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第4話 傷心にココアは美味しい




「透ごめんね? 帰りが遅くなっちゃって」


 朝のホームルームを終え、クラスの皆がざわついている中、鍵咲 心が小走りで俺の席へとやって来た。やはり美しくはあるが何処か心太郎の面影がある。

 恐る恐る聞いてみた。


「ほ、本当に……心太郎なのか?」


 俺の問いに鍵咲 心は少し眉を寄せ、困ったように笑った。


「そうだよ透、僕は透の親友で幼馴染の心太郎だよ。急にこうなって驚くと思うけど信じて欲しい」

「あ、いや、俺が心太郎の言ったことを疑うわけないけど」

「良かった。それと出来ればこれからは”心”って呼んで欲しいんだ……駄目かな?」

「わ、分かったよろしくな心……いやでもなぁ……」


 一度理解しようと、納得しようとしたが、俺の脳の柔軟性は無いらしく、再び唸ってしまう。すると心は、


「……じゃあこう言ったらわかる?」


 そう言って俺の耳に近づく。なんだろう良い香りがする。

 心の香りに油断をしていると、周りに聞こえない声で言葉を溢した。


「透の机の一番下の引き出しの裏にあるDVDのジャンルは____」

「いやぁーー!! 疑って悪かったな心太郎!! 心太郎? いやあれか心か!? これからも親友としてよろしくな心!!」

「うん! よろしくね透」


 俺の返事に笑顔で返す心はどうやら本当に心太郎のようだ。

 疑ってしまって悪かったな親友よ。


「ね、ねえ……」


 話をしていると、ふと聞こえる声に振り向く。そこにいたのは不安そうな表情をする琴凪とフィーリスさんがいた。

 

「……し、心太郎なの? ほ、本当に?」

「本当だよ杏理、あとこれからは心って呼んで? これからも仲良くしてね」

「……ごめん。私ちょっと飲み物買ってくる」

「行ってらっしゃい杏理」

「____っ!!」


 フィーリスさんは急ぎ教室を後にする。見たくなかったのに去り際、頬を伝う液体に俺は気付いてしまう。

 そうかだった。俺も多少困惑しているけど親友のことならと割り切ろうとしているが、彼女達は違う。

 彼女達はヒロインで、いやそんな簡単な言葉で片付けちゃいけない。

 そう、彼女達は心太郎がどうしようもなく好き《《だった》》のだ。

 

 割り切ることは難し過ぎる。


「し、しー君? ご、ごめんね。これからは心ちゃんの方がいいのかな?」

「うん、その方が嬉しいよ。ありがとう真白」

「……」


 そのやり取りの後にしばしの沈黙、正直俺はもう気が気じゃなかった。

 短いようで長い時間、いったいいつまでこの時間が続くのかと思っていると授業開始前の鐘が鳴りだし、その後、琴凪は何も言わず席へ戻って行った。

 こうして担当教師がやってきて授業が開始される。


 結局、フィーリスさんは教室に帰って来なかった。



 一時限目が終わり、休み時間になると同時に俺は席を立った。すると、それを見て心も席を立ち俺の方へ寄ってくる。


「透どこ行くの?」

「ん? あぁちょっとトイレにな」

「そっか男の時ならともかく、一緒に行こうと思ったけどもう無理だもんね」

「そうだな。今の心が来たら俺の将来を水に流すことになるかな……」

「あはは、相変わらず透は面白いね」

「なったらなったで笑えないけどね?」


 とりあえず行ってくる、と教室を出てトイレへ向かい、手早く用を済ませる。

 手を洗い教室に戻ろうとした時、ぐすっ……、となにかの音が耳に届く。その音がなぜか気になり、俺はその音の発生源へと歩き出す。

 

 しばらく音の方に進んでいると場所は廊下の端にまでやってきた。そこあるのは自動販売機と、あまり使われない人気のない階段しかなく、明かりがあるとはいえここはかなり薄暗い。

