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第27話 夜明けのスライム

 午前3時、スライムの猛攻は激しさを増していた。


「すまん、時間だ」


 前日の夜中にイベントに参加した連中が次々と消えていく。

 今の数は同盟を組んだ当初の3分の2位に減っただろうか? 

 正直キツイ。

 隼人と皐月ちゃんの攻撃が成功しないと全滅も有りうる。

 まぁその時の対策は用意してあるので、全滅する事は無いだろうが重傷者や最悪死者は出る可能性が高い。

 そうならない為にも、2人には司令塔であるボススライムを倒してもらう必要があった。


 その時だった。俺達のいる埋立地を攻撃していたスライム達の一部が動き出したのだ。だがその動きは俺達を狙ってのものじゃあなかった。

 スライム達は俺達とは反対の丘のほうに向かっていく。


「どうやら隼人達がうまくやってくれたみたいだな」


 多分ダメージを受けたボスが助けを呼んだのだろう。

 だが流石に全ての味方を呼び戻す程馬鹿じゃあなかった。

 呼び戻したのはレッドスライムやストーンスライムといった、埋立地を攻めるのに適さないスライム達ばかりだった。

 残りのスライム達はここを攻める事の出来るスライムばかりだ。いや、足の速い銀色のスライムも呼び戻しているみたいだ。とにかく助けが欲しいらしい。

 もしかしたらボススライムは防御力は高いが、性能が指揮能力に偏重していて戦闘能力は対して高くないのかもしれない。

 最も、ソレを知るのは隼人と皐月ちゃんだけだ。

 俺達は迫り来るスライム達を何とかしないといけない。


「敵の数も減ったし、これなら何とかなるかな?」


 おっとその考えは良くないぜ恭一郎。


「駄目だ、ボスと闘っている隼人達の負担になる。二人を追ったスライム達を殲滅する必要がある」


「あっ!? でもどうやって? 僕達はここに逃げ込んだから一気に攻め込まれる事は無かったけど、逆にここに閉じこめられているんだよ!」


 だからこその奥の手だ。

 俺はかねてから用意していた奥の手を差し言った。


「大丈夫だ、アレを使う」


「あれって一体なんなのさ、あんな大きな氷の塊を何に使うわけ?」


 そう、恭一郎の言うとおり、俺が用意させたものと言うのは、巨大な氷だ。

 氷魔法の使い手達に頼んでひたすら氷の塊に氷魔法をかけて巨大な氷を作っていた。特に帰還直前の連中にはMP切れギリギリまで頑張ってもらっていた。


「こう使うのさ。全員、この氷の塊に乗り込め!!!」


 俺は率先して氷の塊に乗り込む。

 氷魔法の使い手達に頼んでなるべく平たい形状にして貰っていたから、バランスを崩して倒れることは無い。


「急げ! スライムに攻め込まれる前にコイツに乗るんだ!」


俺の意図の読めない参加者達だったが、スライム達の猛攻もあって俺の言葉に従い氷の塊に乗り込み始める。


「氷魔法を使える奴は氷の端を凍らせて面積を少しでも広くしてくれ!!」


「わ、分かった!」


 俺達が氷の塊に乗り込むと、今まで水際で防がれていたスライム達が埋立地に上がってくる。


「全員乗ったか!?」


「大丈夫だ!」


「よし、埋立地と繋がっている部分を炎の魔法で溶かしてくれ! 端っこだけだぞ!」


「なんか分からんが分かった! ファイアアロー!」


 炎魔法の使い手達が氷の塊と埋立地を繋いでいた部分に炎の矢を放ち、連結を溶く。

 すると当然のごとく氷の塊が動き出す。


「ね、ねぇ、動き出したわよ!」


 埋立地から氷の塊が離れ始め、涼華達が不安げになる。

 俺は大丈夫大丈夫と言いながら場所を移動し仲間達に声をかける。


「風魔法の使い手はこっちに来て、向こうに向かって自分のつかえる 一番強い風魔法を放ってくれ」


「風魔法!?」


「そうだ、皆が放つ風でこの氷の船を移動させるんだ!」


 つまりは帆船だ。

 ただし風が帆に当たる力で動くわけではなく、こちらが風を放ってその反動で動くのである。

 どちらかといえばホバークラフトに近いだろうか?


