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俺はダンジョンを運営しない

作者: 六羽海千悠

「あなたはこれからこのダンジョンを運営していくのよ」





「嫌だ」




なんだ急に。というかなんだここは?



気づいたら小さな小部屋にいた。壁や床は土でできていて、部屋には装飾のない扉。そして赤い宝石のようなものが一つ専用の台と思わしきものにおかれていた。

そこで俺はいきなり変なことを言ってくるちっこい生意気そうな女と向かい合っていた。勝気そうな顔立ちに白い肌と金色のロングな髪。いかにも生意気そうなガキのお嬢様といえばイメージがたやすいだろう。ちなみにその女は今ぽかんと口をあけて放心している。鯉みたいだ。


俺は人に命令されるのが嫌いだ。それが誠意も敬意もこもっていないのならなおさらである。

そしてさらに俺は大がつくほどの天邪鬼だ。神様にもし「俺が楽しむために異世界に転生しろ」と言われたら転生してすぐに自殺を計ろうとするだろう。俺を利用して愉悦に浸っている姿を想像するだけで、むかっぱらが立ちすぎてガソリン被ったあとに自身の体に火をつけたい衝動にかられる。


難儀な性格だと自分でも思う。だがこういう性格なのだから仕方のない話だ。火が熱いのや氷が冷たいのに文句をいうやつはいない。


そんな俺は、この女の言葉を聞いてもう既にダンジョンとやらを運営していく気はさらさらなかった。

なぜここにいるのかなんてもう頭にない。徹底的にこの女のいう事に反してやろうという意志だけが頭を埋め尽くしていた。


「ちょっと!!!嫌って何よ嫌って!!!あなたに選択肢なんかあるわけないでしょ!!!」


「選択肢の有無は俺が決める」


「はぁ!?だからそれができないって言ってんでしょ!」


「それができるかできないかも俺が決める」


「だからできないって───」


「俺のことは俺が決める」


「…」


会話ができないと悟ったのだろう。苦々しい顔をして俺を睨みつけてくる。よく見る表情だ。俺と話すやつはよくこの顔をする。

俺にとっての当たり前のことを言ってるだけなのだが。しかもこの女いちいち声を荒げてきてうっとうしいな。



「それで、ここはどこなんだ?」



「………教えない」



「まあそれはそれでいいか」



別段興味もなかったので俺は部屋にある扉をあける。ここはどうやら小さな洞窟の先にあるみたいで数歩あるいた先に洞窟の外があった。だが…



「むっ…でれない…」



何かに阻まれるように洞窟の外に出られなかった。



「出られるわけないでしょ!あなたはこのダンジョンのマスターなんだから!」



「ふぅん」



そして俺はやることも、やろうと思う事も無いのでさっきの小さな小部屋で寝ることにした。



「何寝ようとしてるのよ!!!冒険者とか来たらどうすんのよ!!!!!」



「知るか」



「これ!このダンジョンの核!!あんたこれ壊れたらしんじゃうんだからね!?」



生意気な女は部屋にある赤い宝石みたいなのを指さして怒鳴るように言う。猫だったら毛が逆立っていそうな剣幕だ。



「ふぅん」



ただ俺には興味の無い話だ。そんなの自分の命の価値を頭から捨てれば一瞬でどうでもいい情報に成り下げることができる。もう俺はこの女の言う事を聞かないことに命をかけているのだから、どうでもいい。


相手からしたら相当むかつく対応だろうが、いきなり拉致して「ダンジョンを運営しろ」なんてふざけた対応をされたんだ。こちらも同じようにふざけた対応をしてもどうも思わない。


