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第14話 魔法少女? いえコスプレです

「誰か助けてー!」


 俺の視線の先では、魔法少女が巨大なピンク色のスライムに襲われていた。

 スライムは魔法少女の体の半分以上を取り込み、なんと彼女の服を溶かしていたのだ。

 魔法少女の服は既に半分以上を溶かされており、あとちょっとで胸のけしからん部分や股間の大切な部分が丸見えになりそうになっている。

 だが、そこはぎりぎりで溶けていなかった。

 まるでスライムが意図的に溶かす部分を調整しているかのような神がかった溶かしっぷりである。

 彼は紳士! 正にジェントルと呼ぶに相応しいスライムであった。

 よし、アイツの名前はジェントルスライムだ。そう呼ぼう。

 ジェントルスライムは魔法少女の服を溶かしてはいるが、彼女自身の肉体を溶かそうとはしていない。恐らくあのジェントルの体液は服の繊維を溶かす事に特化しているのだろう。なぜそんな能力に特化しているのかは分からないが、それは恐らく奴が紳士だからだろう。

 さて、そうなるとあの魔法少女を救うにはどうすれば良いかだ。

 物理が効かないのはもう言うまでも無いだろう。

 となると残るは水をかけるか、火で燃やすかだ。

 今スライムは彼女の体の半分を覆っている。

 だがスライム自体が巨体なので、もし燃えても彼女まで燃え広がる前に何とか逃げれるだろう。

 最悪ポーションで回復させれば問題ない。

 なにせこのままでは彼女が全裸になってしまうからな。

 と、いう訳でスライムに襲われる魔法少女を救出に行きますか!


「ファイアアロー!」


 俺は魔法少女を取り込んだジェントルスライムの、一番魔法少女に遠い箇所を狙って炎の矢を打ち込んだ。

 するとスライムはあっという間に燃え始める。


「キャアァァァァァ!?」


 予想外の燃えやすさ、このままでは魔法少女にまで燃え広がってしまう。俺はペットボトルの水を取り出して、駆け出す。

 果たしてこの程度の水で足りるのだろうか?

 そう焦りながらジェントルスライムに向かっていったのだが……


「っ!?」


 突然ジェントルスライムはモインモインと暴れだしたかと思ったら、魔法少女を吐き出してすぐ傍の川へと飛び込んだ。

 ふぅ、何とか追い払う事が出来たか。

 退治する事が出来なかったのは残念だが、魔法少女を助ける事が出来たからよしとするか。


「おい、大丈夫か?」


 状況を確認する為にじっと服を溶かされる様子を見ていた事は黙って、俺は魔法少女に近づいた。


「あ、ありがとうございます」


 魔法少女はジェントルスライムから逃げ出そうと足掻き続けて呼吸が荒くなっていたので、俺は背中をさすってやる。魔法少女の背中はジェントルスライムの体液が付着してネトネトする。


「すいません、もう大丈夫です」


 呼吸を整えた魔法少女がこちらを向き直る。


「私、四之宮皐月って言います。助けて頂き本当にありがとうございました」


 魔法少女こと四之宮皐月が丁寧に自己紹介とお礼を言ってくる。


「俺は巧、須藤巧だ」


 俺もそれに習って自己紹介をする。


「それにしても、四之宮なんて随分普通の名前で面食らったよ」


「え? 普通……ですか?」


 皐月ちゃんが俺の意図を理解できずに困惑する。


「いやだって、そんな恰好してるもんだから、てっきりプリティ☆メイとか名乗るのかと思ってたわ」


 そう言ってボロボロになった皐月の魔法少女服を指差す。

 ちなみにメイは皐月の英語読みな。皐月は5月だから。


「え!? あ、その、違うんです! コレはその!!」


 そう言って皐月ちゃんは慌てて立ち上がりながら否定の言葉を述べようとした。

 その時だった。

 

