第9話 ゲームだけどゲームじゃない
「「いよいしょー!」」
店の棚を入り口に持ってきた俺達は、ようやくそれらを使ってバリケードを完成させた。
「これでスーパーとホームセンターの入り口を封鎖できたな」
モンスターの死体を外に捨てた後、商品を抜いた棚を入り口まで持ってくるのは一苦労だった。
レベルアップした筋力がなければもっと大変だったぜ。
「この後はガラス窓も封鎖するぞ。まずはダンボールか何かで外から見えなくするんだ」
「モンスターに中を見られない為か?」
「そうだ。夜に灯りがもれたら困るからな」
成程。確かに真澄の言う通りだ。
「じゃあホームセンターに売ってるデカいダンボールを使うか。ついでにあの子の様子も見に行くか?」
「だな」
あの子、さっきのゴブリンとの戦いで巻き込まれた女の人の子供の事だ。
俺達が気付いた時には母親に抱かれて死んでいた為、今はホームセンターの売り物だった布団で眠らせている。
「まだ眠ってるな」
女の子が布団で眠っているのを見て俺は小声で喋る。
見た目は5,6歳って所か。
可愛い女の子だ。将来はきっと美人になるだろう。
髪は背中まで伸びていて、白いワンピースを着ている。
本当は黄色の服を着ていたんだが、母親の血で汚れちまっていたから、身体をきれいに拭いてから服コーナーの子供服を適当に着せてやった。
ここが複数のテナントが入ってるスーパーで良かったぜ。
「この子が起きたら母親の事教えないといけないな」
今から気が重いぜ。
「いや、まだ教えない方がいいだろう。こんな状況で教えてもパニックに陥るだけだ。最悪ここから飛び出して母親を探しに行っちまう。だったら母親は怪我をしていたから病院に連れて行かれた。けど俺達は車に乗る前にモンスター襲われたから店の中に逃げ込んで立てこもったって言った方がこの子も安心するだろう」
むむむ、そういう考え方もあるか。
たしかにこんな小さな女の子に、君のお母さんは君を守る為に死んだんだよなんて言えないわな。
この子の母親は店の冷凍庫の隅に毛布で来るんで置いてある。
さすがにモンスターの居る外に出て埋葬する訳には行かないからな。
するにしても今の俺達はLvが低い。
埋葬するならLvを上げて強くならないと。
「そら、気持ちを入れ替えて作業を再開するぞ」
「ああ」
俺達は女の子を起こさないように静かに移動し、ダンボールとガムテープ、それにカッターを持ち出して篭城作業に戻るのだった。
◆
「できた……」
アレから数十分かけて、店のガラスにダンボールを貼った俺達は、冷蔵する必要の無い商品をおろしてフードコート側のガラス窓にバリケードを組んだ。
そしてホームセンターのほうの窓にも木材や棚を積んで、漸く一息できるまでになったのだった。
結構な重労働でした。
「コレで完璧だな」
「ああ、食料が尽きるまでは何とかなりそうだな」
「食料が無くなったらどうする?」
「どこかに補充しに行くしかないが、俺達がここに立てこもっている以上……」
よそも同じか。
最悪、他のスーパーは俺達以上に人が集まっている可能性がある。
「じゃあ畑作って種蒔くか? ホームセンターだから園芸用の土や種もあるし」
「素人に出来る訳無いだろ」
呆れた目で見られた。
けど食料はいつか無くなるわけだし……あっ!
「そうだスキルだよ! スキルで農業とか取ればイケルんじゃね!?」
我ながらナイスアイデア! 真澄もその手があったかと言う顔をしている。
「そうだな、俺もレベルが上がってる筈だし、戦闘以外のスキルを取得するのもありか」
俺達はポケットから携帯を取り出して【ワールド・エンド・ゲーム】を起動させる。
あれ? なんかメールに【NEW!】とか出てる。
「なんかメールが入ってるな」
「こっちもだ」
俺はメールを開封して中身を確認する。
『おめでとう! 拠点を確保した事でボーナスが入ります!
