【第二章】第十七部分
「二階も調べよう。住居部分も調べないとね。」
「ちょっと、待ってよ。いくら借入を延滞してるからと言ったって、そんなところまで踏み込むなんて、不法侵入じゃん。」
いつきもさすがに怒ってクレームをつけてきた。
「不法侵入?つまり、あたしの、いや銀行の回収行為をそう位置付けるワケだね。ふふん。」
再び鼻を鳴らした美散。後向きで、いつきに視線を送っている。
「ではこの紙切れは何かなぁ?」
美散が示したのは事務所にあった電気料金の請求書。
「そ、それがなんなんだじゃん。」
返した言葉が少し震えているいつき。
「ほら、まともな電気使ってないって、顔に書いてるよね。」
「ギクッ!」
いつきは顔の色を失った。ダサい化粧の上からでもわかるような変貌ぶりである。
「このダサい女子にいったい何が起こってるのよ?」
事情がさっぱりわからない亜里栖は、眉間にシワして美散に詰問した。
「さっき請求書を見たら、電気料金だけでなく、ガス料金も払ってなかったよ。しかし、この暮らしぶりから電気、ガスを使ってないなんてあり得ない。つまり、まっとうな電気、ガス以外のエネルギー使用をしているということになる。あとはあんたでもわかるよね。つまり、魔力をエネルギーに変えたということ。それは国家使用だとか、特別に認められた場合を除いて、魔力の不法使用と結論付けられるっていうことになるよ。」
いつきがあっけにとられているうちに、どんどん差し押さえしていく美散。
美散は二階のいつきの部屋にズケズケと侵入した。
「これは回収財源の足しにはなるな。」
美散の視線の先には、いつきの妹の机があった。
「これこれ。延滞債務者は、返す魔力マネーがないとかいいながら、保証人ではない家族に隠しているものさ。」
「それだけはやめて!それは小学生の妹の進学資金じゃん。あたいがだらしない分、勉強に頑張ってる妹には、ちゃんとした道を歩いてもらいたいという両親が貯めた魔力マネーじゃん。」
「貯める魔力マネーがあるなら、返済しろっていうんだよ。むしろ、魔力マネーを隠す格好ないい場所っていうヤツじゃないのかな。」
「どうしてそんなことまで知ってるじゃん?まだ新人銀行員っぽいのに。」
「新人?これは立派な課外授業なんだよ。給料もらってやる以上、責任があるんでな。隣の人みたいに、新人だから知りませんなんて顔はしないよ。業務知識は自分で習得するさ。」
「ポンコツ新人オーラ出してて、悪かったわね。」
「本気でそう思うんだったら、ちゃんと勉強しなよ。あっ、厳密に表現するなら、自己啓発っていうんだけどね。」
「自己啓発?つまり、自分で自分を啓発するっていうこと?」
「読んで字のごとしだよ。社会人の勉強とはそういうものさ。アマチュアの女子高生とは違うんだよ。さあ、無駄話をやめて、他にも魔力マネーを隠していないかな。あったよ。」
美散が指したのは、クマさん貯金箱である。無形資産の魔力マネーが入ってるだけなので、固形の物体は本来不要なのであるが、貯蓄意欲増進のために、貯金箱の上にパネルがあり、画面上でいくら入っているのか、確認できるようになっている。入金は電子的にできるシステムである。




