第3話 レベルアップ
次の更新は18:00となります。
『パララッララー!!!』
突然ファンファーレの音が鳴り響く。
「なんだ!?」
周囲を見回してみるが、誰かが楽器を鳴らしている様子は無い。
っていうか周りには誰もいない。俺と真澄だけだ。
もしかしてスマホが鳴ったのかと思い画面を見てみると、新しいメールが入っていた。
その件名に俺は目を点にする。
『レベルが上がりました』
「は?」
「おい、どうしたんだよ?」
訳のわからないメールに困惑していると、バケモノを羽交い絞めにしていた真澄がヨロヨロとふらつきながらやって来る。
「大丈夫かよ!?」
「ああ、なんとかな。見た目の割にはそんなダメージねぇよ」
力コブを作って大丈夫とアピールする真澄。
「けどまだ血が出てるぞ。保健室に行こうぜ」
「ああ、そうだな。けどコイツをどうにかしないと。起きたらまた暴れるぜ」
真澄の言葉にバケモノの事を思い出して慌てて後ろに飛び退る。
「うぉぉぉ!?」
軽く飛びすさったはずなのに、俺は教室側の壁に頭をぶつけてしまった。
「おいおい、ビビり過ぎだろ。コイツは気絶してるよ」
「いや、軽く飛んだ筈なんだけど」
「いやいや、走り幅跳びみたいにメッチャ飛んでたぞ。マジで」
マジかよ。もしかして俺スポーツの才能でもあるのか?
「けど縛るもんもないし、とりあえず武器だけ取り上げて先生に警察呼んでもらおうぜ。……つっても誰かとっくに警察呼んでるかも知れないけどな」
教室に縛る物なんてないし、コイツが使っていた棍棒だけ取り上げたあと、真澄の治療の為に保健室のある一階へ向かう事にした。
◆
さっきのバケモノの仲間がいないか警戒しながら保健室に到着した俺達だったが、何故か養護教諭の先生がいなかったので室内をあさって消毒と止血用のガーゼを探す。
「あったぞ」
真澄の傷口に消毒を塗ろうとしたが、流血が多くて傷口が分からなかった為、水道で傷口を洗わせる。
血を洗い流した真澄を椅子に座らせ、消毒用の綿をピンセットでつまんで消毒液に漬ける。
「消毒塗るぞー、染みるからガマンできるモンならしてみろー」
「なんだそりゃ、つっ!」
真澄の額に消毒を塗ってバイ菌を消毒する。痛がるのは消毒が効いている証拠だ。あのバケモノが変な病原菌を持ってない限りはコレで大丈夫だろう。
「あとワセリンを塗るといいんだっけか?」
「それボクシング漫画の知識だろう」
バレたか。
流石にマンガの回し読みしてるだけあってお互いの知識は共通してる。
俺は薬品棚にあったワセリンを塗って止血用ガーゼを傷口にあてた後、医療用テープで固定する。
「よっし完了」
「サンキュ」
真澄が礼を言ってくる。この程度の事、礼を言われるほどの内容じゃない。
真澄にはさっき助けてもらったしな。
「けどなんで先生は居ないんだ? 他の生徒の声もしないし」
「多分皆避難したんだろう。学校にあんなヤツが現れたらそりゃ逃げるさ」
「そっか。そういえばグランドにも同じヤツが居たし……」
そこまで言って俺と真澄は顔を見合わせる。
慌てて床に伏せたあと、そっと頭を上げて窓から校庭を除き見する。
「居るか?」
「わかんね」
上の階から見た時に居た緑の影が蠢いていた場所には何も居らず、しかし校庭の赤い染みだけがそこに何かが居た事を証明していた。
先ほどのバケモノの仲間が何処にいるか分からないと理解した俺達は、すぐさま保健室のドアを閉め、鍵をかけてから窓のカーテンも閉めて篭城の構えを見せる。
「なんか武器になるモンねーか?」
「ねーよ。精々モップくらいか」
「胡椒と柱時計が欲しいな」
ゲームか。
ん?……ゲーム?
