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第26話 湖上の激闘

埋立地に立てこもって1時間が経過する。


「敵の攻撃が真ん中近くまで届く様になってきたぞ!」


「ブルースライムとグリーンスライムが湖底を伝って登ってきたよ!


 時間経過でまたスライムが強化された。

 更に水が苦手でないスライムも湖底を伝ってやって来る。


「悪い、俺達そろそろ……」


 イベント終了時間が来た参加者が申し訳なさそうな顔をしている。

 しかしその顔にはかすかにこの死闘から逃げ出す事の出来る喜びがあった。


「いや、良く頑張ってくれたよ。俺の頼みを聞いて魔法を取得してくれたしな」


「いや、魔法は俺達が覚えてもいいって思うヤツだったし、この時間まで生き残れたからな」


 そう言ってもらえると助かるわ。

 だが彼等が帰る前に確認しないといけない事がある。


「ところで、昨日の夜は逃げ待ってたって言ってたけど、その時もコレくらいスライムがそこらじゅうに居たのか?」


「いや、俺達がイベントに参加した時は昼間より多少多い位だったよ。こんなにスライムが出てきて驚いてる」


 嘘を言っている感じじゃないな。となるとやはりそう言うことなんだろうな。


「分かった。ありがとう。ところで最後、ギリギリまで頼みたい事があるんだけどいいかな?」


「ああ、イベントが終われば俺達は安全地帯に戻れるからな。MPもギリギリまで使ってやるよ」


「サンキュー、助かるよ」


 俺は彼等に最後の仕事を頼むと、他の残り時間の少ないメンツにも新しい作戦を頼みに行く。


 ◆


「じゃ、頼んだ」


「任せとけ」


 コレで一通り仕事は頼めた。

 次は隼人だ。


「おい隼人!」


 俺はスライムと闘う隼人を呼びつける。


「なんだ!? 今忙しいんだよ!」


「お前向きの仕事だ! ヒーローになれるぞ!」


 忙しそうな隼人だったが、ヒーローという単語に釣られてこっちにやって来る。


「どういう仕事だ? おいしいんだろうな?」


「勿論だ。さっき昨日の夜から参加した連中に聞いてきたんだが、昨日はそれほどモンスターが居なかったらしい。そこから俺が推測するに……」


「ほうほう、成程」


「そう言う訳で新しい魔法を取得して……して欲しいんだ。さっきお前のスマホに記載されていた……」


「アレか」


 隼人が自分のスマホを起動させる。


「ああ身体強化魔法を覚えたいお前には悪いんだが、この状況をなんとかする為にはこの作戦を達成させる必要がある。その為にもお前が覚える事の出来るこの魔法が必要なんだ」


 スキルポイントは有限だ。俺の頼みを聞くと言う事は、スキルを無駄に消費するに等しい。だが現状を変える為には隼人にこの魔法を覚えてもらう必要があった。


「分かったぜ! 俺にしかできない仕事、俺だけが覚える事の出来るこの魔法なら事態を打開できるってーんだろ? OKだ。やってやるぜ!」


「頼む。それが成功すれば一気に形成を逆転させられる」


「任せな!」


 そう言って隼人はスマホを操作した。

 新たな魔法を取得したのだ。


「じゃあ早速行ってくるぜ! エアウォーク!!」


 隼人が魔法を発動させ、ジャンプする。

 そしてジャンプした隼人は空中で更にジャンプをした。

 普通なら空中でジャンプをしても地面に落ちるばかりだ。

 だが隼人が覚えた魔法【エアウォークLv1】は短時間だが空中を歩く事の出来る魔法。

 つまり湖から一人だけ逃げ出す事の出来る魔法なのだ。


「巧君! 隼人が空を歩いてるよ!?」


 流石にチームを組んでいるだけあって恭一郎の反応は早い。


「ああ、隼人にはボスを探しに行ってもらったんだ」


「ボスってさっきの黒いスライムの事?」


 涼華に美香、それに皐月ちゃんもやって来る。突然隼人が湖の上を歩き出して驚いたみたいだ。


「いや、それは分からない。けどこのスライムの集中ぶりは異常だ。明らかにこのあたりのスライムが全て集まっている。昨夜からイベントに参加した連中からもこんなにモンスターはいなかったって言ってたからな。だからどこかにスライムを集めているボスがいる筈だ」


