第20話 バトルプリースト
新たな仲間を率いて黒いスライムを追う俺達。
途中皐月ちゃんが闘ったといったパープルスライムと遭遇しコレを撃退。
スキルポイントが1上がり6P。まだLv2の魔法を覚えるには足りない。
複合魔法にもあと2P足りないな。
パープルスライムの交換アイテムはMPBポーション。
飲むとMPの最大値を越えて回復できるというものだった。
効果的にもかなり便利なアイテムなので数が欲しいところだが、今のところ3匹しか遭遇していない為、一本しか手には入らないでいる。
そして岩場を抜けると、今度は大きな湖へとやって来た。
どうやらこの湖が近隣の水源らしく、湖から伸びた川が岩場を伝って森の方向へと延びていっている。
湖は岩場に囲まれており、岩場の大きな窪みが湖になった天然のダムと入って良い形状である。
「黒いスライムってのはどこに行ったのかな?」
恭一郎が言うとおり、近くにあの黒く巨大なスライムの姿は無い。
「確かに居ないな……けど、別のヤツ等は居るみたいだぜ」
そう言って隼人は武器でありカイザーナックルを装備する。
「……」
「どうしたよ?」
呆然と見つめる俺の視線に気付いた隼人が声をかけてくる。
「いや……カイザーナックルを使うヤツなんて初めて見たからさ」
そんなリーチ0の装備でモンスターと闘うとか自殺するつもりかお前は。
「分かる」
「コレは無いよね普通」
美香と涼華が揃って頷く。
「何言ってんだよお前等! 拳ってのは漢の最強武装なんだぜ! 両の腕に装備された地上最強の武器! ソレが漢の浪漫ってヤツだろうが!!!」
「その通りっっっっっっっっ!!!!!」
湖に猛々しい声が轟いた。
その声量や凄まじく、湖の湖面すらその声によって波打ったと錯覚した程だ。
「良くぞ言った! 男児たるもの己の拳1つで戦ってこそ粋と云うものよ!!」
声の主は湖の中に居た。
湖面から頭だけを出したその男は、見事なスキンヘッドも相まってまるで海坊主のようにも見える。
「おお、分かるかおっさん!!」
同胞を見つけて喜ぶ隼人。
その前に湖の中から現れた事に突っ込めよ。
男が水面から上がってくる。
その体は見事な筋肉の鎧を纏っており、全身が何かと闘ったらしい幾多の爪痕によって彩られていた。
「うわっ、うわっ、すごい体」
「うん、筋肉も凄いけど傷もすごい」
「はわわわわわ」
女性陣は男の主張よりも褌一丁である事に興味津々だ。
皐月ちゃんは両手で顔を覆って入るものの、指の隙間からガン見している。
「某の名は大歳坊、通りすがりの坊主よっっっっ!!!」
「それはおかしい」
耐え切れずに恭一郎が突っ込みを入れる。
どう見てもあのガタイは格闘家か傭兵とかだろう。
とても坊主には見えない。
「某モンスターと闘ってレベルアップした際、せっかくなので魔法を覚えてな。そしたらイベントなるものに誘われて気が付けばこのような場所におったのよ」
成程。見た目はともかく同じイベント参加者って訳か。
しかし……
俺達は大歳坊のおっさんをじーっと見つめる。
「むっ? どうかしたか?」
「タイサイボーのオッサンはどんな魔法を使うんだ? 俺は自由の象徴、風魔法だぜ!」
バ、隼人が聞きにくい事をズバッっと聞いてくれた。
こういう時馬鹿は助かる。
「某の魔法か。うむ、某の魔法はな……」
僧侶的に回復魔法か法力とかかな? 見た感じ法力とかは無かったが、リアル僧侶ならお経を唱えて魔法取得条件を手に入れる事が出来るかもしれないしな。
「身体強化魔法よっっっっっ!!!!」
「「「「僧侶関係ないしっ!!!!!」」」」
