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第四話 「あ……俺の奢りかよ」

柚木の名前を『柚木』から『柚姫』に変更しました。読み方は以前と変わらず『ゆずき』です。

「「え?」」


 と、直人と柚姫は同時に困惑の声を漏らす。


「戻ったのか?」


 直人は自分の体をぺたぺたと触りながら、それが自分の体なのかを確かめる。対する柚姫も直人と同じように自分の体をぺたぺたと触っている。


「戻ったみたいね」


 どうやら二人の中身は正しい体に戻ったらしい。


「少し状況を整理したいから付き合ってもらえる?」

「あ、ああ」


 柚姫はそう言うとスタスタと歩いて行ってしまう。その後を直人は早足でついて行った。


   ✤


 歩くことおよそ十分。学校からほど近い喫茶店に直人と柚姫はやってきた。

 注文したコーヒーをお互い一口啜り、会話を始める。


「それじゃあ、整理しましょうか。まずなんで元の体に戻ったと思う?」


 柚姫はカップを置くと、そう切り出した。


「そうだな……考えられるパターンは三つ。時間によるものか、時刻によるものか、場所によるものかってところ」


 「それで」と柚姫は続きを促す。


「まず時間。これは入れ替わりの効果時間だと思ってくれ。それが切れたから元に戻った」

「ん」

「で、次に時刻。これは目覚ましみたいな感じかな。決められた時刻になると元に戻る」

「ん」

「最後に場所。今回の場合は学校の敷地内。校門から出ると元に戻るってところか。実際元に戻ったのは俺が校門を超えた時だったし多分この考えであってるんじゃないか?」


 中身が元に戻ったのは、直人が柚姫を励まそうと正面に回り込んだ時だった。その時ちょうど直人は校門から一歩出た位置に立っていたためおそらく三つ目の考えが正しいと思っている。


「うん、そうね。わたしも同じ意見」


 柚姫は視線をカップに向けたままそう答える。


「ただ、問題なのはこれが今日限りのことなのかこれから毎日あるのかというところなのよね」

「ま、その辺は明日になってみなきゃわからないし、今はいんじゃないか?」

「なんであなたはそんなに気楽なのよ」


 柚姫は不満気にそう呟く。


「俺のモットーは今を楽しめなんだよ。だから今考えたってえわからないことは今考えない。そんなことより楽しいことを今しようって感じ」


 直人がどこまで本気で言っているのか柚姫には分ららない。


「そう」


 とだけ柚姫は答えた。


「それじゃあ、今日はここまでにするわ。さようなら」


 柚姫は残り少ないコーヒーを飲み干すと、席を立って店を出ていく。

 その後ろ姿を直人は唖然として見送った。


「あ……俺の奢りかよ」


 残ったのは冷めてしまった直人のコーヒーと伝票が一つ。


   ✤


 家に着いた直人は自室に直行し、荷物を床に置き、ベッドへダイブする。


「はあ~~~~~~~~~~。疲れた~~~~~」


 さながらその姿は仕事帰りのサラリーマンだ。


「いや、ほんと、意味わかんね」


 直人は今日の出来事を思い出し頭をがしがしと掻く。


「ふぅ」


 一通り落ち着いた直人は今日の出来事を整理することにした。


「入れ替わり……入れ替わりねえ。あり得ないだろそんなこと」


 アニメや漫画の様な出来事。そんな体験をした直人は未だにそのことを信じられないでいた。


「しかもその相手がなんで西園寺なんだよ」


 実際その点は直人にとってかなり謎だった。特に学校で接点があるわけでもない、ただ同じクラスというだけの人と入れ替わったのだ、不思議に思うのは当然である。


 今日一日いろいろなことがあった直人は疲れで段々と瞼が落ちてきていた。そして意識が途切れかける寸前、直人はあることを思い出した。


 ――そういえば西園寺の奴、元に戻ってから一度も目を合わせなかったな。


   ✤


「ただいま!」


 家に帰った柚姫は両親に挨拶をし、リビングのソファーに座る。


「おかえり。今日は遅かったのね」


 柚姫の母がいつもより帰りの遅い柚姫のことを心配する。普段は学校から直帰している柚姫は大体午後五時ころ帰宅している。だが今日の帰宅時間は午後七時だ。


「うん。まあねー」


 家族故なのか、柚姫の口調は学校に居る時よりも砕けている。


「何かいいことあったの?」


 鼻歌交じりに携帯をいじる娘の姿を見て、柚姫の母がそう聞いた。


「ふっふっふー。そうなの! 今日はいろんな人と話ができて楽しかったんだー」


 普段ぼっちな柚姫は、一日家族以外誰とも話さないことがままある。そんな柚姫は他者との会話に飢えていたりする。

 そして今日は直人と話し、直人の体で直人の友人とも話したため、高校生になって一番人と話した日なのだ。

 その為、柚姫の今のテンションはかなり高くなっている。


「そ、それは良かったわね……」


 母はそんな柚姫に呆れつつ応える。


「お姉ちゃんうるさい。あと鼻歌下手過ぎ」

「うぐ!」


 そう注意するのは柚姫の向かいのソファーに座る妹の柑凪かなだ。

 柑凪は姉と同じく、頭がよく顔もよい二つ下の完璧美少女だ。ただまあ、姉と決定的に違うのは友達がたくさんいるという一点のみ。


「いろんな人と話すなんて普通のことじゃん? なんでそんなことに一喜一憂するかな~」

「いやいや柑凪はわからないかもだけど、ぼっちていうのはね一日誰とも話さないなんてことはよくあることなんだよ!」

「はいはいそうんなですか」

「うう、柑凪が冷たい……」


 柚姫は妹の態度にしくしく涙を流し、携帯をいじるのを再開する。


 その後は夕飯を食べ、お風呂に入った柚姫は今日の出来事を思い返しながら眠りへとついたのだった。

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