第五話 (あ、あー。なるほど)
考えれば分かること……というかなんとなく分かってはいたけれど、やはり直人と柚姫の入れ替わりはまだ終わっていないらしい。
翌日、遅刻ギリギリに登校してきた柚姫は自分の席に着いた瞬間直人と入れ替わった。
「「!?」」
急に入れ替わった二人は驚き、辺りをきょろきょろと見回す。
直人は元居た窓側一番前の席から柚姫の席である廊下側一番後ろにいることに気付き、落ち着きを取り戻す。
柚姫はいきなり直人の友達に囲まれている状況になり、テンパってしまう。
「どうした直人? 急にきょろきょろして」
と、直人の友人である翔が不思議そうに尋ねる。
「あ、え、うん。な、なんでもない!」
直人の挙動不審な態度に今度は陸が絡んでくる。
「直人くんその態度は何でもなくないでしょー。なんかいいもんでも見つけたん?」
「い、いやそういう訳じゃないから」
あたふたと慌てる柚姫の元に幸いにも助けが訪れる。
「おらーお前ら席に着け! ホームルーム始めるぞ」
やってきたのは担任の佐藤。これで柚姫は一時的ではあるがピンチから脱出する。
散らばっていた生徒たちが席に戻っていき柚姫も自分の席に戻ろうとする。
……が
「稲垣くんの席はあっちでしょ」
うっかり柚姫は本来の自分の席に戻って来てしまった。それを直人に注意される。
「あ、うん」
柚姫はいそいそと直人の席へと戻った。
✤
ホームルームが終わり、早速現状の確認をしようと席を立つ柚姫。
「直人くんー。着替え行こうぜ!」
後ろから陸がそう声を掛けてくる。
「え!? き、着替え?」
「どうしたん? 次体育なんだから着替えなきゃダメじゃん。体育着忘れた?」
「いや、あ、ある!」
柚姫は机の横に掛けられていた体育着の入った袋を手に取り、陸と一緒に男子更衣室まで行ってしまう。
「なにやってんだあいつ」
その様子を見ていた直人は、さて自分はどうするかと考える。
(さすがにこの格好で着替えるのはまずいよな)
と、思っていたら周りの女子たちが着替え始めたではないか。
この学校は女子は教室で、男子は更衣室で着替えるのが当たり前になっている。
どんどん脱ぎだす周りの女子に焦る直人であったが、あることに気付く。
(あ、あー。なるほど)
女子というのは不思議なもので、周りが女子だけであっても、ハーフパンツを穿くときはスカートを下げずに穿いたまま穿くようだ。そして穿き終わった後にスカートを脱ぐみたいだ。
その為着替え中であってもパンチラ一つ起こらないという不思議空間に直人は居た。
(ま、俺も着替えますか)
周りの女子を参考にしつつ着替え始める直人。結局おいしい思いをすることなく体育着に着替え終わってしまった。
(えっと……今日の体育はバスケだから体育館か)
直人は下駄箱に行って体育館シューズを回収した後、体育館へと向かった。
✤
直人が体育館に着くと柚姫は既に着替え終わって先に来ていた。
(顔は真っ赤だったが……果たしてナニを見たのか)
授業が始まり、二人一組で体操をするように言われる。
まあ、いつものことだ。いつものことなのだが、入れ替わりが起きている今、直人は一人取り残されていた。
(ぼっちって体育の時こんな感じになるのか)
直人は、仕方がないから床に座り一人でストレッチを始める。
普段なら翔や陸などと組んで体操をしているので、一人でやる体操は不思議な感覚を直人に与えた。
体操が終わり、早速授業が本格的に始まる。とは言っても基礎的な内容は既に終わっているので、軽く十分程度アップすると早速試合が始まった。
(って俺のチームって誰だ?)
わからないのでとりあえず試合でも見てるかと体育館の隅に腰かけようとしたら、
「西園寺さん一試合目だよ」
「あ、はい」
おそらくチームメイトであろう娘に声を掛けられ、コートに立たされる。
早速試合が始まったのだが、全く直人にボールが回ってこない。
(ぼっちってこういうものなのか?)
なんとなくぶらぶらとボールの行く方向に走る直人。
「はあ、はあ、はあ」
まだ大した時間が立っていないというのにもう既に息が上がり始めた。
(この体息切れ早! 既に足もがくがくなんだけど!? ぜってー普段から運動してないなあいつ!)
結局ボールに一、二回程度しか触らず試合が終わった。
(くっそ! 後で絶対毎日ちゃんと運動しろって言ってやる!)
こうしてこの日は一時間目からちょっとしたハプニングが起きたが、その後は特に問題なく放課後まで過ごした。
――入れ替わりが起きてまだ二日目だというのに、直人も柚姫もお互いの生活に慣れつつあった。
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