【第二章】第十六部分
「あんたの家って、寂れたスーパーストアなんだよね?」
「寂れたっていうのは余計だけど、どうして知ってるのよ?」
「パートナーのことで仕事に支障がないか、調べるのは当然だよ。」
「調べるって、パートナーはついさっき決まったばかりじゃないの。」
「パートナーになってから何分経過してるんだよ。すぐに調査は完了してるよ。たとえば、上から78、56、80とか。抉れてるかと思ったよ。」
「ええっ!そんな個人情報をどこから入手したのよ?って、そ、それは、ガセネタよ。こ、この通り、85でK点超えよ。」
滑舌と歯切れ悪く、制服の胸の部分を引っ張りっている亜里栖。
「何、ムキになってるんだよ。そのお手盛り山の下が空洞化してることは、絶対的真実なんだから。わたしはみっちゃんを遂行するよ。」
「ここでもみっちゃんが登場するの?」
亜里栖の言葉をスルーして、ずんずん進んでいく美散。
「待ちなさいよ、待ってよ。いきなり侵入は不法侵入じゃないの。」
「わたしたちは債権回収をしてるんだよ。法的にも問題ないよ。そこのオバチャン。魔導中央銀行学園から来たよ。」
頬かむりに割烹着のオバチャンが店の奥から現れた。
「見たな~。」
「キャー、お化け!じゃない、オバチャンだわ!」
「オバチャンって、お化けカテゴリーじゃないだろ!」
「オバチャンって、お化け同然だわ。」
「それは認めるじゃん。」
「あっさり白旗あげるのかよ!」
「だって、あたいはオバチャンじゃないじゃん。『広重いつき』って言う名前もあるじゃん。」
お化けオバチャンは頬かむりを取った。
「ギャルだわ!」「ギャルだよ!」
茶髪のポニテ、長いつけまつげに、真っ赤なルージュに、濃いめの頬紅。よく見ると、割烹着の下は超ミニスカで、ルーズソックスも装備している。
それを見た亜里栖と美散は同時に感想を述べた。
「「ギャルって、無~い。ギャルモドキ~。」」
「ガ~ン。どうして、これのどこがギャルモドキなんだじゃん?でもなぜかみんなそう言うじゃん。あたいにはそれがわからないんだけど。よよよ。」
突然大粒の涙を流して、嗚咽するギャルモドキ。
「「あんた、鏡を見たことがあるの?割烹着にルーズソックスって、あり得ない!」」
亜里栖・美散の同音同議語による連続攻撃となった。
「だって、だって、ウチにはお金がないじゃん。これって、上から下まで母さんの若い頃のお下がりじゃん。」
「どおりで。それはかわいそうだわ。」
憐憫の表情を浮かべる亜里栖とは対照的に、事務的な顔つきで、店の中に入るとすぐに、棚に並べられてある本を物色し始めた美散。古そうな物を手にとって、定価を調べている。
「そこそこ価値のある物もあるね。換価性もありそうだね。よし、商品全部差し押さえっと。」
差し押さえの赤い札を貼り付ける美散。
こうして店の在庫を押さえた美散。実に手際がよい。
「本屋から本を取ったら何も残らないじゃないの。売り物がなくなれば百%倒産するわ。」
美散の腕を取って止めようとする亜里栖。
「こいつは通常の貸出先から回収部門に移管された相手だからな。」
「どういうこと?」
「3ヶ月以上の延滞がなければ融資部門が担当するけど、それを超えた以上、新たな融資はできないし、回収優先。それが銀行業務だよ。店内の奥を見よう。」
そう言って店舗奥の狭い事務所に入っていく美散。机の上に置いてある小さな紙切れを手に取った。電気、ガス、水道料金請求書である。
その内容を一瞥して、ふふんと鼻を鳴らした美散。




