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第16話 黒いスライム

「「逃ーげーろー!!!」」


 俺達は全力で逃げていた。

 巨大なピンクスライムを更に越える黒い巨体に追われて。


「ななななな何なんですかー! アレー!?」


「わーかーらーんー!」


 それは黒いスライムだった。

 森の中、森の木々よりも大きいあのスライムは、恐らくだが10mを越える巨体だろう。

 そんなモノがまっすぐこっちに向かってきていた。


「こ、このままだと追いつかれちゃいますよ!!」


 確かに、足場の悪い森の中、地面の凹凸を気にしなくて良いスライムの方が圧倒的に走破性が高かった。


「こうなったら一か八か横に逃げるぞ!」


「だ、大丈夫なんですか!?」


 これは賭けだった。

 相手は巨体。木々の陰になっているのか分かり難い俺達を追っているとは限らないのだ。

 もしかしたら……いや、それを説明する意味は無い。

 間違っていたら結局死ぬだけなのだからだ。


「このままじゃ潰される! 俺を信じて横に逃げるんだ!」


「……分かりました!」


 皐月ちゃんもこのままでは助からない事は理解していた。

 俺達は即座に右方向に舵を切ってゆく。

 もしアイツが俺達を追っているのなら、このロスは致命的だ。間違いなく命は無いだろう。

 だが俺の予想通りなら……


「黒い……スライ……ムが……」


「ああ……」


 皐月ちゃんが息も絶え絶えに黒いスライムを見て言葉を吐き出す。

 黒いスライムは俺達が逃げていた方角へと消えていった。

 やはり、俺達を追っていた訳ではなかったんだ。


「結局……あのスライムは……」


 黒いスライムが追ってこないのを見た俺達は地面にへたり込み息を整える。


「多分……アイツはただまっすぐに……進んでいただけだ。あのピン……クスライムは……たまたま……アイツの進路上に……居て、慌てて逃げ……出したんだろう」


 荷物からペットボトルを取り出した俺は一本を皐月ちゃんに渡す。


「あ、ありがとう……ございます」


 キャップを開け、中の水を思いっきり煽って飲む。

 冷たい水が火照った体を冷やしてくれるのが心地良い。

 

「はー」


 ようやく呼吸が整ってきた。


「これからどうしましょうか?」


 俺達の視線の先には巨大な黒いスライムの後ろ姿が見えている。

 いや、本当に後ろなのかは不明だが。


「アイツを追おう」


「えっ!?」


 皐月ちゃんから何を言ってるんだコイツって目で見られた。

 なんか変なモノに目覚めそうな視線です。


「アイツは間違いなくレイドボスだ」


「レイドボス?」


 ああ、皐月ちゃんはネトゲはやらない人か。


「レイドボスってのは、ネットゲームなんかで大勢のプレイヤーが協力して倒すボスキャラの事なんだ。HPがものすごく高くて、攻撃力や防御力もハンパない。だから皆が協力しないと倒す事が出来ないのさ」


「そっか、この世界はゲームになっちゃったから、あのスライムがそのレイドボスって訳なんですね」


 納得がいきましたと言って皐月ちゃんが手をポンと合わせる。


「多分、このゲームをクリアする為に倒さなきゃいけないワールドキャリアもレイドボスなんだと思う。今回のボスはそのチュートリアルイベントなんじゃないかと思うんだ」


「ちゅーとりある?」


 どうも皐月ちゃんはゲームには詳しくないみたいだ。


「ゲームを始めた時、キャラクターにプレイ方法なんかを説明してもらいながらゲームをプレイする事をチュートリアルって言うんだ。今回は説明役が居ないけど、魔法を覚えたばかりの俺達が参加するんだから多分緩いお試しイベントなんだと思う」