「ふ、ふぅん…って…」



生意気そうな女は青筋を立てて必死につかみかかろうとするのを抑えている、といった感じだ。



「はぁ…お前さ…」



「お前じゃない!!!私にはナーリャって名前があるの!!!」



「………お前うるさい。声が大きい。年頃の女がそんな大きな口あけて大声あけるなんて何とも思わないの?」



「誰のせいよ!!」



「はぁ…誰のせいでもいいからさ…うるさいんだよね。耳がキーキーするんだ」



「くっ…わ、わかったから説明ちゃんと聞いてよ…」



「教えないんじゃなかったの?」



さきほど場所を聞いたときに教えないと言われたのでそこを指摘したら俯いてプルプル震えだした。



「はぁ…じゃあさっさと説明してよ」



ここでへたにアクションおこされても話が進まないので強引に先を促した。女の目には少し涙が浮かんでいたがそれはどうでもよかった。



「…………私はダンジョンナビゲーターという種族。ダンジョンマスターにつかえるもの。そしてここはダンジョン。この世界に存在する人々と対立している場所よ。冒険者たちがダンジョンの核を狙って血眼に探してくるわけ。ダンジョンのマスターの一番の役割は攻略しようとする冒険者から核を守ること。そのためダンジョンの核とダンジョンマスターは完璧に結びつけられている。そしてダンジョンの運営、これはダンジョン内部を目的に添うように構築したり魔物を召喚したりとかいろいろ…。《ダンジョンメニュー》と口に出せば詳しい説明やダンジョンの設定、魔物の召喚などを行えるわ」



ぽつぽつと嫌そうに話す女。そんな嫌なら最初っからつれてこないでほしいと言いたいところである。



ただダンジョンメニューは気になるのでとりあえず見てみるとする。


「《ダンジョンメニュー》」



目の前に薄く光ったメニューがでてくる。どうやらタッチで操作できるようだ。




───



■DP:22000




□メニュー


 ・階層確認



 ・生態感知



 ・魔物召喚



 ・階層設定



 ・トラップ構築



 ・環境



………

……



とずらずらとメニューがでてきた。スクロールしていくとまだまだ項目がある。そしてDPはダンジョン内で生き物が死亡するとたまっていくらしい。


「ふむふむ」



俺は軽くメニューの把握をおこなった。

だが勘違いしないでほしい。俺は全くといっていいほどこのダンジョンとやらを運営する気はないのである。




「ふぅん…とりあえず…」



俺はメニューの中の階層設定…これは階層の増減や移動、また各階層の設定を行える…を操作して今いる洞窟内の小部屋の環境を変えた。



みるみる変化していく。いやぬるぬるとのほうが正しいかもしれない。



そして数秒後には現代のマンションの一室、3LDKの家が完成である。



「はぁ!?」



説明を終え成り行きを見守っていた女が声を荒げる。この女、全然学んでいない。



「ふぅ〜」



俺は疲れをとるようにふかふかのベッドに座り込んだ。



「ちょっとあんた!!!何勝手に変えてんのよ!!!」



うるさい。



「聞いてるの!?」



「あぁ…」




疲れがたまっていたのかガミガミうるさい女の声が少しずつ遠くなっていき暗闇にのまれていった。









「──…て──……きて─…おきてよ!!!」




「あぁ………?」



深い眠りから覚めたせいで頭が覚醒するまでタイムラグがおきる。




…そういえばダンジョンとやらだったな。



「くっ…あぁー…」



大きく背伸びをする。部屋の居心地は大分よくなったものの陽の光がまったく部屋に入ってこないのは今後の課題か。



「ちょっと!!あんた何勝手にダンジョン作り替えたあげくそのまま寝ちゃってんのよ!!」



女がギャーギャわめいてくる…が。

こいつ…よく見ると髪の毛が少し湿っている…。



「ちゃっかり御恵みいただいてるやつの台詞じゃねーな」



「せ、せっかく作ったんだから利用したほうがいいじゃないの!それよりどうするのよこれから!!冒険者が来ちゃうでしょ!」



「そうだな…」



俺は《ダンジョンメニュー》を操作する。





───



■DP:16000




□メニュー


 ・階層確認



 ・生態感知



 ・魔物召喚



 ・階層設定



 ・トラップ構築



 ・環境



………

……




DPが6000減っている。昨日の改造で使われたようだ。




「6000も減っているじゃない!!」



っち…。どうやらこいつもこのメニューがみえているようだ。




「ふむ…」



俺は《ダンジョンメニュー》を操作する。

魔物召喚を選び、試しにゴブリンを召喚してみるとボン! と音をたてていきなりゴブリンが現れた。


「なるほど」


「ちょ、あんた!」


「えいっ」


そして俺は残りのポイントのほぼ全部を使い、魔物召喚の一覧にある《ホムンクルス》を呼び出した。



「主様、お呼びいただき光栄です」



メイド服を着た清楚な女性が現れた。



「あぁ、短い付き合いかもしれないがよろしく頼むな」



生意気女は膝から崩れ落ちて放心していた。







私はエルフの冒険者ナーリャ。ソロで活動をしていて冒険者としてのランクはAと自慢するほどではないが優秀なほうだと自負している。



昔はパーティなども組んではいたが長いエルフの人生だ。パーティを組んでいた仲間たちもいつしか寿命や戦死、隠居や子育てなど様々な理由で減っていき気づけばソロでの活動の活動になっていた。




