1:奇妙な俺と奇妙なあいつ
ガラガラッ
教室の扉をうざったそうに開けた男。
身長は約170cm 体重49kg
幼い顔ながら、髪の毛は黒をベースにした赤のメッシュが散りばめられた髪型。
一見ではちょっとチャラそうに見えるが、まさか車で学校に…、とは誰も思わないであろう男。
だが、明らかに彼を取り巻くオーラは異質だった。
教室は一瞬の沈黙に包まれるも、すぐに元の喧騒を取り戻し始めた。
(毎回毎回…。)
カバンも何も持たずに登校する彼は、学校に来る理由は特に無かった。
窓際の一番日当たりの列に一つだけ、灰皿の置いてある机があった。
彼はそこに座ると、すぐに腕を枕に寝始める。
……キーンコーン…♪
(昼か…。)
途中の4時間を寝続け、更なる安眠を求めて、一人で保健室に向かう。
喧騒から離れ、別棟にある保健室。
あまりに眠い場合はすぐに此処に来てしまう。
部屋に入るといつも先生が座っている席に見知らぬ制服を着る一人の女の子が居た。
(誰…?)
暫く呆然と眺める俺。
ガッツリ目が合う。
(まぁいいか…。)
華麗にスルーし、ベッドに倒れ込む。
「えっ、放置とか無くない!?」
そう言うとその女は俺が倒れ込んだベッドの隣のベッドに腰を掛けた。
「あぁ…、面倒な事は嫌いなんで…。」
(兎に角眠いんだ…。)
「それは私が面倒な人間に見えるって事!?」
「かもな…、とりあえず、ウルサイから声のトーンを落としてくれないか。」
「あっゴメンゴメン。」
「てゆうか、明らかに他の学校の制服を着た女が、こんな真昼間に此処の保健室に居る時点で、面倒臭くない訳がないじゃないか?」
「あぁ、まぁそれはそうだよね」
笑いながら答えるその女。
良く良く見れば、まぁブサイクではない。
綺麗ではないが、可愛い系な部類に入ると思う。
「で、何、此処に彼氏でも居るの?。」
「秘密ー☆」
(あれ、語尾に星マークが付いてたか?)
語尾に星マークが付いてても可笑しくないテンションで答えるその女。
俺からすれば睡眠妨害の何物でもない。
「あぁ、そっすか、此処のベッドで、そーゆー事するんだったら、俺が居ない時に頼む。」
「何変な事言ってんの!?」
「ま、とりあえず、寝る。 だから静かにしてて。」
「此処は病人が寝る所…。」
ボソボソと呟くその女。
(そう言いながら、静かにしてくれるんだ。面倒な子ではなさそうだ。)
「てか、見た目に反して凄い静かだね!?」
(…前言撤回。めんどくせぇ…。)
「何、それはチャラいってことか?」
「いや、中学生に思えないって事。」
「あぁ…良く言われる。」
「第一、此処の中学校自体、変だよね?」
「何処が?」
「朝から単車で登校してる子は居るし、挙句の果ては車だよ?。しかも真っ青なスポーツカーでめっちゃウルサイの!。凄いスピードだし、一体どうなってんの?ここ。どんなヤンキーがあの車運転してんだか…。」
(おぉ、良く回る舌だこと。)
一気にまくし立てて来るその子を横目に、煙草に火を点ける。
「居るじゃん、ここに。」
「へ?何が?。」
「凄いスピードでウルサイ音を奏でながら車で登校する人間。」
「ええええぇぇぇ!?」
(ウルサイ…)
軽く耳鳴りがする高音。
「ま、そうゆう事、寝る。」
「ええ!?そんな爆弾発言して、寝る!?」
「え?だって事実だし。ていうか…。」
「ん?」
「俺の車はうるさくねぇっ!速くて何が悪い、早くて悪いのは早漏だけだこらぁっ」
「キレル所変!途中いらなくないっ!?」
あーだこーだと言い合ってる内に寝れなくなった俺は帰る事にした。
ベッドから起き上がり、何も言わずに帰る俺。
「あっ、待って!」
「何?。」
「携帯教えて!」
「は?持ってない、おつかれ~」
「嘘、今時持ってない中学生の方が珍しいし、キミ、さり気なく弄ってたよね、携帯!」
「意外に見てやがる…。ったく。しょうがない、ホラ。」
諦めて携帯を差し出す俺。
凄い笑顔で受け取る女。
女に任せ、自分は煙草に火を点ける。
「うわぁ、女の子のアドレス殆どないっ。」
「何見てんだっ!。」
「だって~。」
「だってじゃない!。」
「はい、出来た♪。」
携帯を受け取った自分は、早速アドレスを開く。
(新しく、増えた…。って!!)
「誰がハートマークを入れてるんだ?。」
「えへへ~。」
少し照れた様な顔で言う女。
(くっ、不覚にも可愛いと思ってしまった。)
「マユミ、ね。了解。」
「そっ、宜しくね!。悠君っ。」
それが始まり。
この後に、俺に恋愛の喜びを教えてくれた女の子だ。