第11話 魔法を覚えました
「よっしゃー! 魔法を覚えるぞー!」
「おぼえるぞー!」
Lvが8になった俺達はスキルポイントが10まで溜まった事で念願の魔法が使えるようになった。
折羽ちゃんがつられて叫ぶが、きっと意味は理解していないんだろうな。
「で、何を覚えるんだ? 俺は攻撃魔法だな」
せっかく魔法を覚えるんだから、派手な攻撃魔法がいいだろう。
「俺は回復魔法だな。回復手段がハッキリしない以上確実に回復できる手段は欲しい」
作戦名は【命大事に】ですな。
俺達はスマホをいじって魔法スキルを取得し、お目当ての魔法も取得する。
「【ヒールLv1】を取得した。これでHPを固定で50回復できるぞ」
「こっちは【アイスアローLv1】か【ファイアアローLv1】のどっちにするか迷ったけど、ハズレのない【ファイアアローLv1】にしたぜ」
スキル取得系のゲームだと、対して役に立たない地雷スキルと言うのが存在する。
スキル説明を見ると強そうなのだが、実際に使うとダメージ計算とか何かが大した事なくて、最悪普通に闘ったほうが強いような弱体化スキルと判明する場合もあった。ゲームなら運営が改善してくれる事も在るが、このゲームを作ったのは神様だ。人間の運営の様に改善してくれるとは限らない。
そして【アイスアローLv1】はハズレスキルの可能性が高かった。
通常アイスアローなんて聞くと大きな氷の矢が飛び出して敵に突き刺さり、刺さった場所が凍るイメージだ。
だが実際にアイスアローを発動して、敵にぶつかった氷の矢が敵に刺さらずに砕ける可能性がある。本当にただの氷の矢で凍結効果が無いかもしれない。
だから確実にダメージが叩き出せるだろう【ファイアアローLv1】を選択したという訳だ。
実際の魔法についてはそれを取得した連中から聞けば良い。今は確実に使えるスキルを覚えるのが先決だ。
「ためし魔法と言いたいが、回復魔法じゃ試しようが無いな。……なぁ巧」
「断る!」
俺は即座に断った。
「まだ何も言ってないだろ」
「試しにちょっと怪我をしてくれないかとか言うのは無しな」
「ちっ」
悔しそうに舌打ちする真澄。
お前それでも友達かよ。
「ちょっくらモンスター相手に試すから屋根行ってくるわ」
「おう」
「いってらっしゃーい」
真澄と折羽ちゃんはお留守番だ。
子供にモンスター退治する光景を見せる訳には行かないからな。
真澄もそんな危ない場所にあの子を近づけさせたくは無いだろうし。
◆
屋根の上に出た俺は、早速駐車場にいる魔物を発見する。
ここの駐車場は定期的に外から魔物がやって来るので俺達の狩場みたいなもんだ。
モンスターの養殖とか出来ないもんかね。
「そんじゃ兎でも狙うかね」
ここ数度の戦闘で分かったのだが、兎はスピードは速いがHPは少ない。
単純なバランスならゴブリンのほうが上だろう。
俺は兎に手をかざして、魔法の名前を唱える。
「【ファイアアロー】!」
すると掌の先から細長い炎が飛び出て兎へと飛んで行く。
しかし魔法は兎に回避されて無駄に終わってしまった。
ホーミング性能はないのな。別の魔法にはあるんだろうか?
