるほど。これはレアなものだね。聖徳太子さんは7種類のお札に登場しているけど、昭和19年の百円札が最もプレミアがついているようだね。」
「少しはモノがわかってるじゃん。ならばこれを使ってみるじゃん。」
いつきの手には、バットではなく、竹刀が握られていた。全体が黒光りしており、なかなり使われていたことが窺われる。
「おお、これはバットより古い時代の武器になったんだねえ。」
「このお札は、亡くなったおじいちゃんからもらった大事なものじゃん。こうしておじいちゃんの思いが伝わってくるじゃん。ぐすぐす。」
戦闘中にも拘わらず、いつきは涙目になっている。




