最終話 俺が彼女でわたしが彼で
「…………? 知らない部屋だ」
部屋を見回してみると、どうやら女の子の部屋のようだ。
「もしかして」
直人はあるものを探す。
「あった!」
それはスマートフォン。自分の……ではないけれど、最近見慣れたものだ。
と、画面に見覚えのある番号が表示される。直人は躊躇うことなく電話に出ると、思った通りの人物から電話がかかってきた。
『もしもし、稲垣くん?』
「ああ、俺だ」
『どうやら入れ替わってしまったみたいね』
電話の相手は柚姫。しかし聞こえてくる声は男のもの。どうやら寝ている間に中身を入れ替えられたらしい。
「次のステージってのがもう始まったのか?」
『多分そうじゃないと思う。恐らくだけど今日中に答えを出せってことじゃないかしら?』
――答え。
直人は自分の内にある考えを纏める。
「西園寺。話したいことがあるから学校近くの公園に来てもらえるか?」
『……ええ。わかったわ』
そして二言、三言、言葉を交わした後ぷつんと通話が切れる。
直人は慣れた手つきで制服に着替えると、柚姫の家族にばれないようにこっそりと家を出た。
✤
直人は携帯のマップを頼りに、慣れない道を進むこと三十分ほどで目的の公園へとたどり着いた。
周囲には人影がなく、柚姫はまだ到着していないようだ。
直人は手近なベンチに腰掛け、柚姫を待つ。
何分待ったことか……ジャリっという土を踏む音がしたと思うと、柚姫が目の前に立っていた。
「それで? 話って?」
「いきなり本題かよ」
直人は苦笑いを浮かべてえ、前に立つ柚姫を隣に座るように促す。柚姫は素直に隣に座った。
「えっとだな、こほん。とりあえず俺の意思を示しておく」
「うん」
「俺は入れ替わってしまってもいいと思っている」
「…………」
柚姫は驚いた表情で直人を見ている。そりゃそうだ。普通なら元の体に戻りたいと、そう思うはずだから。
「わ、わたしも」
「ん?」
「わたしも、入れ替わっちゃいたいと思ってる」
「え!?」
今度は直人が驚く番だった。
「な、なんで?」
「わたしは……自分が嫌いなの。本当に嫌いで、変わることもできなくて、だからいっそのこと自分じゃない誰かになりたいとそう願った」
柚姫の告白を直人は黙って聞く。柚姫の想いは悲痛で、聞いている直人の心も痛んだ。
「俺も似たような気持ちだよ。自分が嫌いで、だから自分じゃない誰かになりたいってそう願ったんだ」
直人と柚姫はそれから沢山のことを話した。本当にその選択でいいのか。自分のことについて。二人は自分の全てを相手に伝えた。
「これで入れ替わってもきっと誰にもばれない」
「大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。なんたって俺たちは優秀なんだからさ」
「ふっ、そうね」
二人はどちらともなくベンチから立ち上がり、歩き出す。
「それじゃあ、神様に会いに行くか」
✤
カランカランとベルのなる音が響く。喫茶店に入ると、そこには既に神と名乗った少年が座っていた。
店内は異様なほどの静けさに包まれており、少年以外の人影は居ない。
「やあ、二人とも。決心はついたのかい?」
「ああ」
「はい」
少年は立ち上がると二人の目を見据える。
直人は最後に柚姫と目を合わせその意思を確認する。
「……俺たちは入れ替わって、人生をやり替える!」
「へえ、そっちの選択肢を取ったか。まあいい……よろしい! 君らの願いはこの僕が叶えてあげよう!」
少年は大きく両手を広げると満面の笑みを浮かべる。
「君らの中身は入れ替わり、二人の人生は大きく替わる! その果てに何があるかは分かりはしないが、頑張ってくれたまえ!」
「言われなくともな」
「ええ、そうね」
三人してくすりと笑みをこぼす。
「それではさらばだ!」
少年はそれだけ言うと忽然と姿を消した。
残ったのは稲垣直人と西園寺柚姫の二人だけ。中身は入れ替わったままだ。いや、今後はこの形こそが正しいものとなっていくのだろう。
――稲垣直人が西園寺柚姫で西園寺柚姫が稲垣直人で、人生をやり替えていく。
これにてこの作品は完結とさせて頂きます。今まで読んで下さった方々ありがとうございまいた。
それではまた、次の作品でお会いしましょう!