第12話 イベント開幕!
「んじゃ、準備も出来たし、イベントに参加するか」
イベント参加の為の準備を終えた俺は、荷物の入ったカバンを背負う。
スマホの充電もOK。充電池も持った。コレでイベント中に電池が無くなる心配も無い。
「気をつけろよ」
「きおつけてねー」
真澄と折羽ちゃんが見送りをしてくれる。
すっかり仲の良い兄弟だ。
「んじゃ【参加】をぽちっと」
スマホの参加ボタンを押す。
すると周囲の景色が霧にかかった様にぼんやりと薄れていく。
「なるほど、イベントが始まるとステージが変わる訳か」
まぁゲームだしな。ステージ転移とかあってもおかしくない。
最もそれを現実に行うんだから神様の存在はやはり真実だと認めなくてはならなそうだ。
そして、完全に視界が霧に埋もれていく。
◆
気が付くと、俺は見知らぬ森の中にいた。
「ここがイベント会場か」
工具袋の手斧を構えて周囲を警戒するがモンスターが現れる気配は無い。
念の為スマホを確認するが、特に新しいメールは無かった。
変わりに画面右上に【イベントが終了するまで残り23:59:55】とカウントダウンが表示されていた。
「とりあえずは拠点を探すか」
それはイベントの説明文を見た真澄からのアドバイスだった。
イベントは24時間ぶっ続けで行われる。
だが俺達はずっと闘い続けるのは無理だ。
魔法イベントである以上、MPの消費にも気をつけないといけない。
まずは森を出る事にする。
最初に地面に手斧でバツ印をつけて、近くに生えていた木の枝を折って突き刺す。ここからスタートしたという目印だ。
目印を用意したらまっすぐ進んでいく。ある程度進んだら小刀で木に矢印を刻む。
それを繰り返しながら進むと、やがて森を抜ける。
森を出た先は広い草原になっていた。
「広いな。って事は結構広い土地なのか?」
草原をまっすぐ突き進むのはやりたくない。隠れる場所も逃げるアテも無いからだ。
困った時の真澄からのアドバイスその2、水場をさがせ。
一応水は持ってきたが、イベント中は何が起こるか分からない。だから水場を確認しておけ。
と、いう訳で俺は森に沿って移動する事にした。目印がある場所を動いた方が良いと真澄が言っていたからだ。
少し歩いて行くと、森の中から何かが飛び出してくる。
それは赤色と水色のプルプルしたゼリー状の何かだった。
「これがスライムか」
どう見てもスライム以外の何者でもない。
俺は試しに丸ノコの替え刃を青い方のスライムに投げつける。
丸ノコの刃はあっさりとスライムを真っ二つに両断した。
「意外に弱……って何!?」
なんと真っ二つに両断されたスライムが動き出し、1つの塊に戻ってしまったのだ。
「もしかしてスライムは物理無効なのか!?」
だとすれば意外と危険だ。
一体二体なら対応できるが、あまり数が多いとMPが切れてしまう。
などと考えていたら、赤色のスライムが飛び掛ってきた。
俺は横っ飛びに回避して赤色のスライムに向き直る。
青色のスライムは動きが鈍いが赤色のスライムは動きが活発だな。
ともあれ、今度は魔法が効くか実験しておくべきだろう。
「ファイアアロー!」
俺は青色のスライムにファイアアローの魔法を放つ。
炎の矢がスライムに命中すると、青色のスライムはドロドロと溶けて消えてしまった。
やはり魔法は効果がある訳か。
とその時だった。
ポンッ
突然スライムの居た場所に宝箱が現れる。
「なんだ!?」
まるでゲームの様に現れた宝箱に驚く俺。
しかしソレがいけなかった。
宝箱に気を取られた俺に赤色のスライムが飛びかかってきたのだ。
「うわぁぁぁ!」
スライムが俺にのしかかる。
重くはないが体に絡みついてなかなか離れない。
それだけではなかった。
突如全身が焼けるように熱く痛み出す。
「あづづづづづづっ!!」
俺は慌ててスライムを剥がそうとするが痛みと熱はドンドン強くなる。
こうなったら仕方ない!
