【第一章】第十五部分
スマホにパートナーの名前は表示されているため、亜里栖の相方である三つ編みメガネは、満潮美散という名前であることを亜里栖は知っていたが、ここまでは互いに名前を呼ぶことはなかった。
そうこうしているうちに、目的地に到着した。
「ここって本屋さん?ずいぶん古びてるわね。」
「この店は魔法書を取り扱っていて、かつてはかなり繁盛していたみたいだけど、インターネット書籍の普及で売れなくなったようだね。ただ、店主は多少の魔法が使えたことで、魔法書とセットで魔法を指導してわずかに売上を維持してたみたい。でも魔法書は仕入れ価格が高額で、だんだん売れなくなって、在庫が過剰となり、資金繰りが悪化して、魔力マネー借入返済が滞るようになったという帰結だね。」
「借入が必要となる仕組みがよくわからないわ。仕入れするとどうして資金繰りが悪くなるのよ?」
「こんな簡単な理屈がわからないの?やっぱり劣等生だね。魔法書を仕入れするのにお金がいるわけだよ。手元の預金があればいいけど、高額本は借入して仕入れ、つまり買わないといけない。買った本は、在庫になる。その在庫を売って、初めて自分の手元にお金が入る。そこから経費や利益を引いて残った部分を銀行借入の返済に充てるということだよ。」
「ムダに詳しいわね。ヒマそうにしてるだけあるわ。」
「あんたが勉強不足なだけだよ。この学校に来る生徒は、授業料負担が厳しい家庭の子が多いけど、社会の基礎を学ぶために来てるわたしのような生徒も、いるんだからね。さしずめ、あんたは多数派のようだけど。」
開店時間を過ぎているが、商店街にはシャッターが降りている店舗も多い。その商店街の中でもひときわ古くて錆びた二階建ての本屋。横看板には、『魔法書店 とらねこのあな』とある。看板に猫穴があいている。
「名前のスケールが小さいわね。」
亜里栖は小声でさらに一言付け加えた。
「ウチのスーパーによく似てるわね。」
これは美散には聞こえなかった
「こんなボロボロの今すぐにも潰れそうな店は、おばあちゃんが店主に決まってるね。」
美散はそう呟きながら、店内に入ろうとした。
「ちょっと、待ちなさいよ。いきなり取立る気なの?」
「正式には債権回収と言うんだよ。」
「ものには順序があるでしょう。ここは二階建てだから、二階は住居部分よ。生活感が滲み出てる相手なんだから、そこを踏まえて対処しないと。アタシにはよくわかるんだから。」