拠点解放ボーナスはスキルポイントが5点とベーススキルの解放です。
スキルは特定の行動、選択、実績により解放されます』
「おお、なんか新要素!」
成程、このゲームはクエスト達成型ゲームなのか。となるとスキルにも上位スキルとかありそうだな。
早速スキル取得ページに入ると、【NEW】のポップアップと共にベーススキルの項目が表示されていた。
「ベーススキルとは、拠点とした場所に様々な効果を与えるスキルです、か」
今回解放されたスキルは4つ【休息】【開拓】【開発】【防衛】の4つだった。
【休息】は拠点内で眠る事でHP、MPの回復が早くなる事。ただし毒や病気の状態異常は回復しない。
【開拓】は【農家】スキルや【酪農家】スキルの持ち主が畑や牧場を作ると、植物や家畜の成長が早くなったり病気に掛かり難くなるらしい。
そして【開発】は【鍛冶師】スキルなどの持ち主が物を作る際の成功率や品物の質が上がるのだそうだ。
最後の【防衛】スキルは建物やバリケードが硬くなったり、罠の威力が上がったり、するスキルみたいだ。
どれも拠点を生かす便利なスキルばかりである。
「けど今はまだベーススキルはいらないな」
「ああ、まずは自分達の強化が先決だ」
何しろ俺達はLv3と4だもんな。この拠点も何時まで居れるか分からない。
迂闊なスキルはとらない方が良いだろう。
「俺はLv3になった事でスキルポイントが2点、そんで今回5点で合計7点だな」
「こっちはさっきの戦闘でLv4になったから合計6点か」
俺は【投擲】を取得してるしな。
「Lv1スキルの取得には基本2P消費、けど【魔法】のクラススキルは5P。しかも魔法を使えるようになるだけで魔法を覚えるのに追加でポイントがいる。魔法はまだ諦めたほうがいいな」
真澄がスキル取得に必要なポイントが足りなくて悔しそうにしている。
そうなのだ。スキルには即効果をもたらすスキルと、【魔法】の様に才能を手に入れるクラススキルがあった。
そうしたクラススキルは取得する為のポイントが高く、更にそのスキルを使う為のポイントは別途消費。それだけでは飽きたらず、例えば【ファイアーボールLv1】の魔法を取得しようと思うと、【魔法Lv3】のクラススキルを取得しないといけないという前提条件があるものもあった。
「回復魔法の【ヒール】は5P、魔法スキルと合わせて10P必要か」
攻撃にしろ回復にしろ、魔法を覚えるにはスキルポイントが大量に必要だ。
「決めたぞ巧。俺は魔法スキルを取得する為にポイントを貯める!」
真澄が拳を握り締めて決意を表明する。
コイツもゲームは好きだからな。
ゲームをする時でも、真澄はどっちかと言うと現実世界では存在しない職業でプレイする事を好んでいたっけ。
珍しくはしゃいでいるようにも見えるが、それもさっきの母親の死体を見たからだろう。
責任感の強いヤツだからな。もっと早く親子に気付いていれば母親を死なさなくて済んだとか考えてそうだ。
あー、親か。俺はスマホをチラリと見る。
親に電話するべきか否か。
けど、もし親にかけて出なかったら?
もしも電話の持ち主が死んでいたら?
そう思うと、俺は家族に電話をかける気にはなれないのだった。
恐らくは真澄も同様の気持ちなのだろう。
家族を大事にする真澄がいまだに家に電話をかけないのだから。
「じゃあ【投擲】だけ取得しとけよ。店の屋上からモンスターを攻撃してLv上げしようぜ」
幸いここは投げるものには事欠かない。
Lv上げをするなら敵の攻撃の届かない所からチビチビダメージを与えるのが俺のプレイスタイルだ。
「そうだな、後でMPがなくなってもいいように物理攻撃の手段を確保しておくか。っと【投擲Lv1】取得だ」
よし、コレで暫くは店の屋上からモンスターを狙撃してのレベル上げ生活になりそうだ。