だが魔法を避けられると言う事はある程度的の動きを読む必要が在るな。
俺は工具袋からワイヤーの付いた手斧を取り出し、それを兎に向けてブン投げる。
先の攻撃を回避した兎は俺を警戒している為、手斧を回避する。だがその直後に時間差で炎の矢が飛んできて、兎の足に命中した。
「ギィィィ!!」
兎が悲鳴を上げて苦しむ。兎の足を燃やす炎は兎の全体に広がって行き、遂には全身を焼き尽くしてしまった。
ワリと燃え広がるの早いな。毛皮だったからなのか、モンスターだからなのか、一体どっちだろうか。
更に言えば炎で焼いて殺したと言うよりは、重度の火傷で死亡って感じだ。
直撃すれば焼き殺せるのだろうか? それとも魔法のLvを上げるのが先決か。
まぁ、想定とは違ったがファイアアローは見事兎を焼き殺した。
コレは使い方次第では色々と応用が聞くかもしれないなぁ。
是非とも新しい魔法を覚えたいところだ。
◆
「ただいまー。魔法結構使えるわ」
魔法の実験を兼ねたレベル上げが終わった俺はホームセンターの中へ戻ってくる。
「おう、MPの消耗はどうだ?」
真澄はMPを消費した状態の体調について聞いてきた。
「そうだな。ちょっとだるいか。限界までやったらどうなるのかは分からんけど、この虚脱感からして、MP0になったら碌な事にならないだろうな」
「そうか。となるとMP回復の出来るアイテムが欲しいところだな」
ああ分かる。MP回復はやっぱ欲しいよな。
「それと、新しいメールが来てたぞ。魔法使い系限定クエストだそうだ」
「マジか」
真澄に教えられた俺はすぐにスマホを起動させてメールを確認する。
『魔法使い限定イベント【スライムを倒せ!】開催!』
どうも魔法を覚えたプレイヤー限定のイベントみたいだ。
俺と真澄も条件を抑えたのでこのメールを貰うフラグが立ったようだ。
『このメールは魔法を覚えたプレイヤーにのみお送りします。このイベントではスライム系の魔物が大量発生致します。ですので皆さんは頑張ってスライムを退治してください。スライムを大量に倒したプレイヤーには豪華な報酬が授けられます』
典型的なゲームのイベントだなぁ。
「参加するか?」
「どうすっかなぁ」
イベントと言う事は結構言い報酬があるんだろう。
場合によっては限定報酬が在るかもしれない。
けど俺達のLvはまだ8だ。イベントに参加するにはちと心もとない。
ゲームなら全滅してもリスポーンするかコンティニューできるけど、現実で死んだらそれで終わりだ。
「悩んでるのなら報酬欄見てみろよ」
「報酬欄?」
俺はメールをスクロールするとその先にある報酬欄を見た。
『このイベントでは倒したスライムの数、種類、強さに応じて様々な報酬が手には入ります。倒したスライムの数に応じてポーションやMPポーションといった消耗品アイテムが貰え、複数の種類のスライムを退治したプレイヤーには倒した数に準じたスキルポイントを贈呈します。そして見事強力なスライムを退治したプレイヤーには特殊な装備アイテムが送られます』
なるほど、最低でも回復アイテムは手にはいるのか。
それにスキルポイントが貰えるのも嬉しいな。Lvを上げなくてもスキルポイントが手に入るのはかなり大きい。基本Lvってのは高くなるほど次のLvに到達するのに必要な経験値が増えていくもんだ。それにLvがカンストしたらそれでもうスキルポイントが手には居る手段が1つなくなってしまう。
だからこうしたイベントを救済処置の1つとして用意してあるんだろう。
人間に絶望した割にはサービスの効いている神様だ。
『イベントの募集期間は本メールを受け取ってから24時間です。また、イベントの開催期間も24時間となります。24時間が経過した時点でイベントは終了となります。イベントに参加される場合は【参加】を選択してください』
「募集時間ってのが一日あるのは装備を整える準備時間なんだろうな」
となればすぐに準備をはじめないと。少なくとも一日分の食料、それに24時間闘うなら魔法以外でスライムを倒す手段も考えておかないと。
スキルポイント、それに出来ればレアな装備アイテムも欲しいからな。
「よし、俺は参加するぜ!」
「そうか、頑張れよ」
「え?」
まさかの辞退である。
いや、お前の回復魔法当てにしてたんだけど。
「俺は今回のイベントを辞退する。募集時間がメールを受け取ってからって事は、このイベントは各プレイヤーの個別イベントで他のプレイヤーは参加できない可能性がある。となると回復魔法しか使えない俺が参加するのは危険だ。それに……」
真澄が折羽ちゃんを見る。
「この子を丸一日一人ぼっちにする訳にはいかないからな」
そうだった。
確かに俺達がイベントに参加している間、この子は一人になってしまう。
だからと言ってこの子をイベントに参加させるのはそれはそれで危険だ。
「分かった。今回のイベントは俺一人で行ってくるわ」
「すまんな」
それも仕方が無い。
真澄がそれを選ぶのは至極【当然】の事なのだから。
「じゃあさっそくイベントの準備をするか!」
「それは手伝わせてもらうぜ」
「てつだうー!」
こうして俺達はイベント対策の準備にいそしむのであった。




