第15話 ジェントルメン退治
これで問題が一気に2つ解決した。
1つは強力な敵と戦う為の仲間集め。
そしてもう1つは、敵対する可能性のあるプレイヤーを減らす為。
MMO系のゲームにおいてPK、プレイヤーキラーはシステムに禁止されていない限り必ず発生する問題だ。
そしてこのゲームは現実の世界で起きている出来事。
ゲームのプログラムの様の様に、PKが出来ない仕様になっているとは限らない。
ならPKが居ると考えるのが当然。
ホームセンターで武器の独り占めをしていた奴が居た事からも、他のプレイヤーに対し悪意を持っているヤツ等がいるのは確実だ。
「それで、これからどうするんですか?」
早速皐月ちゃんが今後の方針を求めてくる。
そうだな。
「じゃあさっきのジェント……ピンク色のスライムを退治しよう」
「ええーっ!?」
全く想定していなかったのか、皐月ちゃんは酷く驚いた。
「で、でも私の魔法はあのスライムに効かなかったんですよ!? また服を……と、溶かされ……」
さっき裸を見られた事を思い出してしまったんだろう。皐月ちゃんは顔を真っ赤にしている。
「けど俺が来た事でアイツを追い払っただろ?」
「……あっ!」
皐月ちゃんがそういえばと言う顔で俺を見る。
「アイツは火が弱点だ。多分獲物が着ている服の繊維を餌にしているから体が燃えやすいんだと思う」
「繊維……」
またしても服の事を思い出してしまったのか、声が小さくなってしまう。
「だからさ、今度は俺達がアイツをギャフンと言わせてやろうぜ! リベンジだ!」
ジェントルスライムを倒して、皐月ちゃんのトラウマを解消してみせるぜ!
そうすりゃ皐月ちゃんの好感度も爆上がりですよ! ……いえ、下心なんてナイデスヨ。
◆
「こんなのに引っ掛かる人なんて居るんですか?」
俺達は近くの岩場に隠れていた。
その視線の先には、それなりに大きな穴が掘られていた。
うん、落とし穴なんだ。
落とし穴の真ん中には森の木から切った枝が突き立っていて、そこに皐月ちゃんのボロボロになった服の残骸が引っ掛けられている。
「相手はスライムだ。アイツは服を食べにまたやって来る。だからあの服を囮にしてアイツをおびき寄せるんだ」
スマホの討伐結果にあのジェントルの名前は記載されていなかった。
となればあのスライムはまだ生きている。
だからアイツを倒して討伐報酬のスキルポイントを手に入れる。
まだイベント期限は十分にある。
なるべく多くの種類のスライムを退治したい。
それに、この子の戦力も確認したいしな。
「とにかく、俺の魔法であのピンクのスライムと闘うから、君はそれ以外のスライムを頼む」
「……分かりました!」
皐月ちゃんも俺の言いたい事は理解出来た様で、覚悟を決めたみたいだ。
◆
「来ませんねぇ……」
「来ないねぇ」
あれから30分、何時まで待ってもジェントルスライムは現れなかった。
それどころか普通のスライムすら出てこない。
うーむ、コレは一旦場所を移動した方が良いのかなぁ?
と、その時だった。
ズズズと何かを引きずるような音が聞こえてくる。
来たか!?
バルン! バルン!
突然目の前にピンク色の何かが飛び込んでくる。
「来た!」
そう、ソイツはさっき皐月ちゃんの服を溶かしていたジェントルスライムだった。
俺達はジェントルスライムが皐月ちゃんの服の残骸に喰い付くのを待つ。
だが、ジェントルスライムは皐月ちゃんの服に目もくれず森の奥へと飛び込んでいく。
「え? どういう事だ!?」
「ど、どうしましょう巧さん!?」
いや、考えても仕方ない。
「追うぞ! 一発当てれば大きなダメージを与えれる!! 有無を言わせず倒すんだ!!」
「は、はい!!」
俺達は罠を放置してジェントルスライムを追いかける。
ジェントルスライムはビョンビョンと跳ね回りながら森の奥へとドンドン進んでいく。
「こ、このままだと逃げられちゃいますよー!」
確かに皐月ちゃんの言うとおりだ。
森の中を跳ねながら進むスライムと、樹や根っこ、それに岩や藪の所為でドンドン離されていく。
こうなったら仕方ない。
「ファイアアロー!!」
俺はジェントルスライムの体に向けて炎の矢を放つ。
元が巨体なので、着地のタイミングを狙えば当てる事は難しくない。
ボウッ!
