第21話 レイドバトル開始!
新しい仲間を集め、黒いスライムとの戦いの決意を新たにする俺達であったが、当の黒いスライムは湖の底に隠れてしまい、手を出せない状況だった。
そこで俺達は、黒いスライムが再び現れるまでの時間を有効活用するべく、モンスター狩りにいそしんでいた。
「アイスアロー!」
「ウインドハンマー!」
ボスバトルである以上、回復アイテムは大量に必要になるのは間違いない。
だから俺達はブルースライムとレッドスライムをメインに狩っていた。
もちろんレベル上げと討伐種類を増やしてスキルポイントを手に入れる為にそれ以外のスライムも狩っていた。
「きゃあ!」
物陰から飛び出したレッドスライムが美香に飛び掛る。
「ダークアロー!」
間一髪恭一郎のシャドウアローがレッドスライムを迎撃する。
そしてすかさず涼華がペットボトルに汲んだ湖の水をレッドスライムにかけて退治する。
恭一郎の魔法は影属性の魔法で、影のある場所から影の矢を打ち出すという珍しい魔法だった。
影さえあればどこからでも射出できるというのは非常に強力なアドバンテージだ。
恭一郎はそれをうまく使ってスライムに不意打ちを食らわせていた。
ただその分威力が低いので、仲間の補助として使うか、逆に仲間が取りこぼした敵にトドメを刺すのが恭一郎の役目となっていた。
シャドウアローは俺のスマホでは表示されなかった魔法スキルだ。
多分何か習得条件がある魔法なんだろう。
「痛ってー!」
油断していた隼人がロックスライムの攻撃を受けて傷を負ってしまった。
「ふんっっっっっ!!」
大歳坊のおっさんが身体強化魔法を発動させた拳でスライムを粉砕する。
どうやら肉体強化魔法で強化した物理攻撃は魔法攻撃として認識されるらしい。 もしかしたら恭一郎の影魔法の様に特殊な取得条件のある魔法なのかもな。
「すまねぇ、助かった」
「何、気にするな。仲間であろう」
ニカッっと人好きのする笑顔を見せる東尋坊のおっさん。
かっこいいわー。
「隼人、動かないで!」
涼華がカバンから消毒を取り出すと、ビニール袋に入った綿をちぎって消毒液に軽く浸す。
「染みるからガマンしなさい」
「いででででで!」
なかなか男らしい治療方法だ。
「ヒーリング」
涼華の魔法で隼人の傷がみるみる間に治っていく。
成程、涼華の魔法は回復魔法か。
やはり真澄を連れて来た方が良かったな。
折羽ちゃんもこんな世界になっちまった以上、闘う手段を手に入れさせた方が良いだろう。
「結構薬も溜まったね」
近隣のスライムを一通り倒した俺達は回復アイテムを購入していく。
「そろそろトレードに行くか」
「そうだね」
トレード、そうトレードだ。
俺達はこの湖に巨大な黒いスライムを討伐しにやって来た。
だが考えてもみて欲しい。
あれだけの巨体を俺達以外の連中が見ていない筈がないだろうと。
そう、この湖には俺達以外の参加者がゾクゾクと集まってきていた。
安全地帯を求めて、新しい狩場を目指して、そして俺達と同じく黒いスライムを狙って。
そうやって集まってきた参加者達が湖の周辺で思い思いにモンスター狩りをしていた。
そうして集まった参加者達と俺達は交渉した。
共に黒いスライムを倒さないかと。
大抵の参加者は二つ返事でOKをしてくれた。
どうせ闘うのなら仲間が多いほうが良いと。
まぁ皆本心は自分がボスにトドメを刺したいと思ってるんだろうけどな。
そしてこれから行うトレードもその共闘の一環だった。
「よーっす。ポーションかMPポーション居る奴はいるかー?」
「MPポーションが欲しいな。攻撃力上昇の薬でどうだ?」
「こっちは普通のポーションが欲しいわ」
集まった参加者達は、それぞれチームを組み、一時間おきに狩りの成果を交換するトレードを行っていた。
「いやー、レッドスライムに水が効くって聞いてマジ助かったよ。ウチは炎系ばっかだからMPポーションが慢性的に不足しててさ」
と言ってMPポーションを要求してきたのは、炎魔法マニアの集団レッドフレイムの皆さんだ。ネット掲示板で同士を集めて自分達のクランを作って情報交換や狩りをしていたらしい。チームに入る条件はただ1つ。炎系の魔法を取得している事。俺も誘われた。
「こっちも同じ属性の魔法を掛け合わせれば威力が上がるっての聞いて参考になりましたよ」
レッドフレイムの中には成人した人も居るから一応敬語で話す。
「あ、巧君。言われたとおりロックスライムに氷と火の属性で攻撃したら複合魔法のスキルが表示されたよ。でもやっぱ一人で複数の魔法を使わないと駄目みたい。仲間同士で別々の属性を使ってもスキルは表示されなかったわ」
こちらはチームウィッチーズのお姉さん方。
