第23話 フルアタック
「全員俺が攻撃したスライムに攻撃を集中してくれ! 属性は全員別々で!」
「え!? あ、いや、わかった!」
「なんか知らんが了解だ!」
突然の指示に困惑するイベント参加者達だったが、攻撃が効かない上に最大攻撃力の持ち主が居ない現状を打破する為、皆俺の指示に従ってくれた。
「ファイアロー!」
「ウインドハンマー!」
「ムーンライト!」
「ダークアロー!」
この場に居る全員の攻撃魔法が炸裂する。
すると、黒いスライムの破片である小型の黒いスライムが苦しむ様に身悶え始めた。
「効いてるぞ!」
攻撃に対し、初めて小型スライムが反応を示した事で興奮する参加者達。
やっぱりか。
そして次の瞬間、小型スライムが弾けた。
「倒したのか!?」
「いや違う!!」
弾けた小型スライムは、更に弾けて様々な色のスライムに分裂した。
「これはブルースライム!?」
「こっちはレッドスライムだ」
「グリーンスライムも」
見た事のないスライムも居るが、その内いくつかはこの場所に来てから闘った事のあるスライム達だった。
「コリャどうなってるんだ!?」
イキナリ黒いスライムが他のスライムになってしまってみんな驚いている。
「多分黒いスライムは複数のスライムの集合体だったんだ。絵の具だってそうだ。複数の色を混ぜればいつかは真っ黒になる。そしてスライム達にはそれぞれ役目があった。例えばあのピンクスライムは服の繊維を溶かすスライムだ。きっとこのスライム達は、それぞれが特定の物質を喰らう性質を持っていたんだよ。そして最初にこの黒いスライムを攻撃した時、確かに攻撃に反応した。つまりコイツは全ての属性で攻撃するか、戦闘に参加している人間全員が一斉に攻撃しないとダメージを受けない特殊な使用のモンスターなんだよ!」
「え? でも回復役とかの攻撃してない子達は?」
攻撃に参加しなかった女の子達の事はどうなるのかと参加者の一人が聞いてくる。
確かにその疑問は至極当然だ。
「多分なんだけど、攻撃魔法を持っていない参加者は除外されているんだと思う。これは初期のレイドバトルイベントだから、そこまで厳密に条件が設定されていないんだ。あまり厳密にしすぎるとイベント参加者がゲームを攻略できなくなるからさ」
「ゲームを攻略!?」
「ああ、この世界はゲームになった、そう俺達が受け取ったメールには書いてあっただろ? つまりゲームである以上攻略の道筋はあるだろうし、ある程度の難易度調整はされている筈だって思ったんだ」
「成程」
確証は無いが実際に黒いスライムは分裂して他のスライムへと姿を変えた。
あと全属性での攻撃ってのは多分ハズレだと思う。恭一郎の影魔法の様に取得に何らかの条件がある魔法が在るので、恐らくだが取得できる魔法の数はかなり多いと思うんだ。
そんなキツイ攻略条件を、魔法を覚えたら開始されるなんて初期イベントでやるだろうか?
答えは否だ。
「分裂したスライムを退治しながらドンドン黒いスライムを削るぞ!」
「「「「おおー!」」」」
多分コレはレイドバトルを介して他の参加者と強力する事を求めているんだ。
聖域の説明では犯罪を犯さず皆神に祈れと書かれていた。
それと同じ様に、イベントでも人間同士の協調性を育もうとしているんじゃ無いだろうか?
コレが神が人間に学ばせたい事なのだろうか?
けどこれ、参加者が一人の時間帯とかあったらどうする積もりだったんだろうか?
それとも、そう言う時の為に複合魔法とかが救済策として用意されていたんだろうか? そう考えると、レッドスライムに水が効くのも救済策かな?
ロックスライムを火と氷の魔法で容易に倒せるのも、複合魔法に気づく為の布石だったのだろう。
このゲームシステムを考えた奴は色々と難易度調整を頑張ってくれてるみたいだ。割と情が深い存在なのだろうか?
ともあれ、俺達は黒い小型スライムから分裂した普通のスライムを倒しては新しい黒い小型スライムを集中攻撃していった。
お陰でまだ闘った事の無かった多くのスライムを狩る事が出来たので、後でスキルポイントががっぽりである。
黒いスライムの攻略法も見付かったし、意外と美味しいイベントだったな。
って、なんだろう、このフラグっぽい感覚は。
◆
「これで黒いスライムは退治できたな」
戦いが終わった俺達は地面にへたり込んで休憩していた。
「うー、MPポーション飲み過ぎてお腹がキツい」
「俺も」
分裂したスライムの種類が多かったので、皆MP切れを連発し、MPポーションのガブ飲み大会状態になっていた。スライムを倒しちゃMPポーションを飲むの繰り返し。正直俺もきつい。
「おい、スマホ見てみろよ。スゲェぜ!」
突然隼人が興奮した様子で声を上げた。
俺達はお腹のMPポーションを逆流させない様に気をつけながらスマホを取り出す。
「これは!?」
スマホを確認すると、そこには複数の新着メールが表示されていた。
「ボススライム討伐報酬……マジックリュック……ですか?」
コイツはもしかして……
俺と同じ事を考えたヤツ等が報酬であるマジックリュックの説明を読みふける。
「30×30Cmの立方体に収まるアイテムを10個まで収納可能な魔法のリュックサックだって。これって良い物なの?」
美香達は良く分かっていないみたいだが、ゲームをした事のある奴ならこのアイテムは重要な意味を持っている事に気付く。
「これってやっぱ、上位アイテムがあるって事だよな」
誰かが全員の思いを代弁する。
そうだ、いわゆるアイテムボックスとかインベントリっていわれる奴だ。
コレは大きさや数に限界があるが、よりレアなアイテムならこれ以上に荷物が入り、さらに中で荷物が崩れない可能性が高い。
早速マジックリュックの検証に入るべく報酬受け取りのポップアップを押す参加者達。
俺もアイテムを受け取るが、検証は後回しだ。
他のメールを見ないとな。
何々? ボス攻略方法発見による知識系スキルの解放?
解放されたスキルは【研究Lv1】【戦術Lv1】【解析Lv1】【看破Lv1】の四つか。
【研究Lv1】は様々な研究を行う際の効率を良くしたり、良いアイデアを閃き易くしてくれるスキル。
【戦術Lv1】は文字通り戦闘における的確な判断を下せるようになるスキルだ。 【解析Lv1】は手に入れたアイテムなどを解析して用途や構造を理解するスキル。
そして【看破Lv1】は敵対モンスターの弱点などを理解出来る様になると言うありがたいスキルだった。
ただし、取得に必要なポイントは全て10P。ちょっと試しに取得してみるかって気持ちにはならない難しいスキルだ。
だがこれを手に入れる事が出来たのは大きい。
スキルの選択肢が増えると言う事は生き延びる確立が上がるって事だからな。
メールの確認が終わった俺は、皆に混ざって敵を倒した事で手に入るアイテムをチェックする事にしたのだった。