狙い通り、俺の炎の矢はジェントルスライムに命中した。
炎は瞬く間にジェントルスライムに燃え広がっていく。
ジェントルスライムは転がって火を消そうとする。幸い、この近くは川から離れた場所らしくジェントルスライムは火を消す事が出来ないでいた。
とはいえ、このまま逃してまた消火されては元の木阿弥だ。
俺は追撃の炎の矢を放つ。
森の中で燃え盛る巨大なスライムがのたうちまわる事で周囲に火が広がっていく。
「ちょ、コレ、マズく無いですか!?」
確かに、このままだと森が火事になってしまう。
ちょっと予想以上に燃えすぎてませんかね。
などと言っている間にも、スライムはグッタリとなって動かなくなっていく。
そしてついには完全に燃え尽きてしまった。
「す、スライムは倒したみたいですけど、火が……」
「大丈夫だ!」
俺はスマホを操作してゲームを起動する。
討伐モンスターには、ピンクスライムの名前が記載され、スキルポイントが追加されている。
これでスキルポントが合計7Pになった。
「スキルポイントを消費して火を消す事の出来る新しい魔法を取得するんだ。君のスキルポイントは?」
皐月ちゃんが慌ててスマホを操作する。
「えっと、4Pです!」
惜しい、あと1P足りない!
流石に一人ではこの火事を消化しきるのは難しい。だがMPポーションをフルに活用すればいける筈だ。
と、そこに火事から逃げようと、近くに居たブルースライム達が飛び出してくる。
「倒すんだ!」
「は、はい! ムーンライト!!」
俺の指示に従い皐月ちゃんがブルースライム達を倒す。
「ポイントは!?」
皐月ちゃんがスマホを確認して俺を見る。
「増えました! 5Pになりました!」
「よし! 水魔法か氷魔法を覚えるんだ!」
俺は【氷魔法Lv1】をアイスアローを取得する。
「取りました!」
「よし、消すぞ! アイスアロー!」
新しく取得した氷の矢を放つと、矢は燃える木に当たり、その部分を凍らせる。
よし、イケる!
「ウォーターシュート!」
皐月ちゃんの覚えた魔法が森の水を消していく。
彼女の魔法の方が消火には向いてるみたいだな。
2人で協力して作業に当たることで見る見る間に火が消えていく。
そうして、ついに広がった火を完全に消し止める事に成功した。
「危なかったですねー」
「ああ、多分生木だったから、燃えたのは表面だけだったんだろ。だから消火が上手くいったんだ」
多分な。
いやー、もう二度と森で火を使うのはやめよう。
「でも何であんなに急いでいたんでしょうか?」
火が消えて落ち着いた事で、皐月ちゃんがジェントル、いやピンクスライムの行動についての疑問を口にする。
「確かに、妙に急いでいたよな。まるで何かから逃げるみたいに……」
そこで俺達は互いの顔を見合わせる。
「……ええと」
「いやまさか……」
遠くからズズズズズッと振動が聞こえてくる。
「あのデカいスライムが逃げるようなヤツが居る訳……」
「無いですよねぇ……」
音はドンドン大きくなっている。
もしかしてさっき聞こえたズズズって音はピンクスライムの音じゃなくて……
俺達はそーっと自分達の来た方向を見た。
そこには、森よりも大きな黒い影がプルプルと波打ちながら近づいて来る光景が見えた。
「「居たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」