そこで俺は先ほどのメールを思い出す。
メールに書かれていた言葉『世界はゲームになりました』という言葉を。
俺はすぐさまスマホを取り出し、メールの内容を確認する。
「なんだよ? ……って、さっきのメールか」
後ろから、真澄が覗き込んでくる。
「ああ、さっきの世界はゲームになりましたってヤツがさ、気になったんだよ」
あのメール、内容といい幾らなんでもタイミングが良すぎる。
俺はメールの文面をもう一度読み直す。
『神様は欲望のままに生き、信仰を無くした人間達の姿にとても悲しんでおられます。それゆえ、神様は人間に試練を与える事になさいました。それがこのワールド・エンド・ゲーム。この世界はゲームになりました』
ここまではさっき読んだ。
問題はこの続きだ。
『詳細は貴方の携帯にインストールされたプログラム【ワールド・エンド・ゲーム】をご覧下さい』
こけた。
「ゲームかよ!」
なんだよこの『詳しくはWEBで』のノリは。
「これか?」
真澄が自分のスマホを確認すると、そこには羽根の生えた地球の絵の下にWEGと書かれたロゴが表示されていた。
俺もメールを閉じるとスマホ内のアプリを確認する。
そこには真澄のスマホに入っていたものと同じ、インストールした覚えのないアプリが入っていた。
「俺のスマホにもあった」
アプリを起動させると、ワールド・エンド・ゲームというタイトルが表示される。
俺はスタートをタップしてゲーム画面を開く。
切り替わった画面には【お知らせ】【ステータス】【スキル取得】【アイテム】【図鑑】【マップ】と書かれた項目が現れる。
俺はNEWというポップアップが表示されたお知らせを見る。
画面が切り替わり『世界がゲームになりました』『ストーリー』『ゲーム目的』『システム案内』『聖域』『スキル習得』『魔法習得』『レベルが上がりました』と表示される。
俺は順番に内容を確認していく。
最初の『世界がゲームになりました』はメールの内容と同じだった。
次のストーリーを見る事で、俺達は世界に起きている出来事を理解する事になる。
神より生まれし人間達は、何時しか驕り高ぶっていた。
争いに明け暮れ、神への祈りを失った彼等は滅びに向かって突き進む。
神は嘆いた。
人間を生み出したのは間違いだったと。
だから神は人間を滅ぼす事にした。
そして生み出されたのは人間を滅ぼす為の存在【ワールドキャリア】
モンスターを無限に生み出すワールドキャリアが人間だけを滅ぼす。
しかし神は少しだけ悲しんだ。
己の生み出した子供達が消え去る事を。
故に神は人間にチャンスを与える事にした。
人間が悔い改め、再び神を信仰するチャンスを。
それと同時に神の庇護から離れるチャンスも。
それは人間に与えられた最後の選択肢。
神の子に戻るか、神の手から離れるか
決めるのは人間自身の決断。
「一昔前のゲームみたいだな」
「ゲームなんだろ」
次いでゲーム目的のメールを表示する。
『人間の皆さんはモンスターで溢れた世界で生き抜いていただきます。ですがモンスターは強く、普通に闘っていては簡単に殺されてしまいます。その為、人間の皆さんには2つの手段を与えます。
ひとつはマップに表示された星マークの場所【聖域】で聖域の結界に守られながら祈り暮らす事。
もう1つの方法は、魔物を生み出す原因であるワールドキャリアを倒す事です』
「これって聖域に篭れば魔物に襲われないって事か?」
「じゃねーの? 多分ゲームの町みたいな安全地帯って事だろ」
けどそれなら聖域でずっと暮らせばいいって事だよな。それはヌル過ぎねぇか? そんな疑問を覚えた俺だったが、その答えは聖域の文字の上に記された【ヘルプ】マークが解消してくれた。
ヘルプマークを押すと聖域についての詳細が記載されたポップアップが表示される。
『【聖域】とは、神聖な結界で覆われた安全地帯です。聖域の初期効果範囲は50
mとなっており、その範囲内なら低Lvの魔物は襲ってこれません。聖域は一度人間が入ると1日で結界の効果を失います。結界の効果を維持するには毎日神への感謝の祈りを捧げる必要があります。
聖域の効果は祈る人数と祈りの真剣さによって強化されます。
多くの人が真剣に祈る事で結界の効果範囲が伸び、強力な魔物ですらも侵入する事が出来なくなります。