「成程」


 皐月ちゃんからの尊敬の眼差しが心地よいぜ。


「でも、それだと私達2人だけで追っても倒せないんじゃないですか?」


「良い質問だ。確かに君の言う通り。だけど考えてみてくれ。アレだけの図体をしたモンスターが動いているんだ。遠くに居るほかの参加者にもすぐに見付かるだろ」


「あっ!」


 皐月ちゃんがそういえばそうでしたとしきりに頷く。


「じゃあ、あのスライムを追っていけば自然と」


「ああ、他の参加者が寄って来るって訳さ」


 そうと決まれば話は早い。

 俺達は黒いスライムを追って森の中を駆け出すのだった。


 ◆


「スターライト!」


「アイスアロー!」


 俺達は黒いスライムを追いながら道すがらであったスライム達を退治していた。

 それはLv上げの為であり、また討伐数を増やして回復アイテムを補充する為であった。

 ボスと戦うのなら回復アイテムのストックは大いにこした事は無い。

 ただ一度に大量に補充しても持ち歩けない為、各二本カバンに詰め込んで、必要な時にスマホを起動してアイテムを購入するつもりだ。


「スライムの種類によっては効果の薄い攻撃があるからしっかりと覚えておいて!」


「は、はい! ウォーターシュート!」


 俺達はそれぞれが二種類の魔法を覚えている。

 俺のファイアアローとフリーズアロー、それに皐月ちゃんのスターライトとウォーターシュートだ。

 しかし以前闘ったレッドスライムの様に、特定の属性には効果の無い魔法がある事は既に経験している。

 だからスライムに出会ったら、魔法の効果を確認出来る様に同じ種類のスライムには別の魔法で攻撃させていた。


 コレまで出会ったスライムはブルースライム、レッドスライム、グリーンスライム、そしてピンクスライムに今追っている黒いスライムの5種類だ。

 皐月ちゃんはブルースライム以外にパープルスライムと言うのを倒した事があるらしい。

そしてブルースライムは水系の魔法に強い事が分かり、氷系は普通に効果があった。どうやら属性が変わると無効化される魔法以外はある程度効果が在るみたいだ。


「お、レベルが上がった」


 これで俺はLv12、スキルポイントは8になった。もう少し貯めてLv2魔法を覚えようかな。


「私もLvが上がりました!」


 おお、同時にLvUPとはめでたい。


「いま何Lv?」


「ええと、13Lvです」


 あれ? 俺よりLv高い?

 ああそうか。皐月ちゃんはソロプレイだからか。俺が真澄とモンスターを分けていた時、彼女は一人で闘っていたから獲得した経験値も多いんだろう。


 けどLV13だとスキルポイントは合計13。だがLvUP前に【魔法1Lv】【スターライト1Lv】を取得していて10P消費、更にピンクスライムを倒した時のボヤ騒ぎでスキルポイントは4P残っていると言っていた。つまり12Lvの時点で14Pあるという矛盾。俺と出会う前に彼女が倒したスライムはパープルスライム一体のみ。その後ブルースライムを倒した際にスキルポイントが追加されて【ウォーターシュート1Lv】を取得した。

 つまりスキルポイントは1Pのみで合計3Pだった筈。

 残り1Pは何処から来た?


 恐らくは、ボーナスポイントだろう。俺達が拠点完成でボーナスポイントを手に入れた様に、彼女もまたボーナスポイントを手に入れたんだろう。


「なぁ、皐月ちゃんも何か達成してボーナスポイントを手に入れたのか?」


「え? え、ええ。はい、そうですよ」


 あっさりと答えてくれた。その割には目の奥に焦りが見えるけど。


「どんなの?」


「え?」


「だから、どんな行為をしてボーナスポイントを手に入れたのさ?」


「そ、それは……」


 真澄ちゃんが言いづらそうに視線をそらす。


「ボッチです」


「え?」


 今なんか変な言葉が聞こえたような気が。


「だから! ボッチです! シングルで5Lvくらいになるまで戦ってたら突然メールでボッチプレイを達成しましたって言われたんです! それで特典としてスキルポイントを1P貰ったんです!」


 成程、さり気に手には入るポイントが少ない。

ともあれ、皐月ちゃんはLv13になってポイントが1上がり、グリーンとレッドを倒した分で3Pなっているか。


 出来ればもう少しポイントを入手して最低1つは魔法を覚えれる様にして欲しいなぁ。

 俺達が今覚えている魔法が、あの黒いスライムに効かなかい可能性があるからだ。


「そろそろ森を抜けるぞ」


 黒いスライムを追って10分。ようやく森を抜ける。

 足場の悪い森を、スライムと闘いながらではそれなりの地間が掛かったが、黒いスライムの体が大きい為に見失う事は無かった。

 それに相手も生き物、食事でもしていたのか、時折止まったりしていたのでなんとか大きく引き離されずに済んでいた。

 

 森を抜けた先には広大な岩場が広がっていた。


「コリャまた、日本とは思えない光景だな」

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