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【第一章】第十三部分

いちばん近い場所、グラウンドと場内への出入口の錠に番号が振られていなかった。

 亜里栖は、手当たり次第にいろんなカギを穴に突っ込んでギリギリやるが、それはまったくの無駄であった。

「悪魔の仕業だわ。だいたい、これだけのカギを毎日開けたり締めたりするのは、同じ時間経過を長く感じてしまうという理論の証明になってしまうわ。」

 1行で相対性理論を解説した亜里栖であるが、自分の時間問題は全く未解決である。

「こんなの1個1個合ってるかどうか確認すること自体、天文学的だわ。1000個から1個当てる確率は・・・。それをずっと続けていくと、1枚で300円が当たる宝くじが100枚買えるわ。」

 脳内パニックになり、計算ができなくなった亜里栖。

「も、猛ダメだわ。こんなのアタシにはできないわ。」

 ダメのレベルを最大値にした亜里栖は、首と両腕を垂れてゾンビ状態である。

 ゆるゆるとマウンドに行って、逆転ホームランを打たれたピッチャーのように四つん這いでうなだれる亜里栖。

 マウンドの土が少しずつ涙の雨で濡れていく。

 照明のない球場でしくしくと泣いていてもどこにも響くことはなかった。

 そんな中でセンターバックスクリーンの付近から、一筋の明かりが見えてきた。

「心を折るのがこんなに早いとは思わなかったよ。カルシウムが不足しているようだね。牛乳をたくさん飲まないとね。」

「あ、あんたは秀太郎!?どうしてこんなところに来たのよ。アタシをバカにしようとでもしているのね。」

 顔を上げることができない亜里栖はマウンドに向かって言葉を搾り出すのがやっとである。

「あ~あ。せっかくの美少女が台無しだねえ。でも美少女にこんな肉体労働を強いるのは間違ってるね。こんなことは魔法でやるしかない、っていうかいつも当番が魔法で開け締めやってるのに、それを人力でやるなんて、神業でも不可能だよね。ということで、こうするよ。仕事取っちゃうけどね。枚数が千枚は必要だから、この場合はこれを使うべきかな。」

 秀太郎は10円玉を手に取った。青いさびまできていることから相当に古いものとみられる。それを目の前に持ってきて、呪文を唱えるとゆっくりと膨張して、ブタ貯金箱ぐらいの形と大きさになった。

「1000枚なんて大して大きさじゃないんだね。これだけあれば十分かな。じゃあ、戸締りをしてもらおうかな。」

『ボン!』

 哀れにもブタは爆発して、そこからカギ型に変形した10円玉が四方八方に拡散していった。

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『ガシャガシャ』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』

 あちこちで金属がぶつかる音がした。

「あ・・・。」

 亜里栖は暗くてよく見えない中で、開いた口を閉じることがなかった。観客ゼロだったので、美少女の間抜け面を世間に晒すことは回避された。

「これで『みっちゃん完了』かな。普段は生徒会の誰かが最終点検をしているんだから、日直の仕事程度だけどね。」

 あっけにとられていた亜里栖だが、徐々に落ち着きを取り戻してきた。

そして亜里栖の表情は暗がりの中でも緩んできた。苦しい中から解放されたという安堵感は何よりの精神安定剤である。

「助けてくれなんて頼んでないんだから、お礼なんて言わないわよ。それにどこが出口なのか、暗くてわからないわ。」

「あっ。いけない。それはそうだね。外からの点検しかしてないから、そこに気づかなかったよ。そのカギ千本から探し出すのは1000分の1の確率だからちょっと時間がかかるし、もう遅いからこうするのがいいよね。」

 今度は50円玉を取り出した秀太郎。やはり呪文を唱えると、50円玉は薄く大きくなり、天使の輪のように頭上に広がった。

「それでいったい何をするのよ。」

「お金には夢がある。夢の先に君を連れて行ってあげるよ。」

 秀太郎は亜里栖をぐいと引き寄せて、体を密着させた。

「きゃあ。セクハラする気ね。先生を呼ぶわよ!」

「ミニスカロリス先生は警察権限を持っているから、通報はごめんだよ。だからさっさと終わらせようね。課外授業の終了時間もとっくに過ぎているのだから。」

 大きくなった50円玉は密着したふたりをスキャンするように、上から降りてきて足元までくぐらせた。するとふたりの姿は球場から消えた。


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