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書類一枚で終わった婚約なので、気にせず王都の端で魔導具工房はじめます  作者: 住処


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第8話:王都の光、辺境の灯り

 私たちの工房が、初めての大量受注に沸き、生産体制の構築に追われていた頃。


 王都では、華やかな夜会が連日開かれていた。

 その中心にいるのは、もちろん王太子アルフォンス殿下と、彼の寵愛を一身に受ける聖女マリア様だ。


「ご覧ください、皆様! 聖女マリア様の奇跡の光です!」


 アルフォンス殿下の声に合わせ、マリア様が祈るように両手を掲げると、彼女の体から眩いばかりの光が放たれる。


 夜の庭園を真昼のように照らし出すその光に、集まった貴族たちから感嘆の声が上がった。


「おお、なんと神々しい……!」


「さすがは聖女様!」


 アルフォンス殿下は、貴族たちの称賛を浴びて得意満面の笑みを浮かべている。マリア様もまた、恍惚とした表情で、自らが放つ光に酔いしれているようだった。


 しかし、その光は、ただひたすらに眩しいだけだった。


 強すぎる光は人々の目を眩ませ、影を濃くする。実用性という点では、全くの皆無と言ってよかった。それは、権威と寵愛を誇示するためだけの、空虚な光だった。



 時を同じくして。

 王都から遠く離れた辺境の、夜の工房。

 そこでは、新しい灯りが静かに生まれていた。


「……できた。第二弾製品、『自動調光ランタン』です」


 私の言葉に、夜なべ作業をしていたリオとセナが顔を上げる。


 彼らの目の前には、私が開発した新しい魔導具が置かれていた。

 一見すると、ごく普通の魔導ランタンだ。しかし、その台座には、光の強さを感知する特殊な魔石が組み込まれている。


「このランタンは、周囲の明るさに応じて、魔力の消費量を自動で調整します。例えば、窓から月明かりが差し込んでいる時は光を和らげ、完全に暗くなると光を強める。常に、作業に最適な光量を保ち続けてくれるのです」


 私は、工房の窓を開けたり閉めたりして、ランタンの光が自動で変化する様子を実演してみせた。

 その滑らかな光の変化に、セナが小さな声を上げる。


「……すごい。これなら、夜に細かい紋様を刻む作業をしても、目が疲れにくいです」


「だろ!? 俺もさっきから見てるけど、チカチカしないし、目に優しい感じがするぜ!」


 従来の魔導ランタンは、光量の調整が難しく、長時間使っていると目が疲れるのが欠点だった。魔力の消費も一定で、効率が悪い。

 しかし、この自動調光ランタンは、その両方の問題を解決している。


 このランタンは、まず工房の近隣で働く職人や、夜遅くまで書類仕事に追われる町の役人たちの間で、静かに、しかし着実に広まっていった。


 派手さはない。奇跡だなんだと騒がれることもない。けれど、使った者だけがその真価を理解できた。


「リリアーナ工房のランタンを使い始めてから、肩こりが楽になった」


「夜の読書が捗って仕方ない」


「何より、魔石の交換頻度が半分になった。これは革命だ!」


 王都の夜会で輝く、聖女の虚飾の光。

 辺境の工房で灯る、人々の生活を支える実用の灯り。


 二つの光は、まだ交わることはない。


 だが、辺境で生まれた確かな灯りは、やがてその熱量を増し、王都の偽りの光を脅かす存在となっていく。


 そのことを、まだ誰も知らなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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