魔法少女じゃなくて魔女の方らしく、皐月ちゃんとは方向性が違うみたいだ。
彼女達はウィッチらしく、空を飛んだり動物に変身したりする魔法の使い手達だった。直接ダメージを与える魔法は苦手だが、魔法薬の製薬を行う錬金スキルを覚えているので、イベントが終わったらお世話になりそうだ。
他にも多くの参加者達とアイテムだけでなく、情報の交換を行っていた。
どのあたりにどのスライムが居るとか、あのスライムの弱点と交換アイテムな何かとかだ。
ここで互いが自分にとって有益な相手だと思ったら、互いのメールアドレスとかを交換し合う事もある。
弱肉強食の世界となったこの世界で、イベントが終わった後でも力を貸してくれる横のつながりは非常に重要だからだ。
「おーおー。ザコプレイヤー共が群れてんなぁ」
だがそう言う中にも異端者は現れる。
「お前等まーだ雑魚スライムなんかに手間取ってるのかよ」
「しゃーないだろ。所詮コイツ等はヌルゲーマーなんだしよ」
トレード会の空気が一瞬で氷点下に冷える。
コイツ等はヘルトアルメーコーア、ドイツ語で英雄の軍団という言う意味らしい。そう、ドイツ語である。
「俺達とっくにこの辺のスライムなんて余裕だからな。レベルアップでスキルポイント稼げて羨ましいわー。はははははははっ!!!」
無茶苦茶むかつく連中だが、それでもコイツ等を放置しておかないといけない理由があった。
コイツ等は単純にレベルが高かった。
何でもこの世界がゲームになったと分かった瞬間から、徹底的に効率よくレベル上げする事にいそしんでいたのだとか。
お陰でコイツ等のレベルは20オーバーだった。
俺の今のレベルは14。さっきまでの狩りのお陰でレベルアップしたのだ。
お陰でスキルポイントは7。もう少しで複合魔法を習得可能って訳だ。
この世界がゲームになったと気付いてからは、俺も真澄とレベル上げにいそしんでいた。
だと言うのに連中のレベルは20オーバー。相当効率良くレベルを上げたんだろう。
だがヤツ等が好き勝手出来るのには、ただLvが高いからという訳では無い。
魔法だ。
連中は今回のイベント参加者の中で一番強力な魔法を操れる。
俺達がまだ取得できない上位の魔法を。
レイドボスである黒いスライムが表れた時、最も敵にダメージを与えてくれるのは誰かという話だ。
あれだけの巨体を持ったボス、たとえトドメをさせなくとも何かしらの特典はあるだろう。
だったら気に入らないヤツ等だとしても、アタッカーを受け入れない理由はない。
と、いう訳で、連中は特別に傲慢な振る舞いを許されていた。
「ま、精々頑張りなー」
言いたい事だけ言って、ヘルトアルメーコーアはどこかへと姿を消した。
恐らく参加者の一人が目撃したと言っていた、異様に早いスライムを狙ってるのだろう。
レベルが高くなった参加者は通常の戦闘ではレベルが上がり辛くなり、変わりに新しいモンスターを討伐した際に貰える遭遇ポイントを得ようと躍起になっていた。
そしてゲームにおいて異様に早いアレといえば、大抵は何かしらレアな存在なのは間違いないだろう。
ゲーマーとして倒したくなるのは本能といえた。
まぁ、あいつ等も本来の目的である黒いスライム退治にはちゃんと参加するだろうから、静かになるのなら好きにさせておこう。面倒なヤツ等に絡まれるよりはよっぽどマシだ。
と、その時だった。
「見て! 湖に波が!!」
その言葉に全員が湖を見る。
湖は海とは違う、波なんて起きる筈が無い。
もしそんな事が起きるとすれば……
「ヤツだ。動き出したぞ」
大歳坊のオッサンがMPポーションをあおりながら答える。
「皆の者! ついにヤツとの戦いの時が来た! だが恐れる事は無い。我等は数で勝っている! 何より皆が皆、より強くなる為に修練を行ってきたのだ!! ならば勝てない理由など、無いっっっっっ!!!!」
全く根拠の無い理由で参加者達を鼓舞する大歳坊のオッサン。
だがそれでよかった。
予想以上に早い敵の行動に動揺していた参加者達は、オッサンの熱い激励で己のやるべき事を思い出した。
全員が湖の所定のポジションにつく。
何処に黒いスライムが現れても即攻撃出来る様にだ。
「波が強い! この辺りから来るぞ!」
水面の動きを観測していた参加者の一人が叫ぶ。
近くに居る連中が急いでその近くへと向かう。
そうして、湖面の静寂を突き破って黒い巨体が姿を現せた。
「撃てー!!」
攻撃魔法を使えない参加者が号令を挙げる。
すると湖のいたるところで魔法の輝きが生まれる。
「ファイアアローッ!!!!」
「ウインドハンマー!!」
「サンダーシュート!!」
「ロックシュート!!」
幾重もの魔法が黒い巨体に集う様に放たれる。
そして、炸裂した。