そしてここは未踏破区域指定された大型の森。エルフは森との相性がいいのでソロで狩りをする際はアドバンテージをとれる森をメインで行動していた。



そして今回も長期間で森に潜っているわけだけど。



「何か得体のしれない空気を感じる…」




私たちエルフは森の空気に敏感だ。森の木々や精霊の発する音を聞いて敏感に森の状態を察知できる。

そして今回もそれで森の異変を察知した。




「こっちか…」



私はなんとなく異変がおきているだろう方向に進んだ。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「ッ!!これは!」




森の異変を察知し移動しはじめて数時間ほど。異変の正体が少しずつ明らかになりついに全容がわかるくらいにまで近づいて来た。



平坦な森の中になぜか存在する小さな洞窟。中は薄暗いがその小ささ故先まで見通せるようになっていた。そしてその先にある扉を私は見つめていた。



───ダンジョン



頭の中にそんな文字がうかぶ。

陽があたりにくい森の中だというのに、額には汗が浮かび上がっていた。



もしこれがダンジョンだとしたら私一人の手にはいえない。だがそれは本来の場合であってこのダンジョンにはあてはまらない。異変は急に現れたのだから、まだできたばかりなのかもしれないのだ。



運がいい。


通常、ダンジョンは見つけるのにも相応の時間が必要になる。時間をかけてどんどんまわりの環境にとけこむようにできるからだ。そしてそれと同時に少しずダンジョンの規模が大きくなり最終的に魔物がダンジョンからあふれ町を襲う。



このようにできて1日で見つけれるなど早々ないはずだ。



私は意を決して洞窟の中へ進んでいく。これでも冒険者。ダンジョンの経験は豊富だ。

それに今戻って報告してもここは一番近くの街まで数週間もかかる場所。その間にダンジョンが育ってしまう恐れもあるし調査でまた時間もとられるなどの理由で進むことを判断したのだ。



洞窟の中に入って数歩。すぐに扉の前へ辿り着いた。



つばを飲み込む。数多くのダンジョンを見て来たが出入り口にギルドがつけたわけでもない扉が存在するのははじめてだった。



私は扉に手をかけ、意を決しあける。




警戒のため…少しずつ…





そして中は私の頭の中に思い描いていたものとは全くちがっていた。








「ッ!!冒険者よ!!」



リーなんとかが突然叫びだす。



今俺たちはリビングにあるテーブルの向かって腰掛けていた。



「この紅茶うまいな」



「ありがとうございます」




俺の前に座っている彼女、ホムンクルスのメイドが紅茶をテーブルにおき優雅に礼をする。

ちなみに彼女には名前がないということだったので大和撫子な見た目から撫子という名前をつけた。


凛としていて黒く長い髪が美しい。少し安易かもしれないがぴったりだろう。



「ちょっと!!!冒険者が来てるのよ!?もうすぐここまでたどりつくわ!!!」



「へぇ」



「主様、よければこちらのお茶菓子もどうぞ。紅茶にあいますよ」


「ああ、ありがとう」




献身的にしてくれるメイドというのはこんなにも心地いいものだったのか。これでは堕落していくのも時間の問題である。



隣でぎゃーぎゃー騒いでいる女がいなければとても優雅なティータイムをおくっていると



キィィ……




リビングにある外へと繋がる扉が少しずつ開いていく。



最初に見えたのは金色の繊維。扉が徐徐にあいていくとそれが髪の毛だとわかる。次に見えたのは長い耳。それ追うように整った顔立ちの女性の顔が半分扉に遮られながらもみえてくる。