【聖域】は複数の場所にあり、聖域同士の効果範囲が重複した場所は更に強力な結界となります。最終的に全人類がすべての聖域で祈りを捧げる事で地球上のすべての場所が結界の効果範囲となり、以前のように安全に暮らす事が出来る様になります』
「へー、じゃあ今すぐ皆で聖域に行って祈れば良いって訳か」
俺は意外と楽勝じゃねと思ったが、真澄がそれを否定する。
「いや、続きを見るとそうでもねーぞ」
「マジ? 祈るだけだろ?」
「ほれ、この先のここ読んでみろよ」
真澄に促されて続きを読むと、たしかに真澄の言葉は正しかったと理解した。
『ですが【聖域】の中では1つだけ決まりがあります。【聖域】の中では犯罪を行ってはいけません。中の人間が犯罪を犯せば結界の効力が弱まり魔物が侵入しやすくなります。また、全世界が【聖域】の結界に覆われた後でも、祈りを捧げる事を怠れば【聖域】の効果はなくなり魔物が復活します』
「なるほどなー。【聖域】の結界で世界を覆い尽くせば終わりじゃなくてダイエットみたいにその後もずっと祈りを捧げないといけない訳か」
「むしろ怖いのは犯罪を犯すなってヤツだな。どのくらいの犯罪から適応されるのか分からないから、最悪ちょっとした嘘でも犯罪扱いされるぜ」
あー、そらあかんわ。今のご時勢嘘を付いた事のないヤツなんていないだろう。
ヘタするとちょっとした嘘で町が即壊滅しかねんな。
まぁそんな事を今から心配しても仕方ないので、続きを読む事にする。
俺はワールドキャリアの上のヘルプを押して説明を表示させる。
『この世界にはワールドキャリアと呼ばれるモンスターを生み出すオリジンモンスターが存在します。
ワールドキャリアが存在する限りモンスターは無限に発生を続けます。
逆に、ワールドキャリアを倒せば、生み出されたモンスターは全て消滅します。
ですがワールドキャリアは非常に強力なモンスターです。
あなた方がワールドキャリアを倒したいのなら、多くのモンスターと戦いレベルを上げる必要があるでしょう』
普通に考えればワールドキャリアを倒す方が良さそうだよな。
一切の犯罪を犯せず、毎日祈り続けなきゃいけない毎日なんて窮屈な事この上ない。
つーか、既に犯罪を犯したヤツ等はどうなる? 犯罪を犯し今正に逃げている最中の犯人は? そういった連中がいる以上、世界中の人間が祈りを捧げるってのはムリだろう。犯人も神に祈る為に大人しく捕まるとは思えない。犯罪を犯す事で生活の糧を得ているヤツだって居るだろう。その行為を肯定する訳じゃないが。
けどモンスターと闘うのは危険だ。さっきだって一歩間違えてたら俺達は死んでいたかもしれない。
一般人がモンスターと闘うなんて、普通に考えたらありえない。
自衛隊みたいに闘う為の武器でも持っていれば別だろうけど、日本は銃刀法違反だからまともな武器が無い。まぁだからこそ日本は他の国と比べれは非常に安全な訳だが。
けれど、気になる言葉があった。
ワールドキャリアの説明で、コイツを倒したいならレベルを上げろと書かれていた事だ。
そしてさっきのバケモノ、いや、モンスターを倒した時に届いた『レベルが上がりました』というメール。その後の妙な身体の軽さ。
俺は立ち上がり、思い切り身体のバネを利かせてからジャンプした。
普通ならそのジャンプしても直ぐに地面に落ちる。
だが俺の体は上昇していく。
そして手を伸ばすと、その手が天井に付いた。
再びスマホに視線を戻し【ステータス】の欄を見る。
ステータスの上には俺の名前が表示され、その下はLv、その更に下にはディフォルメされた俺の姿が、左端にはHP、MP、筋力、素早さ、知力、器用さ、命中率、抵抗力、魔法抵抗力と書かれており、その下にスキルと書かれていた。
そして名前の下のLvは2と記されている。
さっきの戦闘で俺のレベルが上がったという事だろう。
俺達は黙々と説明を読み進めていく。
そうして、大半の内容を頭に叩き込んだ所で真澄がスマホを掲げて声をかけてくる。
「巧、どうするよ?」
「どうって?」
「祈るか? 闘うか?」
真澄は笑っている。
俺がなんと答えるか分かっているからだ。
そうさ、そんなの決まりきっている。
「ゲームになった世界だぜ、遊ばない訳が無いだろ!」
この世界を満喫する為の説明書はしっかり読み込んだ。
後は行動あるのみだ。
「決まりだな」
俺達は立ち上がる。
「「ワールドキャリアを倒して目指せゲームクリアだ!!」」