結婚日誌
正装したジン。
神殿の一室に待機させられる事になる。
「ちょっと待っているのじゃ」というシャロからの命令。
仕方が無いとボーッとしていたのだが、漸く扉が開いたと思えばそこに居たのは花嫁衣裳を着た女性だった。
「へ? え?」
「何をぽけ~っとしてるのじゃ、もしかして見蕩れておったのかの」
「ちょ!?」
「フフフ、似合うじゃろ」
「それよりもっ!」
「ん? 式の事を驚かせたことかの」
「ちっがーう!」
ジンの目の前にいるのはシャロのようだ。
だけれどもどう考えても大きさが違う。
ナニも含めて色々とであった。少々驚くのも仕方ない。
ジンよりは低いが背も伸びている。顔立ちはそのままなのだが、美しさが増したような気がする。
「シャロ、身長とかナニとか全部違うんだけど?」
「あ、忘れておった、【古の契り】の効果じゃ」
「はぁ?」
シャロの説明によれば、古光輝人は普通のエルフとは違う。
その最も違う所は通常では寿命を持って居ない事。
髪の色が銀糸のような輝きを持つ事。
膨大な魔力を持っていること。
そして、【古の契り】を交わすまでは成人とならず、幼い容姿のままで居る事なのだとか。
普通に生活していては交わる事の可能性すら皆無な種族だけあって、全く知られていない。
そもそも世界的にみて数千人いるかどうかという希少な種族なのだから。
「まあ、そういう訳じゃ」
「驚きの余り、なんと言えというか何も言えんわ!」
ついでにと説明される驚愕の事実。
この数日間仕事という形でのお使いに奔走していたのだが、それがシャロの友人への挨拶回りを兼ねていたというのだ。
「王都でごっついオッサンにあったじゃろ?」
「あーでっかかったな」
「アレが現在のギルドの本部代表じゃ」
「え?」
なんていうのは今更で、各支部の有力者達が見極めたらしい。
シャロが創設者の一人なので他のメンバーも気にしていたらしい。
そこまで何故きにしているのか。
それはお使いの真の目的その2があったからだ。
ジンの持っていった書状。それはシャロの一時休暇届(無期限)であった。
結婚するから仕事辞める!
それが出来ない故の一時休暇(無期限)という意味不明なもの。
これでジンが使徒だから死なないのだよ、ハッハッハと判明でもすれば実質上の辞職なのだが……
だから書状には式に全員出席な!
と書いてあった訳で。
「行くのじゃ、サプライズゲストもおるぞ」
「へ?」
人と違う年単位で活躍を続けていたギルドの重鎮。
場合によれば国の為にも動いた事もある。
下手をすればオムツも取れない頃から知られている相手だ。
国王が出席しないはずがなかった。
他にも神殿の教皇から大司祭までのフルメンバー。
ジンは考えるのを放棄した。
考えれば緊張で動けなくなる。
周りは岩だ!
そう強く念じて緋色の花が敷き詰められた道を進んでいく。
万来の拍手の中には見知った顔の女性達が大勢いた。
彼女たちはジンに助けられた人々。
命の恩人だったり、窮地を脱出させてもらったりと皆がジンに感謝していた。
まともなお礼もせぬままに風のように去っていった冒険者。
聞けば有名な冒険者で、町から町へ移動しては困った恋人達を助けてくれるという。
そんな都合のいい奴がいるかと信じないものが大半だが、助けられた人がいるのが事実であると証明しだす。
そうして組合がつけた名誉ある二つ名が【愛の守護者】。
時には人知れずドラゴンを屠り。
山賊を壊滅させ。
常にその力を愛する者達の為に振るう冒険者。
パートナーと共にお祝いに来てくれたのだ。
思わずジンは笑ってしまった。
逃げ出していただけなのに……
でも皆幸せそうでよかったと。
そして目を向けた先には幼馴染の姿があった。
精一杯の拍手を送ってくれる姿を見て懐かしさがこみ上げた。
その姿は幸せそうであり、王太子殿下とも仲睦まじそうである。
「これはまいったね」
「フフフ、そうじゃろ?」
「皆に負けないぐらいに幸せにしてみせるよシャロ」
「ニュフ、フフフフ、す、既に幸せじゃし!」
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
女神様、感謝します。
こうしてシャロに出会えた幸福に。
二人で旅をするのは最高です。
相変わらず、何故かトラブルが舞い込みますが、必ず恋人同士なのは偶然ですよね。
でも、これがもしも試練ならばいくらでもこなしてみせます。
自分たちの様な笑顔を恋人達や夫婦から奪うなんてできませんからね。
ところで、結構な年齢になったはずが年をとりません。
シャロの【古の契り】でもそんな効果はないとか……
もしかしてステータスの使徒って人間辞めちゃってましたか?
でもそれも楽しいかも知れません。
ずっとシャロと旅が続けられるんですから。
女神様へ感謝と親愛をこめて、ジン・ストラット
これにて本編を完結。
推敲などは後日行います。
結婚日誌からの後日談などは……未定です。