俺は覚悟を決めて自分に向けて魔法を放った。
「ファイアアロー!!」
だが俺の炎の矢は赤色のスライムを害する事は無く、吸い込まれる様に消滅してしまった。
それどころか更に熱と痛みが増す。
「あががががががが!!!!」
尋常でない痛みと熱に俺はパニックに陥り、もがき苦しみながら背負いカバンの中の2ℓペットボトルの水を頭からぶちまけた。
するとどうだろう、アレだけはがれなかった赤色のスライムが逃げ出す様に剥がれて地面でのた打ち回っていた。
俺は半ば本能的にペットボトルの中身を赤色のスライムにぶちまける。
本能の判断は正しく、赤色のスライムは大量の水をかけられ、突如消滅してしまった。
そして現れる新たな宝箱。
「よっしゃー!!」
全身を蝕む痛みを敵を倒した事の喜びで誤魔化す。誤魔化さなければ耐えられないからだ。
赤色のスライムに触れられた所は水ぶくれと焦げたような匂いがしている。
俺は苦しみから目をそらす為に目の前の宝箱に触れる。すると宝箱の蓋が自然と開いた。
俺は驚きに身を竦めるが、特に罠などが発動する気配は無かった。
何も起きない事を確認した俺は、そっと宝箱の中身を見る。
そこには赤い液体が入ったフラスコビンが入っていた。
「薬か?」
念の為もう1つの宝箱を開けると、そちらには青色の液体が入ったフラスコビンが入っていた。
「青と赤の薬か……」
ソレが何かは大体想像がついていた。
だが確証が無い。
しかしそれを安全に確かめるだけの余裕がないのも事実だった。
それがアレかも知れないという希望が俺に怪我の痛みを思い出させたのだ。
こうなったらもう試す以外に道は無い。
俺は覚悟を決めて青い液体の入ったフラスコの蓋を開け、中身を一気に飲み干した。
すると、見る見る間に身体を蝕む痛みが消えていく。
自分の身体を見れば、赤色のスライムに触れられ水ぶくれになっていた箇所が綺麗無くなっていた。
先ほどまでのモンスターとの戦闘などなかったかのようだ。
「やっぱり青色はポーションだったか。となると赤色はMP回復のポーションかな?」
俺は中身が空になったペットボトルと赤い液体の入ったフラスコをカバンにつめる。念の為フラスコはタオルで包んでおくか。
「いじゃ移動を再開するかね」
◆
暫く進んでいくと、再びスライム達に遭遇した。
最初に出会った青色のスライムが2体だ。
俺は慌てる事無くファイアアローを発射する。
青色のスライム達はファイアアローで難なく燃え尽き、1つの宝箱を出現させる。
どうやら宝箱の出現はランダムみたいだ。
ちなみに中身は青いポーションだ。
合計して4体のスライムを倒したので、一旦スマホを起動させると、やはりレベルアップしていた。
これでLv9だ。
だがスキルポイントが足りないので新しい魔法を覚えるのは後廻りになりそうだな。
また暫く歩くと、赤色のスライムが出てきたので全力で逃げて身を隠す。
と言うのも、赤色のスライムには俺の魔法の効果が薄かったからだ。
恐らくだが、赤色のスライムは炎属性のモンスターなのだろう。
だからダメージを受けた時に熱くなったり炎の矢を撃っても吸収されてしまったのだろう。
そうなるとヤツを倒す方法は手持ちの水だけになってしまう。
だが水は貴重だ。
赤色のスライムを退治したいなら、水魔法の使い手の力を借りるか大量の水を用意する必要があった。
だがそのどちらも用意できないので逃げたのだ。
それでは費用対効果が明らかにつりあわなかった。
なので逃げた。
その間も青色スライムを何体か狩り、ポーションが4つ手には入り、レベルが1上がった。
コレで現在はLv10で青色のポーション5個となった。
回復手段も手に入ったし、結構幸先が良いかもしれないな。