「よ、よしやってみる! ウインドハンマー!」


「俺達も行くぞ! ウインドハンマー!」


 風魔法の使い手達がいっせいに風魔法を使うと、氷の船が動き始める。


「おお、動いたぞ!」


 少しだが氷の船が動いて興奮する仲間達。


「向きがずれてる、Lv2の風魔法を使える奴はもっと右に寄ってくれ!」


「お、おう!」


 高レベルの魔法を使えるヤツが片側に偏っていた為、船が弧を描いてしまった。

 だがLV差が無い様に満遍なく配置した事で船の進路が安定する。


「スライム達がこっちに近づいて来るわよ!」


 敵の動きを見ていた美香が俺に警告をしてくる。


「全員弾幕を張って敵が攻撃できないように牽制してくれ! 一定距離まで離れたら防御魔法の使い手は敵の攻撃を防いでくれ!」


「わかった!」


「任せて!」


 よし、予定通り敵を埋立地に置き去りに出来た。

 連中は湖底を移動できるからいつかは抜け出せるが、それでも時間稼ぎにはなる。

 氷の船の最大の弱点である火属性攻撃を行うレッドスライムは、隼人達を追っているから氷の船が壊される危険も無い。

 本当ならあいつ等も誘いをかけて一網打尽にしたかったが、それは高望みというもんだ。

 船も氷魔法の使い手達が現在進行形で凍らせ続けているから湖の真ん中で壊れる心配も無い。

 あとは岸に着き次第敵の後ろを取ってレッドスライムを殲滅、MPポーションを補充しつつ隼人達の援護に入る。

 だが隼人達を優先して援護する人材も必要だ。


「大歳坊のオッサン」


 俺は大歳坊のオッサンに声をかける。


「みなまで言うな。隼人達の援護に廻れというのであろう」


 さすが、俺の頼みたい事は理解していたみたいだ。


「身体強化魔法の使い手である某ならばスライムの群れを突っ切って隼人達と合流出来る。そうであろう?」


「頼めますか?」


「任せろ、岸が近づいたら直ぐに向かってやる」


 頼もしいわ。

 これで隼人達の安全も確保できる。だからソレまで耐えてくれよ隼人、皐月ちゃん。


 ◆


「では先に行かせて貰う!」


 身体強化魔法をかけた大歳坊のオッサンが大跳躍で岸に飛び込む。

 普通の人間なら途中で湖に落ちていただろうが、身体強化魔法の使い手である大歳坊のオッサンはあっさりと大地に降り立った。

 そして音も無く地面を駆け、近くに居るスライム達の攻撃を軽々とかわしながら隼人達のいる方角えh向かった。


「めっちゃ早ぇ」


 しかし何時までも見送っているわけにも行かない。


「皆、船が岸に付いたら大歳坊のオッサンが向かった方角に走れ! そして隼人達が闘っているボスを倒すんだ! そいつを倒したらスライムは指揮官を失って動きが鈍くなる! そのスキを狙って全員離脱。朝まで逃げ回るんだ。 もう朝まで2

