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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アンノウン・ブリッジ

作者: 阿部 道満

新年一発目です。


連載作品の方も遅筆で更新が不定期になりますがよろしくお願いいたします。

昼休み、教室はいつものように喧噪に包まれていた。そんな中、村瀬はわれ関せずと本を読んでいた。


「なあ、村瀬、知ってるか?」

 昼休みに気分よく読書をしていると不意に佐藤に話しかけられた。

「何がだよ。主語が無いと解らんぞ」

 大方、今朝のニュースでやっていた不審死の事だろうが俺の至福の時を邪魔した礼だ。

「全く、相変わらずの理屈屋だな。つぐみ橋近辺の怪事件のことだよ」

 と言うとスマホを取りだし、これだこれ、とニュースの画面を見せてくる。

「ほらここ、『怪事件相次ぐ! 被害者の怪しい失踪と精神崩壊は呪いか妖怪か?』だってよ。ほら先月から失踪者多いだろ、で見つかったら全員錯乱しているってヤツいかにも怪しいとは思わないか?」

「下らない。それで妖怪の仕業か? 大体は科学で説明つくだろ。重要なのはなぜ失踪したのか、なんで錯乱しているかだろうが」

 全くこの記事書いたやつはなんて非常識なんだ。

「本っ当にお前この手の話嫌いだよな」

「科学で証明できないことはない、というのが俺の持論だ。例えば吸血鬼とかの一応アリシンアレルギーと鉄分不足のアルビノで説明が付くぞ。それから……」

 そこまで言うと何かげっそりとした様子で佐藤が制止する。

「いや解った。とりあえず解ったからそこまでにしてくれ」

 なんだ、これからが良いところなのに、仕方ないこの辺にしておくか。

「つまり妖怪などこの世に存在しえない、現実にはただの特異な生物に過ぎない」

「ちょっと待ってもらおうか」

 話を切り上げようとした瞬間、無駄に自信にあふれたやたらと暑苦しい声に遮られた。

「なんだ木村お前にかまっている暇はないんだよ」

「さっきの発言聞き捨てならんぞ」

 自分でも顔が強張っていくのがわかる。なんで俺が喋っているといつも割り込んでくるんだよ。

「吸血鬼は串刺し公と言われたグラド・ヴァン・ドラクル公が祖とされており、その血脈は連綿と現代に受け継がれている。第一に僕はそんな西洋かぶれ吸血鬼を由緒ある妖怪とひとくくりにするな」

 木村が何やら暑苦しくのたまわっているが、俺は気にせず

佐藤に話しかける。

「なんでこんな話になったんだっけ?」

 無視するな! という声が後ろから聞こえるが黙殺して話を戻す。

「つぐみ橋の事件のことだよ。妖怪の仕業じゃないかって話」

 佐藤も俺と同じく無視して話を続ける。

「それでよ、件の橋に行ってみないか」 

は? コイツナンテ言った。佐藤の言った言葉が理解できずに一瞬固まってしまった。立ち直ってふと後ろを見ると、先ほどまでうるさく持論を展開していた木村も先ほどまでの自分と同じように脳が理解を拒んで固まっているようだった。

