【第一章】第十一部分
他の生徒たちも横黄泉に苦戦していた。というのも、扇形カマボコの個々の板には刃がついており、おいそれと近づけない形になっていた。
「ぐわあああ。いた~い!」
勇気あるのか、無謀なのかわからないが、大きくした硬貨を突っ込む者もいたが、それは扇形カマボコの刃でボロボロになり、その破片でケガをする者が続出した。
そんな中で、亜里栖の隣にやってきた三つ編みメガネ。
「みんな、こんなのに手こずるなんて不思議だね。」
わざわざ亜里栖の隣にやってきて、言葉を発した三つ編みメガネ。
三つ編みメガネは無表情で金貨を取り出した。それを頭上に掲げた。
それを見て、亜里栖の眼が点になった。
「そ、それって、アタシのと同じ硬貨じゃないの!」
「あら、そうなんだ。でも今持っていないみたいだね。今、あんたの相手してるヒマないし。」
三つ編みメガネは放送席のミニスカロリスのところに行って枚数の報告をしていた。
そのまま再び亜里栖の横に来た。
「ちょっと、あんた、どんな魔法を使ったのよ?」
「そんなこと説明する義務はないよ。ひとつだけ言うと、硬貨を魔法でどのように使うのかは魔法使いそれぞれだからね。後は自分で考えなよ。」
三つ編みメガネは、そのまま球場の外に出ていってしまった。
他の生徒たちも硬貨以外の武器を使って扇形カマボコを止めたり、部分的に破壊したり、自ら傷を負ったりしながらも、枚数カウントをクリアしていった。
魔法の使い方がわからない亜里栖には、他の生徒たちのミッションクリア方法が全然わからないまま、時間だけが経過していった。
亜里栖が気づくと、球場には自分ひとりだけとなっていた。
球場の照明も落とされて、中はかなり暗くなっている。
いまだに縦読みのままのカマボコの前にポツンと立つ亜里栖の前に、ミニスカロリスがやってきた。
「一本木亜里栖さん。今日の課外授業はこれで終わりですぅ。みっちゃんがクリアできませんでしたから、残念ながら今日の給料はなしになりますぅ。」
「先生、もうちょっと待ってよ。何とかするから。」
「魔道具である硬貨なしではどうしようもないですぅ。先生は忙しいのですぅ。それにさばかんごときができないような生徒であれば、とっとと魔導中央銀行員をやめた方がいいですぅ。」
「でも硬貨がないだけだから、明日はちゃんと持ってくるから!」
「それはどうでしょうか。なんなら、先生が融資するからやってみるですぅ。」
ミニスカロリスは亜里栖に一枚の硬貨を見せた。1円玉である。相当にキズがあり、古さを物語っている。間違いなく『昭和モノ』である。
「先生が使ってみるということ?」
「そういうことですぅ。硬貨なんでも魔法が使えるというものではありませんですぅ。魔力が込められるだけの『過去』が硬貨には必要ですぅ。これには過去が入ってますから、このようにできますぅ。」
ミニスカロリスは小さな体の前に一円玉を掲げて、軽く放り投げた。すると、1円玉はアメーバーのように分裂して2個になった。1円玉は空中に浮いたまま、さらに分裂を繰り返して、100枚ぐらいまで増殖した。