そしして完全に扉を開き彼女は口を開いた




「貴様がダンジョンマスターか」と。


















「そうだよ」



俺はティーカップを口につけ斜めに傾けては紅茶を口へ流し込む。



優雅なティータイムが崩れていきそうにな空気だがそうはいかない。大事なのは優雅な今のひとときだ。

撫子も目をつむり味わいながら紅茶を嗜んでいる。おいしい紅茶を味わって飲む女性は好感がもてる。



「もう一度聞く……………貴様がダンジョンマスターか?そうならその命刈り取るぞ…」



殺気をだしながら同じ質問をしてくる。というか彼女、よくみたらエルフだな。

今更ではあるがファンタジーを実感する。


「そうだよ」


その答えを聞いた瞬間エルフの女性は剣で素早く切り掛かってくる。そして首が切られる、寸前でぴたっと剣が止められた。

それでも薄皮が切れたのか。たらりと血が流れる感触を感じる。



俺が切られそうになったとき撫子が反応しようしていたがそれよりも早く首に剣をあてられていた。



「なぜ戦わない」


「なぜ戦わないといけない?」


「質問をしているのは私だ」


「質問を答えるか答えないのかを決めるのは俺だ」


「このまま斬られてもいいのか? 一瞬で飛ばすことができるぞ。お前の首なんて」


「ご自由に」


 紅茶をすする。首にあてられた剣が少し邪魔だ。あと痛みで味に集中できない。


「剣どけてくれないか? 邪魔なんだが」


「なら質問に答えろ」


「斬るなら斬っていいっていってるだろ。中途半端に首のところに置かれてるから邪魔なんだよ。斬るならさっさと斬って、斬らないならどけてって提案なの」


「……」


「はぁ〜〜〜。

 別に理由なんてないんだよ。あぁ、まぁしいて言えば理由がないからかな。ここで闘ったらお前に闘う正統な理由を与えてしまうし」


「正統な理由?」


「ああ、今闘おうとしたら突然土足で家に入り込んで来てあまつさえその家主に手をかける盗賊のような輩に大義名分を与えてしまうだろ? だから抵抗しないで殺されることによって俺はお前にたいして『お前は盗賊だ』と言う権利を勝ち取ろうとしているんだよね。まあそれを言えるのは死んだあとだろうけど」



「ッ!!私を盗賊だとッ!?」



「違うとでも?」



「ダンジョンは人にとって害の存在だッ!!溢れた魔物が街をおそい冒険者の命も刈り取る!!!」



「話にならないな…ここのどこに冒険者を刈り取る要素。街が魔物を襲う要素がある」


 二杯目の紅茶をすすいでくれる撫子。部屋の隅ではゴブリンが器用にヴァイオリンを弾いていた。

 優雅か。お前ら優雅なのか。


「今はなくともこれから生まれる可能性があるッ!!」



「じゃあ殺せばいいだろ」



「は?」



「殺すんでしょ?俺を。部屋で紅茶を飲んでいるだけの善良な少年を。まあ些細な抵抗だとは分かっていたし好きにすれば良いよ。俺はあの世で盗賊に思いを馳せるだけだから」



部屋の緊張が高まる。たぶんこのエルフは五分五分で揺れ動いているのだろう。


確かに今おれはなにもやっていない。だが未来に憂いがあるのもまた確かに事実。だからこそ迷っている。将来的な危険なんてダンジョンにかぎらず普通の人間なら誰しもが持っているものだと俺は思うけど。


まあ好きに選べばいい。



「主様…いくときは私もどうかご一緒に…」



「お前は…俺の代わりにこの世界を見に行け。俺が見れないものをお前が代わりに見て色々と感じてこい。そしていつの日か俺の墓の前でそれを教えてほしい。撫子、どうか頼まれてくれないか」


「主様……」


撫子と茶番を繰り広げる。撫子の瞳には現状を楽しんでいる色が浮かんでいるから分かってやっているのだろう。



「うっ…ひっく…なんで…なんでよぉぉぉおおお…!うわあぁぁ"ぁ"ん」


突如鳴き声が部屋に響き渡る。

今まで気にしてないというか、存在すら忘れていた生意気女、確かナー……ナー……ナポリタン。

ナポリタンが突然本気で泣き出した。


「ちゃ、ちゃんと、う、運営し、してれば…ひっく……よかっだのに…ひっく」



嗚咽で喋ることがままなっていない。ナーリャの本気泣きに気圧されてエルフの女もたじたじしていた。









くそっ…!どうすればいいんだ…!