「すまない、もう一度言ってくれないか。何かとんでもない聞き間違いをしたような気がするんだけど」

「聞こえなかったのか。今夜つぐみ橋にいてみないかと言ったんだよ」

 あっけらかんとして佐藤は言い放った。仮にも事件のあった場所にいこうと言ったのだ驚かない方がおかしい。

「正気か、君は。仮にも事件のあった場所に行くとか危険極まりないだろう」

 俺もこればかりは木村に同意する。妖怪うんぬんは関係なく現場に行くのは危険すぎる。

「おいおい、慌てるな。何も現場に行こうってんじゃない単に橋に行くだけさ」

 なるほど確かに事件は橋の近辺でこそ起きているが、橋自体では起こっていない、あくまで中心というだけだ。

「事件はつぐみ橋を中心にして起こっているからなんかわかれば金一封ももらえるかもしれんだろ」

 確かに金一封は魅力だし何もないならそれはそれだ。

「それにお前たち普段から科学とオカルトで論争してるだろ。いい機会だから実地で勝負してみたらどうだ。」

 なるほど、それは面白いな。

「そこまで言われては行かないわけにはいかないな。まあ結果は見えているがな」

 俺がそう言って木村の顔を睨む、口角を釣り上げると向こうも同じ様にして返してきた。

「僕も望むところだよ」

 と木村が言った瞬間、予鈴の鐘が鳴り響き、周囲でざわついていた奴らが五時間目の用意を礎始める。

「じゃあ、そういうことで今夜の八時につぐみ橋の前で集合な」

佐藤がそう言うや否や二人は自分の席に戻っていった。


俺が集合時間の十分前に到着するとすでに佐藤は橋の少し前にある電柱にもたれかかって待っていた。

「早かったじゃん。もう少し時間ピッタリに来ると思ってた」

 佐藤は俺に気付くと背中を電柱から離して話しかけてきた。

「俺は十分前行動を心掛けてるんだよ」

 と言うと、佐藤はそうかと頷いた。そこからしばらく話し込んでいると木村が若干息を切らしながら走ってきた。

「すまない。少し遅れたか?」

 木村が呼吸を整えながら俺たちに問う。

「いや、時間ぴったりだ。ギリセーフだな」

俺がそういうと木村はペットボトルを取りだし、水を飲んだ。木村が回復するのを待って俺達は橋に向かって歩き出した。

「しっかしこう、夜の橋っていかにもな雰囲気あるよな。なんか引きずりこまれていくような」

橋が見えると佐藤が不意に弱音のようなものを漏らした。

「なんだ言いだしっぺのくせにビビっているのか? まあ橋や水辺は古来より異界に繋がっているとされているからな。注意した方がいい」

 佐藤の少し後悔した表情を見て木村がからかうが、木村も若干声が震えている。仕方ない少し和ませてやるとするか。

「馬鹿な事を言うな。この橋の不思議な感じは橋の形のせいだよ。」

 俺が木村に反論すると少し緊張が解けたのか佐藤が聞いてくる。

「橋の形のせいってどういうことだよ」

「遠近法って美術の授業で習っただろ。この橋は中腹が狭くて両端が広いうえに装飾が左右に長い物と短い物、そして前後の一をずらしているから遠近感がマヒしておかしく感じるんだよ」

 俺が手でハの字、逆ハの字を作って説明してやると納得したんのか溜息をついた。そして橋の通服に差し掛かったところで不意にヒュー、ヒューという音が聞こえた。

「な、なんだこの不気味な鳴き声は。野犬か」

 突然の声に佐藤がビビりまくるが、正直恐がりすぎだと思う。というか誘ったくせに一番怖がるとは情けない。

「ビビりすぎだろうが、あれはつぐみの鳴き声だよ。確かトラツグミだったかは夜にこうやって鳴くんだよ」

 この変じゃ珍しくもないだろうに、そう思って木村にも同意を求めようと顔を向けると木村は川の方を向いたまま震えあがり何かつぶやいていた。

「う、産女うぶめだ! 畜生、赤ん坊の声がすると思ったらやっぱりこいつか、だが慌てることなかれ対処法はわかっている」

 何か自分に言い聞かせるようにひとしきり呟くと、なにを思ったのか靴を脱ぎ。これがお前の子だ、と叫んで川に投げ入れた。何をしているのかと思い、川の方を覗いてみると半裸で赤ん坊を抱いた女が立っており、ゆっくりと水をかき分けこちらに向かってくるのが見えた。

