逆ハーレム生徒会の日常 Final
この話は5月のある日の放課後の話である。
私立白川大学付属高等学校の生徒会役員の募集は締め切られた。
生徒会室には学年が異なる6名の生徒が集っている。
「最終的に今年の新入生は修クン以外、入ってこなかったなぁ……」
生徒会長である高橋 雄大が肩をがっくりと落としながら言う。
「そう言えば、そうですよね。去年は私と木崎くんだけでしたし」
「鈴奈クンが入ってくれなかったら男子校状態だよ」
「今もそうじゃないですか? 俗に言う「逆ハーレム」ですよ。逆ハーレム! もう、女子は入ってこないのですか?」
小笠原 鈴菜がそこに置いてある机を両手で1度バンと叩く。
「鈴奈ちゃん、それ言ったら終わりだよ?」
「入ってこないのは仕方ないことだし、諦めるんだな」
「むぅ……木沢先輩、木崎くんまで……」
この高校の生徒会で鈴奈は唯一の女子生徒かつ生徒会副会長である。
よって、正真正銘の逆ハーレム生徒会だ。
「そもそも、私達の仕事が問題なんじゃないんですか?」
「まぁ、他の学校ではあり得ないことだろうしね……」
「学生同士が裁くのは適さないし」
鈴菜の問いに書記の木沢 聡と彼女と同じポジションを担う小笠原 達也が答える。
「あの……質問したいことがあるんですが……」
少し申し訳なさそうな口調で彼らに話しかける修。
「吉川くん、何か質問か?」
会計の木崎 政則が彼に問いかける。
「ハイ。生徒会室なのに、なぜ、モニターがたくさんあるんですか?」
修がたくさんのモニターがあるところを指差した。
それは各教室にいくつか設置されており、クラスの様子を捕らえているようだ。
「はじめて生徒会室に入った人は必ず言われる質問ですね」
「鈴奈クンも同じ質問をしてたよ」
「……うっ……」
「その質問は入学時の定番ですよね。懐かしい」
「ちょっと、木崎くん!」
鈴菜が答えようとするが、雄大と政則のからかいによって、その機会を阻まれる。
「これらのモニターはね……みんなを監視するためにあるんだよ?」
彼女の代わりに聡が答えた。
その時の彼の瞳は鋭く修を見ている。
彼は「ひぃ……」と言い、少し怯えているようだった。
そして、聡から引き継ぐように雄大が口を開く。
「修クン、これから話すことを聞いてほしい」
「ハイ……?」
「この学校の生徒会は他の学校と違う点がある。生徒会運営の傍ら、生徒を裁くことがメインとなる」
「表はちゃんとした生徒会役員で、裏は嘘をついた生徒を裁く生徒殺戮者といったところだな。ですよね、会長?」
「そうだな」
彼と政則がこの学校の生徒会の仕事について説明する。
彼らの表情は闇に包まれたような裏の顔だ。
「えっ!? それはいずれ、僕も裁いたりするんですか?」
「その通りだ」
「………………」
それを聞いた修は何も言えずに固まっている。
鈴菜が「吉川くん!? 大丈夫ですか!?」と声をかけたが、反応はなかった。
「吉川くん、放心してるよ」
「みんな揃って吉川くんを怖がらせるからですよー」
彼女が修の身体をペチペチと叩いたりするが、あまり変わらなかったようだ。
「1年生はまだ8月まで猶予期間があるからな」
彼らが通っている私立白川大学付属高等学校は先ほども書いたように「嘘をつくと生徒会役員に裁かれる」という噂がある。
1年生は前期が終わる8月いっぱいまでは猶予期間としてされており、夏休みを挟んで後期から生徒会役員によって裁かれるのだ。
よって、この高校に通う学生達は生徒会による「生徒生き残りゲーム」に強制的に参加させられているということになる。
一応、彼らが今年度の生徒会役員のメンバーだ。
*
突然、生徒会室のドアが開き、「全員、揃ったか?」と男性がつかつかとそこに入ってきた。
「「渡貫先生!」」
修以外の生徒会役員が反応する。
「吉川はいる?」
その男性は修を呼ぶが、反応が返ってこない。
「吉川くんなら、私達の仕事内容を聞いて放心してしまいました」
「おまえら、新入生に怖がるようなことをしてどうする?」
鈴菜が彼に事情を説明し、渡貫は一瞬苦笑し、彼らに注意すると、「すみません」と謝ってきた。
「まぁ、吉川にも1から生徒会運営のやり方を教えなければな……同性役員だと、どうしようもない」
「渡貫先生、私でよければ引き受けますよ?」
「鈴菜、いいのか?」
「こればかりは仕方ないことです。また、今みたいに放心されると困りますしね……」
「そうだな。新入生の役員は彼しかいないから、じっくり調教してほしい」
「分かりました」
渡貫と鈴菜が話している時に、「先生、誰が教育係をやるか決めてもいいですか?」と雄大が訊く。
「君達、少し遅かったな。吉川の教育係は鈴菜に頼んだ。だから、彼女が困った時のサポートだけで構わない」
彼はそう言うと、彼らは「早っ!」と返事した。
その時、「ん……」と修が身体を起こす。
「吉川、大丈夫なのか?」
「ハイ……渡貫先生ですよね? 先ほど、僕のはしたないところを見せてしまってすみませんでした」
「はしたないだなんて……俺がくる前に活動内容を聞いたみたいだな」
「えぇ」
「この学校の生徒会運営は大変であり、難しいこともあるかもしれない。何か困ったらここにいる5人に聞いて少しずつ慣れていってほしい」
「ハイ」
渡貫は修にそう告げた。
たまたま、渡貫の後ろから鈴菜が顔を出す。
「吉川くん、教育係は私ですので、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「修クン、頑張れ!」
「吉川くん、鈴菜ちゃんは優しいから、分からないことがあったらなんでも訊いてね。僕達もできるだけサポートするからね!」
「ハイ、頑張ります!」
修の生徒会役員としての活動が本格的に始まる。
これからの彼はどのような活躍を見せてくれるのだろうか……。
今回の作品で『私立白川大学付属高等学校生徒会シリーズ(https://ncode.syosetu.com/s2032c/)』の短編版が完結することができました。
この作品以外に同題名の作品があと3作品ございます。
もし、よろしかったら読んでみてくださいね。
2016/08/13 本投稿
2022/02/20 後書き欄修正