うっかり馬鹿以外の全員で突っ込みを入れてしまった。
「その様な事は無いぞ。修行僧たる者、常に己を鍛え続けねばならん。ならばこの様な世界であろうとも修行は必要不可欠。己を強化する魔法を使えば更に鍛える事が出来るではないか」
成程、修行馬鹿なのか。
「でも、お坊さんなら聖域で祈る方が仏教の教えに沿うんじゃないですか?」
美香が正しい聖職者の姿をイメージして突っ込みを入れる。
だが大歳坊のおっさんはそれを否定した。
「某が信仰しておるのは仏様だからな。神様は信じておらんっっっっっっっ!!!」
「「「「「ああっ、成程」」」」」
俺達はストンと腑に落ちて納得した。
そうだよなー。仏教的には仏様だよなー。
けどそうなると、宗教戦争とか起きそうだよなー。
神様といえばあのメールとゲーム、少なくとも神様本人が書いたとは思えない文章だったな。
アレを書いたのは神様に近い誰か、例えば天使とかそういう別の誰かが書いたんじゃないだろうか。
それを調べるのもこの世界の秘密を探る手段になるかも知れない。
だがそれは後だ。今はボスである黒いスライムを倒すのが最優先。
「ところで大歳坊さんはこの辺りに黒くてデカいスライムを見ませんでしたか?」
あの黒いスライムが向かっていた方角からいって、あの巨体を大歳坊のおっさんが見ていないとは思えなかった。
「おお、見たぞ。黒くてデカいのがやって来て何事かと思ったわ」
「それで! ソイツは何処に!?」
やっぱりこっちに来ていたか。
「ヤツならばこの湖の中よ」
「……え?」
予想外の答えに目が点になる俺達。
「ええとそれはどういう事ですか? スライムが湖の中に入って行ったんですか?」
恭一郎が俺の言葉を引き継いで質問を再開する。
「然り。あのスライムめは湖の中へと潜っていきおってな。某もこれはなにかあると思って湖の中を追っていったのだ」
成程、さっき湖から出てきたのはそういった理由があったからなのか。
「それで、湖の底で何をしていたんですか?」
だが大歳坊のオッサンは恭一郎の質問に対して首を横に振る。
「この湖は見た目よりも遥かに深く、そして冷たい。某もそれなりに鍛えていたつもりであったが、人の身では果てまではたどりつけなんだ」
残念無念と悔しがる大歳坊のオッサンだが、少なくとも黒いスライムが湖のそこに居るのは分かった。
そしてこの中に入っていったって事は水系の魔法は効かないって事だ。
となるとやはり火属性が効果的か?
だとしても数が足りない。
やはりこのおっさんもスカウトするべきだろう。
身体強化魔法があの黒いスライムに効くかは分からないが。
「大歳坊さん、俺達はあの黒いスライムを倒す為にやって来たんです。けど見て分かるとおりあのデカさじゃとても一人じゃ倒せないと思うんですよ。だからどうです? 俺達と手を組みませんか?」
俺はレイドボスに付いて大歳坊に教えて、彼が気付いて居なかった討伐後のアイテム購入についても教えてやる。
情報を与える事でこっちの事を信用して貰う為だ。
「ふむ、強き敵との戦いか。確かにそれは心躍るな」
それ、坊さんとしてどうよ。
「良かろう。お前さん達と共に戦わせて貰おう。レイドボスとやら、興味が湧いたぞ」
大歳坊のオッサンが握手を求めてくる。
これでまた戦力が増えた。
「ひゃっはー! コレで戦力アップだな!!」
コレまで大人しくしていた隼人がテンション高めに混ざってくる。
さては交渉が面倒だったから終わるタイミングを待ってたなコイツ。
「うむ、宜しくな」
ともあれ、戦力アップが喜ばしい事には変わりない。
これで戦力は7人。




