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死者蘇生のせいで仕事が無い死神

作者: Anzsake
掲載日:2026/02/04

「それはそうとヤード・ポンド法は無くなっていいでしょ」


「無くなるかどうかじゃない。統一しろって話だろ」


病院とか言う建前だけの建物がまだある事に驚きだ。無駄に輝く廊下を同僚の笹間と歩く。


ここまで必要の無い仕事が俺ら以外にもある事に少々同情すらしてしまう。


「ヤード・ポンド法に?」


「その際それでもいい。言語だってごちゃごちゃしてて厄介だ。言語資格を取るのに何年かかると思ってるんだ」


「ま、仕事殆ど無いんで変わりませんけどね」


「ヤード・ポンド法より先に無くなるのは俺たちの方だろうな」


「亡くならないから無くなる…」


偉くいい服を着た中年の女とすれ違う。笹間が振り向いて睨む。


「やめろやめろ」


「僕、ヤード・ポンド法と蘇生術師は大嫌いなんです」


「そうか。半分同意だ」


「どっちが同意できないんですか!?先輩!」


人が多い廊下で、笹間がやかましく喚いても周囲の反応は無い。見えてないのだから当然だ。


見えているのならそいつは死期が近い。蘇生されない限り。


「そもそもお前、別にヤード・ポンド法使わないだろ」


「いいですか先輩。使わなくても嫌われる物は存在するんです」


「俺たち死神みたいな」


ちらりと見える病室で、若い女の子が蘇生術師に起こされているのをボーッと見る。あれくらいの子が蘇生される分には、俺としても「良かったね」で終わる。


「…こういうの見てると、素直に愚痴れないので困ります。でも退屈ですよねぇ」


「お前も風俗とか行けば?」


「いやですよ。僕はこの仕事にやり甲斐を感じてますから」


一瞬、女の子の横に座るババアと目が合った気がした。気のせいかと思ったが、その後もこちらをチラチラ見てくる。


「先輩はゲームとかしないんですか?」


「あー…スマホならちょっとやるかも」


「僕最近AIチャットにハマってるんですよ!たのしいですよこれ」


「何するゲーム?」


「人工知能とお喋りするんです。僕の愚痴をずっと聞いてくれます」


「きっとお前よりヤード・ポンド法に詳しいんだろうな」


人工知能に奪われた仕事は一体どれくらいあっただろうか。

死神も奪わているかもな。こういう変な奴がスマホとお喋りしてれば自殺もしないんだから。


ババアと完全に目が合った。にこやかに笑って手を振る。

嫌なものを見たと言わんばかりにババアは目を逸らした。


「…居ましたね」


「そうだな」


歩み寄って、女の子が居るベッドに座る。他の誰も気付かない。ババアは必死に目を逸らしている。


「よぉ、おばあちゃん。元気か?」


「……」


「悪いな、死神も大変なんだ。予定契約も無く出回りに行かされて面倒だよ」


「でも僕、割と好きですよ」


「事務作業を知らないんだろ。あれを溜めるのは余命宣告と同じだ」


「溜まる事務作業も無いので、実質不死身ですね」


「…ナツミちゃん。ちょっとおばあちゃんお手洗い行くわね」


ババアが低い腰を僅かに上げて歩き出す。元気に返事をしたナツミちゃんに手を振って俺らもババアについて行く。


「…意味無いよ。諦めな。蘇生術師さんが居る」


「分かってますよ。最後に魂を回収したのは2ヶ月も前ですからね、先輩」


「…孫から取りに来たのかい?」


「いいや、おばあちゃんの古ーい魂を循環して綺麗にしに来た」


「ふざけんじゃないよ!」


廊下でババアが叫ぶ。近くにいた人間がババアだけをジロジロ見ている。


「あんたらの仕事はもう終わりだよ。とっとと帰りな!」


「先輩、僕こういうのも嫌いです」


「そうか。半分同意だ」


「今の半分にする要素あります?」


「こう、死神の鎌でスパッと」


「あんな邪魔なのまだ使ってたんですか?」


「使うわけ無いだろあんな意味のない物」


前を向いたらババアを見失った。


「…どうします?」


「ナツミちゃんのところ行こうぜ」


病室のベッドに座るナツミちゃんは、昔から見るヒーローの絵本を読んでいる。


「こういう光を浴びる仕事、少し羨ましですよね」


「死神も昔は割と人気だったぞ」


「そんな訳ないでしょ」


「マジだよ。若い男から熱烈な人気だったんだって」


「若い男なんて1番死なないじゃないですか」


「漫画とか読まないのか?」


「読むのめんどくさいんですよね」


ババアが戻ってきた。一瞬睨みそうな顔をして、ナツミちゃんの為に取り繕う。


「おばあちゃんこんにちわ。僕笹間って言うんですけど…」


ババアが笹間をギロリと睨み付ける。萎縮した笹間をわざとらしく慰めてやる。


「諦めろ、死にたい奴でも探そうぜ」


「居ますかね?そんなの」


「居るだろ、流石に」


安堵したババアが、胸を押えて苦しそうにしだした。

ナツミちゃんが叫ぶ。制服を着た人間が数人集まってきたが、何もしない。

間もなく動かなくなったババアの魂がうっすら見えた頃、例のあいつがやってきた。蘇生術師だ。


よく分からない呪文を唱えた蘇生術師の手から光が溢れ、ババアは息を吹き返した。


周りをキョロキョロするババアは、もう俺たちは見えてなかった。


「残念だったな、産神笹間」


「全くです。今月も仕事無さそうですね」


「どうせ死なないし、魂が廻らなきゃガキも産まれないんだ、風俗行こうぜ」


「嫌ですよ。僕自分の息子のサイズに自信無いんですよ」


「…何インチ?」


「なんでわざわざ数が小さくなるヤード・ポンド法で聞くんですか!?」


「ま、それなら帰ってシコって寝るか」


「僕の精子を連れてく仕事とかどうです?」


「死んでも嫌だ」


「死にませんけどね」

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