「な、何故だ。履物を投げ入れれば収まるはず……。嘘だろ、来るな、来るな来るな」

「なに馬鹿なことしてんだよ。明らかにヤバいだろうが、逃げるぞ」

 動揺しきっている木村を何とか立ち直らせた、佐藤にも逃げるように言おうとしたが、すでに逃げる態勢になっていた。

「オセェぞ、お前ら、早いとこ逃げるぞ」

 そういうや否や脱兎のごとく走り出していった。全く、こういう時だけは逃げ足が速いな。


 しばらく走っていき橋の近くにあるコンビニに入り込んだ。俺達三人は雑誌のコーナーに陣取り人心地ついた。

「ようやく一息つけるな」

 明かりのついた場所に来て安堵したのか佐藤は一息つくとスマホで警察に連絡を入れた。そんな中、木村はいまだ震えて、青い顔をして何事か呟いている。

「来る、来てしまう。ああ、奴が……」

「なんだまだ怖がってんのかよ。今通報したからすぐ警察が来てくれるから安心しろよ」

 あまりのビビりぶりに見かねて佐藤が話かけるが木村は間に合わない、とつぶやくばかりで一向に落ち着く気配がない。

「村瀬、ちょっと木村見ててくれ。俺なんかジュース買ってくるよ。なんか飲みゃ落ち着くだろ」

「了解。ついでに俺にもなんか買ってきてくれ」

 俺のセンスに期待すんなよ、と軽口をたたきながら飲み物を買いに行った。

「おいおい、妖怪が単なる変質者だったからって落ち込むなよ。幽霊の正体見たり、枯れ尾花って言うだろ」

いい加減独り言も耳障りになってきたので、やりたくはないが落ち着かせにかかる。

「違うんだ、あれは僕の勘違いだった、産女なんかじゃない」

「それはそうだろ、こういってはなんだが、ただの人間、変質者だろ。お前が聞いた赤ん坊の声も結局トラツグミの声だったみたいだし」

 俺が不信な目を向けると木村は慌てて否定してきた。

「そうじゃない、僕の知ってる限りで赤ん坊のようにもツグミのようにも、佐藤が聞いたっていう野犬の鳴き声にも聞こえる鳴き方をするヤツが一匹だけいるんだよ」

 そこまで木村が説明したとき背後で悲鳴があがった。

 振り返ってみると目の前には黒く脈動する巨大な不定形塊が佐藤を飲み込もうとしていた。

「た、助けてくれ。死にたくない、頼む、後生だから」

 飲み込まれていく佐藤を直視してしまった俺は腰を抜かしてしまい、恐怖のあまり一歩も動けなかった。

 やがて黒い塊は佐藤の体すべて飲み込むと一層脈動を強くした。そして何かかが折れ、砕けるような音と共に佐藤の断末魔が辺りに木霊した。黒い塊は脈動をやめると豚肉の腐ったような異臭を放ちながら、緩慢かんまんな動作でこちらに迫ってきた。俺達は震える足に鞭打ち死ぬ気で逃げ出した。

「なんなんだよあれは」

 俺は必死に走りながらまだ事態のわかっていそうな木村に話しかけた。

ぬえだよ多分、あいつは正体がわからないヤバいやつなんだ」

 なんなんだそれはと言いながら肩越しに背後を窺う(うかがう)とさっきまでの緩慢な動作とは一転して素早い動きで迫ってくる黒い塊が見えた。

「このままじゃ、追いつかれる、二手に分かれよう。助かった方が助けを呼んでくる。いいな」

 俺がそう提案すると木村はわかった、と言い丁字路のところで二手に分かれた。

後ろを見るとどうやら俺の方に来てしまったみたいだ。


それから、俺は走り続けた。いくら撒いてもまたすぐ背後に迫ってくる。そうしているうちにまた橋に来てしまった。

 とうとう走れなくなり、橋に倒れこむ。もうダメか。と思い腕で顔をかばうが一向に襲ってくる気配がない。腕をどけてみると。黒い塊は橋の欄干より入ってきていなかった。

俺はよくわからないがひとまず命が助かったことに安堵すると呼吸を整え、蠢く(うごめく)だけの塊を一瞥いちべつするとまた走り出した。


 どれくらい走っただろうか。おかしい、もう橋を抜けてもいいはずなに一向に端が見えない、それでも恐怖から走り続けていると靴が片方ない人間が倒れているのを見つけた。

 俺は木村だと思い駆け寄抱き起こすと、木村の体が崩れ落ち、一瞬のうち俺はあの黒い塊に取り込まれてしまった。

 薄れていく意識の中、微かに声が聞こえる。

「全く今回は大漁だったな、中途半端に知識のある奴だったから恐怖を得るのも簡単だったぜ。光栄に思えよこのぬえさまがのし上がる為の糧となったことをよ」

 嘘だろ。妖怪なんかいないはずなのに、そう思うと視界が開け、あの黒い塊が目に飛び込んできた。

「まだ、意識が有りやがるな。こいつ、なになに妖怪なんか存在しない? これは俺がいまわの際に見ている幻覚だ、か」

 思考を読まれた何故だ?

「ほう、お前はこうすると恐怖を感じるのか。なるほどやれ物理学だのを中途半端にかじってるから物理でわからないことになると途端に怖くなるか。」

 なんでだ、どうしてわかるんだ。いや、冷静になれきっとあの塊にも何か仕掛けが……

「仕掛けなんてねぇよ。まあ、一応種明かしをするとここは俺の作り出した異界だ。だからなんでもおれの自由にできる。こんな風にな」

 そういうと鵺は脈動し、佐藤の姿になった。

 なんだと、嘘だ、理解できない理解できない……。

「ようやく壊れたか、こいつは少し毛色が違うがこういった恐怖も悪くないな。しかし生徒に化けるっての初めてやってみたがこれはいいな。肝試しの一つで簡単に誘い込めちまう」

 


 数日後、昼休みの教室、その一角で女子生徒数名が談笑していた。

「ねえ、知ってる? 隣のクラスの村瀬君の話」

 女子の一人がおもむろに切り出す。

「なんでもつぐみ橋の近くで発見されたんだって、それで村瀬君は錯乱、ずっと妖怪はいるってつぶやき続けてるんですって」

「マジで? あの石頭があんなになっちゃうなんて在り得ナクナイ」

 話しかけられた女子生徒が否定するが気にも留めず続ける。

「それがマジみたいよ。なんでも見てはいけないモノを見てしまったみたいで」

「ソンナのあるわけナイべ。もしあるなら見てみたいヨ」

 別の女子生徒がそう軽口をたたくと、喋っていた女子は一呼吸置き話し出す。

「じゃあ、ツグミ橋に行ってみよっか」







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