穴
ある日、私は穴に落ちた。
そこは、真っ暗でとても深い穴。
どこまでも続く深い深い穴だった。
まるで、ここから先は無いとほのめかすように穴は闇に包まれ、静まり返っている。
この先に希望はあるのだろうか?
この先に光はあるのだろうか?
この先を信じて行けば何か得られるのだろうか?
右も左も、前も後もないこの闇に、言いようもない不安が募る。
どこまでも続く深い闇の中から、光の元へ行けるのだろうか?
どんなに小さくてもいい、小さな光を求めて必死に目を凝らした。
わずかに芽生えた希望を糧に、私は前に進み続むことが出来るだろうか?
消えてしまいたいと思ったことは嘘ではなかった。
でも、消えたくないと思っていたのも嘘ではない。
私はここにいる。まだ、ここに在る。
なにも遅くなどないはずだ。
「だって私は生きて、ここに在るのだから」
どんなにどん底だろうと。
どんなに惨めだろうと。
どんなに辛く悲しくても。
「生きているからできることがある。できることを探すことができる」
まず、顔を上げて前を向こう。
後は、今は見ないでおこう。いつか振り向いたときに、思い出になっていればいい。
周りは真っ暗で、前をしっかり見ていても、また違う穴に落ちてしまいそうになるけど、落ちたら落ちたその時だ、また前に進もう。
怖がって目を瞑らなければ、助けてくれる手も見えるはずだ。
必死に耳を澄ませば、誰かの声が聞こえるかもしれない。
「っ!!」
目を閉じて、耳を閉ざし、周り全てを拒絶していたのは・・・
「・・・私」
嫌なものから目を閉ざしていたのは、見るのが怖かったから。
聞きたくないものから耳を塞ぎ続けていたのは、聞くのが怖かったから。
ただ、自分が傷つきたくなかったから。
それに気付かなかったのは、気付きたくなかったから。
それが聞こえなかったのは、聞きたくなかったから。
「でも、気付けた」
どんなに遅くても、気付けたなら手遅れではない。
どんなに怖くても、現実から目を背けてはいけない。
恐れずに、前を見て、声を聞こう。
今はまだ、すぐには立ち向かえないかもしれないけど。
また、逃げてしまうかも知れないけど。
それでも、また前を見て、声を聞くから。
ゆっくり、目を開こう。
そして前を見て、進んで行こう。
そこは決して暗闇ではない。
時には、穴に落ちてしまうかもしれない。
それでも、あきらめなければ、また光が見えてくる。
外の世界は、チョッピリ辛いかもしれない。
悲しいかもしれない。
苦しいかもしれない。
でも・・・、
「傷ついても、辛くても、悲しくても、苦しくても、誰かと居たい。光のある場所に居たい」
小さな光を灯して、前に進み続けよう。
いつかは、私も誰かの光になれるかもしれないから。
辛く、悲しく、苦しかった時は、自分だけが辛いと自分の殻に閉じこもっていました。
そんな私に何もしてあげられなかった母は、とても苦しんでいたそうです。
でも、横にいてくれるだけで、どれだけ支えられてたか、今ならわかります。
今は幸せに暮らしていますが、時々フラッシュバックのように思い出してしまう時があります。
そんな時は家族が支えてくれます。私も家族を支えます。
気付けたなら、それは手遅れじゃない。変わる為に始めることに手遅れなんかない。と励ましてくれた親友と、ずっと横で見守っていてくれた母に、『今の私が在るのは、あなた達のおかげです。ありがとう』と感謝を贈ります。