 ボロッ


 只でさえジェントルスライムの粘液で服の繊維がボロボロになっていた状況で、突然激しく動いたのだ。

 皐月ちゃんの大事な所をかろうじて守っていた服のつなぎ目が切れ、重力に従って大地へ落下する。

 結果、さつきちゃんは全裸になった。


「っ! きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 眼福眼福。


 ◆


「落ち着いた?」


「………………………………はい」


 あのあと、全裸になって悲鳴を上げる皐月ちゃんに上着とタオルを差し出した俺は、すぐ傍の川で水浴びをする様に提案した。

 なにしろジェントルスライムの体液まみれのままで服を着てもすぐにボロボロになってしまうからだ。


 森の中の小川は普通の川と比べるとちょっと浅いが、その分水が澄んでいて綺麗だ。こびりついたスライムの体液を洗い流すには丁度良い。


「あの、見ないで下さいね」


 川に入った皐月ちゃんが恥ずかしげに言う。

 さて、ここで絶対見ないよ! なんてジェントルに言うのは簡単だ。

 だがそれではいけない。

 俺がここにいるのは無防備な彼女の身を守る為だからだ。そう言って裸の彼女についてきたのだ。

 なのでその提案は却下である。


「悪いがそれは出来ない。ここにはスライムが多くいるし、木の上から落ちてくる奴も多いんだ。常に全周囲を警戒しないと君を守りきれない。俺の闘ったスライムには高熱で肌を焼いて火傷を負わすヤツも居たからね」


 嘘は言っていない。事実ここに来るまでにそうやって襲われたのだから。

 だから俺は悪い事もしていないし、彼女の裸を合法的に見る為の言い訳をしている訳でもない! ないよ。


「……ご、ごめんなさい。私、須藤さんの事誤解していました。確かに貴方の言うとおり、さっきのスライムも急に上から襲ってきたんです」


 アレが上から落ちて来たのかー。そら怖かったろうなぁ。


「巧で良いよ」


「あ……はい。その……見張り、宜しくお願いしますね……巧さん」


「任せてくれ!」


 俺は周囲を警戒する振りをしながら、否、警戒しながら皐月ちゃんの居る方向もしっかりと警戒の視線を向けていた。

 たまたま五月ちゃんの裸がバッチリハッキリ見えたけど不可抗力です。

 皐月ちゃんも必要な事と受け入れてくれたしね。


「そういえば、巧さんもここに居るって事は、あのゲームで魔法を覚えたんですよね?」


この子の言うゲームと言うのはワールド・エンド・ゲームの事だろう。


「ああ、君は何の魔法を覚えたんだ?」


 ソレが分かればさっきのジェントルスライムに効果のある属性と無い属性が分かる。特攻属性を調べるのはゲームの基本である。


「私が覚えたのはスターライトっていうエネルギー系の魔法です」


 星属性って事か?


「そりゃまた魔法少女にぴったりの魔法だな」


「はううううう……」


 思った事を言っただけなのだが、なぜか皐月ちゃんは顔を真っ赤にして頭を抱え出した。

 とりあえず俺に視線が向いていないのでしっかりガン見させてもらおう。

 あと頭抱えてるから全部見えてる。言わないけどな。


「あれは……その……出来心だったんです」


「出来心って言うと?」


 五月ちゃんは頭を抱えたままモジモジと体を震わせる。

 うん、結構揺れてるわ。眼福眼福。


「私、マンガとかが好きで、それで、そう言う衣装を来て遊ぶイベントにも行きたいと思っていたんです。でも、そんな勇気を持てなくてずっと衣装だけ部屋に飾ってて、そしたら世界がこんなになっちゃって。それで、偶然モンスターを倒したらレベルアップして、それで頑張って生き残ろうって夢中になって闘ってたらスキルを覚えれる事に気付いて、そしたら、その魔法が使えるって書いてあったからそれで……」


 それで魔法を覚えて魔法少女デビューをしちゃった訳か。

 ある意味俺よりもこの世界を満喫してるなぁ。

 まぁ、俺も今スゴイ満喫してるけどな。


「君は何処で暮らしてるの? 俺達は近くのホームセンターをアジトにしてるんだけど」


「え? ホームセンター? 家じゃないんですか?」


 五月ちゃんは俺が家を拠点にしていない事を不思議そうに見る。


「学校に居る時に世界がこんなになっちまってさ。で、家に帰るよりもホームセンターに武器を探しに言った方が良いって思ったんだ。で、そのままホームセンターを根城にしてるって訳。となりはスーパーだし、数ヶ月はそこで暮らせるぜ」