 そしてそんな場所に、階段に座り込んでいる人影を発見した。


「アンタ……なんでこんなところにいるのよ」

「フィーリスさんこそどうしたんだ? こんなところで」

「別に、私は……ただ、授業が退屈そうだったからサボっていただけよ……」

「そっか」


 俺の前だからか強がる彼女だが、声は正直で鼻声になり、一瞬だけ見せた瞳には大粒の涙が溜まっていた。そんな姿を見て俺は自動販売機に近寄り、フィーリスさん声をかける。


「なにか飲むか?」

「……ミルクティー」

「了解」

 

 不愛想な返事だが帰ってきた言葉を聞き、自動販売機に小銭を入れてからボタンを押して飲料を取り出てフィーリスさんに渡す。


「あ、ありがとう。雨上……アンタは何にしたの?」

「俺はココア」


 ココアも良いわね、と缶のプルタブを開けて喉を潤す。


「美味しい……」

「そうか」


 あまり仲良くない。というか一方的に俺がフィーリスさんに好かれてないから下手に口は開かない。

 階段に座るフィーリスさんの近く、かといって適度な距離感を取るため俺は少し離れた壁に体重を預ける。

 ズズズ、と温かい飲料を飲む音だけが響き、それが続くと思っていると、「私さぁ……」とフィーリスさんが言葉を発した。


「実はさ、心太郎のこと好きだったんだよね」

「あ、それは知ってる」

「え!? なんで知ってんのよ!」


 逆にあれだけ露骨に心太郎だけに優しくしてて気づかれないとでも思っていたのか。恋は盲目というやつだな。


「うちのクラスの連中なら皆知ってると思うぞ」

「嘘でしょ!?」

「いやマジマジ」


 なにやら今更当たり前のことでショックを受けているが、そんな事もすぐ過ぎ去り彼女は肩を落とす。


「まあそれでさ、私好きだったのよ心太郎のこと」

「うん」

「心太郎……優しくてカッコ良いし、一緒にいるだけで良かったのに……あ、今は心だっけ」

「俺も驚いてるよ。いきなり親友が女になって帰って来て」

「アンタはどうでもいいのよ」

「さいですか」


 さすが興味のない人にはツンしかないツンデレヒロイン。こんな時にも俺に対しての精神攻撃は忘れないのか。


「まあでも俺は応援してたぞ?」

「え?」

「もちろんフィーリスさんだけじゃなくてな? 四人のことを応援してたよ。誰が俺の親友と結ばれるのか。ってな」

「あ〜アイツらもね。そーね」

「親友には幸せになって欲しいからな。まあそれは性別が変わっても変わらないけどな」


 私としては無茶苦茶複雑だけどね、と思わず笑い出すフィーリスさんは少し元気になったようだ。

 それを確認すると俺は空になったココアの缶を捨てる。


「そろそろ俺は戻る」

「え、もう戻るの?」

「俺は心太郎のように優しくはないからさ、俺はただフィーリスさんに飲み物を奢ろうかと思っただけだ。さっきより元気そうみたいだし」

「この状況で女の子を一人にする?」

「この状況の女の子に漬け込まないのが紳士だと思ってな」


 違いないわね、と彼女はまた笑い出す。

 まあなんだ。あまり好かれていないとはいえ、やはり女の子には笑顔が似合う。


「フィーリスさん」

「なに?」

「これからも俺の親友と仲良くしてくれると嬉しい」

「ふん、アンタに言われなくても分かってるわよ。なんてったって私は心のことが好きだから」

「……ありがと、じゃあ教室戻るわ。二限目休んじゃったし」


 そう言って離れようとした時、フィーリスさんから呼ばれて振り返ると、彼女は階段から立ち上がりコチラに顔を見せない様にして、


「さっきから苗字ばかり言われて喧しいのよ」


 あーごめんな、と謝罪をしようとすると、その言葉に被せるようにフィーリスさんが言った。


「”杏理”……これからはそう呼んで。それとこれからも心の事とか話したいから……話聞きなさいよね」

「____了解した杏理、いつでも聞くから」

「約束よ? 破ったら極刑よ極刑」

「分かってるよ」


 じゃあな、と杏里に言葉をかけて俺は教室へと戻った。



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