【第一章】第十四部分
「あら?ここはどこ?」
「アリス、お帰り。今日はずいぶん遅かったなあ。パパはパチスロでトントンだったからな。引き分けは勝利扱いだぞ。わははは。」
「お父さん!?・・・って、ここはうちじゃないの!またパチスロに行って、仕事してないじゃないの。働きなさいよ!」
亜里栖はそれまでに起こったことをすっかり忘れてしまった。家庭における日常は心を開放して、気持ちを狭くした苦しい思いを一掃してくれるものである。
秀太郎は生徒会室に戻っていた。残っているのはひとりだけである。
「今日は居残り当番で正解だったね。でも今日のお別れ挨拶ができなかったのはちょっと失礼だったかな。まあ、また明日も何かあるだろうし、いいか。」
苦笑いしながら、窓の外の曇った月を眺める秀太郎であった。
翌日の課外授業も教師はミニスカロリスである。球場に全員集合している。
「昨日はひとりの落第生が出ましたですぅ。ケガをした生徒さんもたくさんいましたが、もう治りましたね。魔導中央銀行員は心も体も強くないといけませんからですぅ。」
特にクラスでは反応はなく、みんなが沈黙している。
「今日からは実戦となります。侵入銀行員の仕事はシンプルですぅ。」
「先生、その文字では逮捕される気満々になります。」
昨日と同じく、三つ編みメガネが軽くツッコミした。
「漢字なんてどうでもいいのですぅ。先生は国語の教師ではありませんからですぅ。これからいくらでも漢字でも言葉でも間違えますですぅ。それがなんだということですぅ。プンプン。」
マウンドで地団太を踏むミニスカロリスは、砂の城を固める幼女にしか見えない。
「今日は融資した魔力マネーの回収に行ってもらいますですぅ。多くの相手さんは貸した魔力マネーの返済が遅れている人たちですぅ。借りている人たちを通常、債務者さんと言いますですぅ。債務者さんの中には厄介な人もいますですぅ。これは通貨がお金であった時代も今も同じですぅ。債務者さんは魔力マネーの返済ができない相手ですから、魔法に回す魔力余力はないと思いますが、十分気を付けてくださいですぅ。」
「先生。魔力回収はペアで行くんですよね?」
三つ編みメガネが真面目な顔でミニスカロリスを見ている。
「そうでしたですぅ。大事なことを言い忘れていましたですぅ。もうパートナーは決まっていますから、手元のスマホ端末機で確認してくださいですぅ。回収に魔力マネー使用が必要ならば、その程度の魔力マネーはスマホに入っていますから安心してくださいですぅ。なお、ふたりで回収に行く理由は危ないからではありませんですぅ。回収した魔力マネーの10%がボーナスとなって、みなさんに還元されますが、その取り分を争ってもらうためですぅ。取り分の分け方は自由ですから、話し合いで決めるもよし、戦闘するもよしですぅ。でも殺し合いはあまりオススメではありませんですぅ。ケケケ、ですぅ。」
ミニスカロリスの眼は、いやらしく光っていた。
「さあ、回収フィールドで乱舞らんでぶーするですぅ。パートナーは球場の外に出れば自動的に引かれあうようになってますぅ。魔法の能力や相性、将来性などを総合的に勘案した結果で決まっていますですぅ。」
ミニスカロリスの言葉が終わるやいなや、蜘蛛の子を散らすように球場を出る生徒たち。外に出ると、磁石でくっつくように、次々とカップルが誕生していく。中には男女カップルもあり、顔を合わせられないような組み合わせもできているかと思えば、いきなりリア充化しているカップルまで出現している。
亜里栖はというと、バレンタインデーにチョコが一個ももらえなかった負け犬モブ男子のように、ブスッとしていた。パートナーも似たような表情である。
「どうしてあんたがここにいるのよ。先生にツッコミを入れる漫才コンビがお似合いじゃないの?先生が天然ボケの材料を大量仕入れして待ってるハズなんだけど。」
「ハックシュ。あれ?風邪でも引いたかなですぅ。ちーん。」
鼻をかむミニスカロリス。その仕草もかわいい。
「わたしこそ、劣等感フルスペック劣等生が相方だなんて、いやなんですけど。」
「劣等、劣等って、アタシに自己暗示をかけようったって、そうはいかないんだから。」
「自己暗示なんかしゃないよ。ただの現状認識だよ。」
「なんてこと言うのよ。このクソ真面目メガネ!」
「誰がクソだよ!」
「ムカムカ~!」
「ムキムキー!」
にらみ合いは目的地までの道すがら、果てしなく続いた。