「そっか、そう言う考え方もあったんですね。私はその日学校が創立記念日で休みだったから朝からずっと家に居たんですよ。そしたら急にスマホにメールが入って、何かのイタズラメールかなって思ったら家の外で悲鳴が上がって、窓から見たらご近所さんがなんだか分からないバケモノに襲われてて、慌てて窓から離れて身を隠して……パニックが収まってから窓を覗いたらご近所さんもバケモノもいなくなってたんですけど、道路に真っ赤な血が溢れてるのを見たら、そうなったんだって気付いたんです」


 その光景を思い出したのか、皐月ちゃんが自分で自分を抱きしめて体の震えを抑える。きっと見知った人間を見捨ててしまったと後悔しているんだろう。


「お父さんもお母さんも帰ってこなくて、携帯にかけてもつながらなくて……ご飯も残り少なかったから、ご飯を買うために家にあった脚立を持って出かけたんです」


「何故に脚立?」


「いえ、武器になりそうなのがそれぐらいしかなくて、でも脚立凄いんですよ! 武器になるし、盾になるし、上からかぶせれば動きも封じれるんです。モンスターに襲われた時、それでゴブリンの動きを封じて思いっきり大きい石で何度も殴ったら勝てたんですよ!」


 およそ魔法少女らしからぬ攻撃方法ですねー。

 ところで脚立の有用性を証明する為に腕をブンブン動かす事でブルンブルン別の所が動いて素敵なんだが。

 いや、ちゃんと警戒もしてるよ。

 ほら、すぐ近くにレッドスライムがやって来てるし。

 ……っ!?


「って来た!」


「え? 何がです?」


 俺はペットボトルの蓋を開けてレッドスライムに水をかける。


「近くのスライムが集まってきた。服を来て!」


 凄く名残惜しいけどな!


「は、はい! あ、でも上着だけで下が……」


「貸したタオルを巻け!」


「あ、そうですね」


 皐月ちゃんが服を着る間にレッドスライムを一体撃破する。

 周囲を警戒すると、グリーンスライムとブルースライムも近づいてきていた。


「赤いのは触れると焼けどする! 緑は硬いから数発魔法を討つ必要がある! 青いのは一発当てれば倒せる!」


「分かり……ました……着替え終わりました! 今から手伝います!」


 皐月ちゃんが俺の横に来て魔法を放つ。


「スターライト!」


 皐月ちゃんの手から星が溢れ出し、グリーンスライムに向かって飛んで行く。

 だがやはりグリーンスライムは硬く、俺と共に数発当ててようやく倒せた。

 ブルースライムに関しては、まぁ一発で倒せるので割愛である。


 この戦いではレベルアップはしなかったなぁ。 

 アイテムも落とさなかったし。


「やっぱり2人で闘うと全然違いますね! MPも消費も半分で済みますし」


 それはある。自分と違う属性の魔法を使う人間が居るってのはありがたいわ。


「巧さんは火属性の魔法を使われるんですね」


 俺のファイアアローを見ていた皐月ちゃんが焼け焦げた地面を見て言う。


「ああ、ハズレ無しで敵にダメージを与えれる属性を選んだからな」


「なるほど」


 俺としては躊躇い無く星属性なんてものを取った事に驚きだぜ。

 多分ゲームで実用性よりもロマンを優先するロマンプレイヤータイプなんだろう。

 だがそれでも協力出来る相手が居るってのはデカい。


「なぁ皐月ちゃん、良かったら俺と組まないか?」


 せっかく他のプレイヤーと出会えたんだ。

 ここは協力するべきだろう。

 今回のイベントには強力な敵を倒すとレアアイテムの配布が在るとメールに書かれていた。

 だがイベントの参加条件が魔法を覚えたプレイヤーで、参加期限が24時間なのを考えるとソロでの強モンスター退治は非常に困難である。

 だから仲間を探す。

 24時間なんて中途半端に長い時間設定なのもソレが理由なのだろう。

 俺は皐月ちゃんの返答を待つ。


「……そうですね。分かりました。巧さんと組ませてもらいます」


「よし、じゃあこれから頼むぜ皐月ちゃん!」


「はい!」


 こうして、俺と皐月ちゃんの急造チームが結成されたのだった。

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