第1話 現代の冒険者
新連載の始まりです。
連載初日は7時、12時、16時、18時の4回に分けて連続公開します。
「アレがワールドキャリアか」
俺達はビルの屋上からソイツの姿を見ていた。
全長100mの巨体。ドラゴンのようにも見えるがその背中には巨大な鳥の羽とコウモリの羽が生え、全身に生えた鱗は魚や蜥蜴のそれではなく、甲冑と言った方が相応しいモノだった。
側面には蔦とも触手とも取れない触腕が何本も生え、ユラユラと揺れては周囲を警戒している。
「猫のヒゲみたいなモンかね」
と、そこへチームの仲間がやって来る。
「他のチームも全て所定の位置についたそうよ。予定通り13:00に全チームがバフを始めるわ。13:01にデバフチームがワールドキャリアにデバフを仕掛け、反撃を受けたら前衛チームがビルの上空から奇襲を仕掛ける。そのスキにデバフチームは一時撤退、シールド部隊の後方に下がり防御結界内でHP、MPの回復。ワールドキャリアの反撃をシールドチームが防御した後で後衛部隊が魔法と弓と機関銃で攻撃。一番ダメージの多かった属性を確認し次第前衛チームは装備を変更。時間を稼ぐ為に遊撃舞台が捕縛魔法と地形操作魔法でワールドキャリアの動きを阻害するわ」
作戦の内容を簡潔に説明してくれるので、作戦前に皆が緊張している時は非常に助かる。
「よっし、それじゃバフ頼むわ」
バフ魔法専門の魔法使い達が杖を構え、俺達前衛部隊に補助魔法を発動させる。
「【身体強化】【速度上昇】【攻撃力上昇】【魔力上昇】【防御力上昇】【魔法防御力上昇】【高速思考】【貫通】【火属性付与】【水属性付与】【風属性付与】【土属性付与】【雷属性付与】【光属性付与】【闇属性付与】【毒属性付与】【連続攻撃付与】【飛翔付与】【精霊加護付与】【幸運付与】【全耐性上昇】」
己の得意な補助魔法を極限まで鍛え上げた魔法使い達が様々なバフを行っていく。彼等のバフ魔法スキルは全て最大Lvにまで到達していた。
まさしくこの戦いのもう1つの主役だ。
「対象から魔力反応! 気付かれました!」
「なんだって!?」
まだデバフ部隊が行動していないというのにワールドキャリアが行動を開始したという。
「恐らく高射程の魔力感知を持っていたと思われます!」
「くそ、バフはここまでだ!防御魔法に変更!!」
バフ魔法部隊がワールドキャリアの攻撃を経過して防御魔法を発動する。
「敵の攻撃来ます!!」
監視役が悲鳴のような報告を上げながらこっちに走ってくる。
その鬼気迫る表情からろくでもない攻撃が行われるのは疑いようもない。
「【マスターガード】!!」
盾部隊の魔法使いが最高クラスの防御魔法を発動する。
イキナリ魔力の無駄遣いをするなと叱ろうとしたが、それを使ったのは【魔力感知】を持っている魔法使い。こと魔法攻撃に対しては絶対の防御力を持っていると自認する男だった。
「防御範囲に急げ!!」
そんな男が魔力の無駄遣いなどを考えずに最高位魔法を発動させた。
「【縮地】!」
「【転移】!」
「【神速】!」
その意味を理解した連中が全力で高速移動系スキルを発動して防御魔法の効果範囲へと駆け込む。
直後、俺達が立っていたビルが光に包まれた。
「ぐぅぅぅぅ!!!」
マスターガードを使った魔法使いが苦痛の声を上げる。
「防御魔法を補強しろ! サポート急げ!!」
「【魔法威力強化】!!」
「【ミラーシールド】!!」
「【空間湾曲】!!」
バフ魔法の使い手がマスターガードの効力を強化し、反射魔法の使い手がシールドを斜めに展開して直撃を避けようとする。
そして空間魔法の使い手がワールドキャリアの攻撃に干渉して進行方向を捻じ曲げていく。
イキナリの先制攻撃を全力で防御し、漸く攻撃が終わったと思った時には既に周囲の土地は廃墟と化していた。
当然そんな状況なのだから俺達の足場も存在していない。
俺達は敵の攻撃を防御する防御魔法ごと空高く吹き飛ばされたのだ。
「うわっ、落ち、落ちる!?」
気が付いたら空にいた事で多くの仲間がパニックに陥る。
「俺達は飛翔魔法をかけられてる! 魔法が切れるまでは墜落する事はない! バフ部隊は飛翔魔法でそのまま後方へ待避! 前衛部隊はこのままワールドキャリアに突撃だ!!」
同じ事を考えたのだろう。地上の後衛部隊が魔法を発動してワールドキャリアに攻撃を仕掛けている。
そして盾部隊が進軍し、後方にデバフ部隊がついていっている。
多少数は減ったが、作戦は続行するみたいだ。
「後衛部隊に遅れるな! 後衛の攻撃の効果を見ながら装備を交換! 落下速度を利用してワールドキャリアに上からぶちかませ!!」
「「「「応っ!!」」」」
冷静さを取り戻した仲間達が勢い良く返事をしてくる。
士気はまだまだ高い。
戦いは始まったばかりだ。
「巧」
後ろから声がかけられる。
そこにいたのはバフ魔法部隊の柊だ。
「死なないでよ」
「当たり前だ」
不安そうな、それでいて不安を悟られないように柊が笑顔を見せる。
やっぱコイツ良い女だよなぁ。
「じゃ、行ってくるわ」
俺はもう振り向かない。
俺の意識は、これから戦うラスボスとのレイドバトルにのみ集中を始めたからだ。
「さぁ! ラストバトルの始まりだ!!」
これが、ゲームになっちまった俺達の世界の行く末を左右する最後の戦いになる。
「【龍皇剣】!!」
俺の魔剣が赤い光を帯び、ワールドキャリアに襲い掛かる。
この世界を魔物だらけの楽園に変えてくれた恩人に刃を向ける。
「お前を倒してゲームクリアだぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
この世界をゲームに変えてくれた恩人と、俺達は最後の戦いを始める。