時間を切った。朝日が昇れば敵は弱くなって簡単に倒せるようになる。そしてもう少し頑張ればイベント終了時間だ! 気を抜かず最後まで頑張ろう!」


「「「「おー!!!」」」」


 終わりが近づいている事、そして倒すべき明確な敵がいる事が分かった彼等の士気が上がる。

 はやり明確なゴールラインが見えた方が人間ヤル気が出るもんだ。 


「よし、岸に付くぞ……出撃っっっっっっ!!!!!」



「「「「「「おおーっっっっっっ!!!!!!」」」」」


 全員が全速力で走り出す。


「邪魔だ! ファイアアロー!!」


「サンダースピア!!」


「ダークアロー!!」


 一直線に進む俺達が狙うのは正面の敵のみ。

 周囲に居るヤツ等は無視して前方のみに集中攻撃だ。

 残ったメンバー全員の攻撃が前方のスライム達を殲滅していく。


「フォースシールド!」


「ストーンガード!」


 側面からの攻撃は防御魔法を使える連中が防いでくれる。

 俺達は一丸となって、いや一匹の生命体となってまっすぐに突き進んでいた。

 そして前方にレッドスライム達の後姿が見える。


「「「「「アイスアロー!」」」」」」


 前衛が一気に氷の矢を放ちレッドスライムを殲滅する。


「MPポーションの材料になるレッドスライムを重点的に狩れ!」


「「「応っ!!」」」


「火属性魔法メインの奴は隼人達の援護に向かってくれ!」


「分かった!」


「回復魔法と防御魔法を使える奴も2人ずつ付いていってくれ!」


「任せて!」


「僕も行くよ!」


 これで回復と防御もカバーできるから、隼人達も戦闘が楽になるだろう。 

 後は埋立地に置いてきた敵が戻ってくる前に一体でも多く敵を倒すだけだな。

 俺はレッドスライムに攻撃を集中させてる連中を襲おうとしていたロックスライム達に炎と氷の魔法を放ち撃破していく。

 夜間補正の所為で強化されている為一発では倒せないが、それでも効果は高いらしく2発づつダメージを与えたら倒す事が出来た。


「レッドスライムを狩ったら次はロックスライムだ!」


「「「おおっ!!!」」」


 少しずつ数が減っていくスライム達。

 敵が減った事で全員の負担も減っていく。

 だが、それも僅かな間だけの喜びだった。


「ブルースライム達が来たわ!」


 後続の追撃に気付いた涼華が俺達に危険を伝える。

 予想よりも早いな。いや、それともよそうより遅いと言うべきか。


 俺はちらりと隼人達が戦っている方角を見る。

 すると、視線の先にある丘から、一際明るい光が立ち上った。

 その光はパステルでポップな輝きをした文字通りの星達だった。 


「アレは?」


 次の瞬間、ポケットのスマホが唸りを上げる。


「もしもし?」


 即座に受信を押して相手の言葉を待つ。


「あ、巧くんですか? やりました! ボスを倒しましたよ!!」


「っ!?」


 皐月ちゃんの言葉を聞いた俺は周囲を見回す。

 するとコレまで恐るべき力で暴れまわっていたスライム達の動きが急に鈍くなっていた。

 突然の変わり様に困惑する仲間達もいるくらいだ。


「巧君、これって……」


 敵の動きがおかしくなった事を悟った恭一郎が俺に話しかけてくる。

 俺は無言で頷いたあと、大きな声で叫んだ。


「隼人達がボスを倒してくれたぞー! もうコレ以上闘う必要なんて無い! 後は全力で逃げまくって夜明けまで時間を稼げぇぇぇぇぇ!!!!」


 仲間達が困惑した表情で俺見る。

 だが理解が及ばなくとも、敵の動きが突然鈍くなったのは事実。

 それはスナワチ敵の指揮官の消滅。

 そこで漸く仲間達は隼人達が勝利したのだと気付いた。


「皆、逃げるぞぉぉぉぉぉ!!!」 


「お、お、おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 走り出した俺に、全員が付いてくる。

 俺達が向かう隼人達の所。

 連中を回収する為だ。

 少し走ると隼人達が見えてくる。


「あ、巧さーん、見事ボスを倒しましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 俺はすれ違い様に皐月ちゃんを引っつかむと、彼女を小脇に抱えて走り出した。


「ちょ、え? 何ですか? 何で私抱えられてるんですかぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「お、おい、なんだよお前等? せっかく勝ったってのによ」


「だからよ!後続のスライムに追いつかれる前に逃げるわよ!」


「おぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 涼華と美香に腕を掴まれ、隼人が無理やり走らされる。


「ちょ、おま、あぶねぇぇぇぇ!!!」


 両手を捕まえれている為に走りづらくてかなわないらしい。


「お、おおおコケ、コケるぅぅぅぅっ!!!」


 夜の空には隼人の叫びが木霊した。


 ◆


「ここまでくれば大丈夫だろ」


 ずっと抱えてきた皐月ちゃんを下ろして地面にへたり込む。


「うぅぅぅぅぅぅ」


 ずっと抱えられたきた皐月ちゃんは目を回しながらフラフラしていた。

 気が付けば他の連中とははぐれていた。ここに居るのは俺達2人だけみたいだ。


「わ、私達逃げきれたんですか?」


「ああ、追っ手を撒く為に皆途中からバラバラに逃げ出したよ」


 そしてそれはうまくいった。


「ほら、あれ。夜明けだよ」


 長い長い夜の終わりを告げる光が、山の向こうから顔を覗かせていた。

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