「つまりボスは一体じゃなかったって事?」


「そうなるな。そもそもイベント参加条件が魔法を覚えたらだからな。ボスが複数いてもおかしくはないだろ」


「「「「あっ」」」」


 どうやら考えてもいなかったらしい。


「てっきり倒して一定時間が経過するとリスポーンするのかと思ってた。けど参加する時間帯にずれが出るならボスが複数いた方が利に叶ってるよね」


 恭一郎の言うとおりだ。

 倒されたボスが時間経過でリスポーンするタイプだと、最悪ボスと全く遭遇せずにクリアしてしまう連中が出るだろう。

 そうなるとボス攻略特典が手には入らなくなる。

 このワールド・エンド・ゲームの運営が何を考えて居るのかは分からないが、ブラックスライムの倒し方とかを見る限り、決して攻略不可能な内容にはしないと思ったのだ。

 だから隼人にかけた。

 策は他にも在るが、敵を集める能力を持ったボスが隠れているのなら確実に倒しておきたい。

 そして隼人の性格なら俺達を見捨てて逃げ出したりはしないだろう。


 ◆


「悪い、もう時間だ。頼まれた仕事は出来る限りやっておいた」


「分かった。ありがとう」


「じゃあ、お先に」


 先行参加者達が次々とイベントから離脱していく。

 このまま夜が明けるまでにイベントから離脱する連中はもっと増えるだろう。

 早く隼人がスライム達を指揮しているボスを見つけ倒すのを待ちたいが、最悪の場合はその前に行動を開始する必要がある。


 と、その時だった。

 俺のスマホが振動する。


「来たか!?」


 ポケットからスマホを出すと、ディスプレイが光り着信を教えていた。

 そこに書かれていた名前は【隼人】。

 俺は即座に画面をタップして隼人と通信する。


「見付かったか!?」


『ああ、見つけた! けど硬くて俺の風じゃ攻撃が通らねぇ! もっと攻撃力のある奴じゃないと駄目だ!』


 なんてこった! ここで陸から離れた事が裏目に出るなんて。


「隼人は何て言ってるの!?」


 MPポーションで回復しに来た美香がこちらにやって来る。


「敵が硬くてダメージが通らないらしい」


「じゃあレベルの高い攻撃が出来る人を連れて行けば良いんじゃないの? あの魔法で人を運べない?」

 

 成程、それは試す価値が有りそうだ。


「隼人、その魔法は他人を運べるか?」


『分かんねぇ!』


 さよか。


「なら運べるか調べたい、一旦戻って来てくれ」


『了解だぜ!』


 ◆


「んぐぐぐっ! っ駄目だぁ!」


 エアウォークの魔法を使った隼人がLv2の攻撃魔法の使い手を運ぼうとしたのだが、残念ならが運ぶ事はできなかった。


「もう少し軽い奴ならなぁ。男は全員無理だ」


「僕の影魔法も敵が見えないと届かないし、隼人が運べる数にも限度があるもんね」


 恭一郎の影魔法はかなり自由度が高い変わりに視界のみという射程が在るみたいだった。どうも影のある場所ならどこからでも発射出来ると言うのが魔法に制限を与えてしまう様だ。


「あの、私は駄目でしょうか?」


「皐月ちゃん?」


 なんと皐月ちゃんが立候補した。


「男の子で駄目なら私はどうでしょう」


「それはちょっと」


「やめた方が」


 何故か涼華と美香が皐月ちゃんを止める。

 まぁ女の子だもんな。危険な場所に連れて行くわけには……


「ああ! 俺が持てなかったら男よりもデブってバレるもんぁぱぁぁぁぁぁ!!!!」


 隼人が凄い勢いで2人に殴られた。


「うむ、腰の入った良い拳だ」


 何故か大歳坊のオッサンがうんうんと頷いている。


「あの、私の魔法ならボスにもダメージを与える事が出来ると思うんです!」


 なにやら皐月ちゃんは自分の魔法に随分と自信があるみたいだな。


「何か確信があるわけ?」


「はい、私の魔法、スターライトなんですけど。皆が強くなったスライムに苦戦している時、私の魔法だけがスライムを簡単に倒す事が出来たんです」


「皐月ちゃんの魔法だけ?」


「はい。それも時間が経ってドンドン強くなってる筈なのにです」


 ほほう、つまりそれは。


「皐月ちゃんの魔法も時間が経つにつれて強くなってる?」


「だと思います」


 そうなると考えれるのは……


「スターライトの魔法は夜に真価を発揮する魔法って事か」


「だと思います」


 それが確かなら、千載一遇のチャンスだな。


「レベルを上げる事は?」


「2Lvに出来ます」


 やってみるか。


「よし、隼人が持ち上げる事が出来るならスターライトを2Lvに上げてボスを倒しに向かってくれ」


「はい!」


 と、いう訳で隼人がもてるかの実験である。


「行くぜエアウォォォォォォクゥ!!!!」


 何故叫ぶ。

 その気合が功を奏したのか、見事皐月ちゃんは宙に浮いた。


「浮きました!!!!!」


 なんだろう。ボスを倒せるかも知れないという喜びとは違う喜びに聞こえるのは。


「そんじゃ行ってくるぜ!」


 隼人と皐月ちゃんが空を飛んでボスに向かってく。

 その時だった。

 皐月ちゃんが俺達よりも高く舞い上がったその時、風が吹いた。

 少し強い程度の風。

 彼女のシャツのすそは戦闘でショートパンツからはみ出ていた。

 そして空中への上昇と強い風の影響でシャツが上に巻き上がる。

 美香のシャツはサイズが合わなかったのか、風をうまく受け止めシャツを天高く舞い上げようとした。


 結果シャツが上に舞い上がる。


「おおっ!」


 皐月ちゃんの胸部ショックアブソーバーの下半分が白日の元に晒された!!!! 夜だけど。

 そして奇跡の風は去り、再び秘密のエリアは闇に閉ざされたのだった。


「い、いいいいいいま何か見ましたか!!!?」


 風にシャツを巻き上げられた皐月ちゃんが引きつった声をあげる。

 だから俺は素直にお礼を言った。


「ありがとうございました」


「いいぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 夜の空に皐月ちゃんの悲鳴が上がった。


「頼むぞ、皐月ちゃん」


「「何事も無かったかの様な顔をするなぁぁぁぁぁ!!!!!」」


 俺は美香と涼華に殴られた。

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