長い年月を生きて来た私にとってもこんな経験は初めてだった。殺して良いと言い無抵抗なダンジョンマスター。たしかに彼の言う通りここには危惧すべき要素は"ダンジョン"だという以外に全くと言っていいほど無い。



侍女と思わしき女にも武器すらもたせていないようだった。じゃなきゃ私が切り掛かっていったとき私の剣をとめようと動いただろう。この女の実力ならば私に勝つまでは難しくても一撃を止めるくらいはできそうであるからだ。



そして彼は私に盗賊だといった。



確かに公平にこの状況を第三者が見れば盗賊は私だろう。ここがダンジョンだとしても魔物はいるのは一匹だけ。しかもその魔物は部屋の隅で何やら聞き心地のよい音色を不思議な道具で奏でている。おかげでこの部屋の混沌さがさらに増しているが。それでも危険な事は何一つ無い。剣を突きつけている私だけが唯一それにあてはまっていた。



だが放っておくこともできない。なぜなら可能か不可能かでは大きく違うのだから。今が大丈夫だからといって明日が大丈夫だとは限らないのだ。




わからない。どうしたら……。




「うわあぁぁ"ぁ"ん!!」



気づけば部屋にいた小さめの女が泣き出した。


紅茶を飲んでいた侍女も顔をふせ表情を見えないようにしていた。






完全に悪者は私だ……。





今まで盗賊や魔物を狩って生きて来た。だが刈り取られるものたちの気持ちを想像し、はじめて心に動揺がうまれている。


盗賊の中には食い扶持や働き口に困っている子供もいた。魔物の中には生まれたての赤子もいた。

だけどどうしようもない事だ。盗みを働くものを野放しにしておくわけにもいかないし、そのままその子供が育てば脅威になるのは想像にたやすい。かといって私にはそれらすべてを引き取る財力もなく。肥えた豚の領主には何をいっても聞く耳を持たない。


なのでそれらに後悔は全くない。

だがそういったものの感情に向き合ったのは今回が初めてだった。





「ぁぁ"ぁ"ん!!」



静かな部屋の中に鳴き声だけが響き渡る。



くそ…くそっ…くそっ!!



そして私は…




「私がここに住みお前たちを見張る!!!」




答えをだした。







場が静粛に包まれる。

ぐずっていたナポリタンもぽかんと口をあけている。



それはともかく斜め上の答えを出したエルフさんのことだ。



図々しく「ここに住む」と宣言するほどの剛胆さは、さすがの俺も予想できなかった。そして急にそんなことを言われても問題はあるわけで。



「もう空いている部屋はない」


ここは3LDK。三つある部屋はそれぞれに割り振り済みだった。


「ふん、そんなこといって逃げれると思うな」


なんで俺の周りにはこう厄介な女があつまるのだろう。今のところ3分の2だぞ。


「はぁー…」


「よければ私の部屋を空けましょうか」


ため息をつく俺に撫子が提案してくる。

そう、実際の所ここで無理矢理エルフの女を追い返しても俺たちの状況は変わらない。くる冒険者にたいして無抵抗するしかない。まあ俺はそれでもいいとおもっているが自らそれを選ぶほど積極的にとりたい選択肢ではないのだ。


逆に彼女をここに住ませ見張らせることによってダンジョンだと思い攻め込んでくる冒険者にたいして説得を行える可能性がでてくる。完璧な味方になるとは言いがたいがそれでも内輪の外の人間が俺たちのことを把握しているというのは”理解”ということにおいて大きなアドバンテージになる。



「いや撫子があける必要は無い。ナポリタンの部屋をあけよう」


「私はナーリャだ!!!」


「まあいきなり押し掛けたのは私だ。盗賊まがいの行為もあるしこれ以上に要望はすまい」



そうだよ。お前盗賊まがいのことして部屋を用意してもらえてるんだぞ。本来なら外の洞窟にテントでもはらせてるところだ。というかそれでいいのでは?


まぁ、別にいいか……。どうでも。


「それじゃあ両者の了解も得たことだしあとは適当にやってくれ」


「私は了解なんてだしてないわよ!!!」


ナポリタンが騒ぎはじめるが俺はそれを無視して撫子に紅茶のおかわりを頼む。それを見てエルフも紅茶をせがんでいた。こいつ図々しさに拍車がかかっていくな。あまり甘やかさないようにしよう。











こうして奇妙なダンジョンでの生活が始まったのだった。




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[一言] めっちゃ面白い
[一言] 状況が混沌w ん?ここが終焉の大陸なのか?
[一言] なにこれ続き読みたい
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