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【第一章】第一部分

「よ~し、いい具合に回ってるぞ。今度こそ、これで一獲千金だ!ワハハハ。」

タバコをくわえた中年オヤジが、公衆電話のような機械の前に座っている。よく見ると、周りにも老若男女が並んでいる。いかにもガラの悪そうな者ばかりである。

射幸心を煽るような『ガラガラ~』という音を立てて機械が動き出した。

公衆電話のごとき機械は、スロットマシンであり、そのドラムが回っているが、レバーなどは付いていない。自動的にぐるぐる回転しているように見える。

10個のドラムは『またハズレか~!』という叫びをスルーして、無慈悲に停止した。


ここは小さな食品スーパーストアの奥にある事務所内の休憩室である。女子中学生とさきほど帰宅した中年男性がテーブルに着いている。女子中学生は眉間に深いシワを寄せている。

「お父さん、またギャンブルで負けたの?あれだけやめてって言ってるのに。いい加減にしてよ!」

「いい加減じゃない。真剣勝負で運がなかっただけだ。次は必ず勝つ。正義は遅れてやってきて、最後には勝つんだ。ワハハハ。」

「何、毎度おなじみの妄想に耽ってるのよ。フケルのはトシだけにしてよね。もうそろそろアタシの高校受験なんだけど、入学金とか学費とかいろいろかかってくるんだよ。かわいい制服代もいるし。」

「高校だと?今のパパには『魔力マネースロット投資』という強い味方がいるんだぞ。いい目が出ればハイパー大儲けだ。」

「何を言ってるのよ。毎日そのギャンブルに明け暮れて、スーパーの経営を放置してるじゃない。まさに放漫経営だわ。」


かつて投資世界を席巻した仮想通貨。投資額の何万倍にも値上がりしたあと、乱高下を繰り返して、投機筋を大いに潤した反面、大多数の素人投資家、つまり庶民は大損した。要は庶民から投機筋へ所得移転しただけだった。

しかし、仮想通貨への投資はさらに勢いを増して、市場に溢れ返り、当時の基軸通貨ドルを凌駕した。結果として、仮想通貨の偽造変造が氾濫した。悪貨は良貨を駆逐するということわざはこれに由来する。

この反省から、価値に変動が極めて少ない通貨は何かということを各国で多角的に検討した結果、魔力が選ばれた。魔力は特定の魔法使いからしか生み出されない。偽造変造もできない。しかも価値が劣化しない。万国共通のものでもある。

こういった理由から、魔力が基軸通貨となったのである。これを『魔力マネー』と呼び、通貨単位として『MM(ダブルエム)』と略された。つまり、魔力マネーは通貨の呼称、MMは円、ドルと同じような意味で使用された。

企業の売上、利益などはすべてMMで算定され、スーパーや小売店で商品を買うにも魔力マネーが使われた。

実際の買い物では、スマホをレジにかざすとMMが引き去りされるので、極めてお手軽であった。

魔力マネーは通貨としての役割だけでなく、購入物件に魔力を通す(通魔)と長持ちしたり、故障に強かったり、燃料を使わなくても魔力マネー供給で稼働したりするという新たな発見もあり、瞬く間に魔力マネーは世界中に流通し、基軸通貨となったのである。

なお、魔力マネーがどこで製造されているのかは、防犯上、隠されていた。

「今はどこのスーパーで魔力マネーを使ってるし、それを使わないと買い物ができないわ。うちのスーパーは魔力マネー支払いをするのに、魔力マネー通貨変換端末機の導入が遅れたからお客さんが離れてしまったんじゃない。それは時代の流れをキャッチできなかったお父さんの経営判断ミスなのよ。ギャンブルにうつつを抜かしているからこんなことになったんじゃない。近所に大型ショッピングモールができて、そこは端末機完備の上、品揃えが豊富で低価格だし、うちのお客さんもそっちに流れたのよ。」

「パパだって、端末機の必要性、重要性はわかっていたさ。でも端末機はスゴく高価なんだよ。それを買いたくても預金がなく、銀行に借入相談に行ったけど、うちのような弱小スーパーに貸すカネはないと言われて門前払いだよ。だから、ギャンブルで魔力マネーを稼ごうとしたけど、うまくいかなかったんだよ。オヨヨ。」

わざとらしく、はらはらと落涙する父親であった。

「学費がいらなくて、かつ給料がもらえる高校があるのを知っているか?」

「何よ、それ。そんなのいかがわしいところに決まってるじゃない。」

「いかがわしくはないぞ。そこは魔導中央銀行で、そこは高校を併設してるんだぞ。ほら、これが入行案内だ。入学ではなく、入行って言うんだぞ。カッコいいだろう。」

「どこがよ。なんだかオヤジくさいような気がするわ。アタシはそんなところには行かないわよ。勉強頑張って進学校の特待生になり、授業料免除を狙うわよ。」

「授業料免除の要件は好成績。」

父親がポツリと言った瞬間、亜里栖は旧式パソコンのようにフリーズした。

「せ、成績なんて今から勉強すればいくらでも上がる、、、かもしれないわ。可能性はゼロではないわ。」

「ああ、ゼロではないだろうけど、ハイヒール履いても、一パーセントにも届かないだろうな。」

父親の言葉に沈黙するしかない亜里栖。

「で、でも奨学金とかの制度もあるし、なんとかするわ。とにかく魔法なんてまっぴらなんだから。」

「行方不明になったママの手掛かりは魔法なんだけどなあ。」

「う。」

亜里栖は口を開けたままになった。

「ほら、アリス。パパの言うことは正しいだろ。」

「で、でもその学校に行ったとしても、ママの手掛かりが見つかるなんて保証はないわよ。」

「でも他の高校じゃあ、可能性はさらに低くなるぞ。」

「それでもお母さんと違って、アタシは魔法が使えるかどうかなんてわからないし。」

「いやきっとそれは大丈夫だ。」

「どうしてそんなことが言えるのよ?これをごらん。」

父親が一枚の紙を亜里栖の顔の前に吊した。入学誓約書と書かれていた。

「何これ?それに『娘さんの入学に伴い、支度金1万MMを入学祝いとして差し上げます。』って書いてあるわよ。お父さん、最近羽振りがいいと思ったら、このお金を使ったってこと?」

「そうだよ。でも安心しなよ。ギャンブルで負けてほとんどなくなったけど、アリスの制服や本代だけはしっかりキープしておいたから。エラいパパを誉めておくれ。」

「この~、バカオヤジ!そのお金、店のために使わなかったのよ~!」

亜里栖は素手素足で父親を容赦なくボコボコにした。



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