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書類一枚で終わった婚約なので、気にせず王都の端で魔導具工房はじめます  作者: 住処


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7/20

第7話:口コミと最初の発注

 画期的な製品はできた。


 しかし、次の課題は、これをどうやって売るかだ。

 辺境にある、誰も知らない新しい工房の製品など、普通に売り出したところで誰も見向きもしてくれないだろう。


「よし、宣伝だ! 俺が町で叫んでくる! すげー鍋ができたぞーって!」


 意気込むリオを、私は宥める。


「いえ、リオ。もっと効率的な方法があります」


 私が目を付けたのは、町の外れにある()()()の駐屯地だった。

 多くの兵士が駐在しており、食事は基本的に駐屯地内の食堂で賄われている。そして、料理を担当しているのは、料理のプロではない、当番制の兵士たちだ。


 私は完成した『温度一定鍋』を十数個ほど用意し、駐屯地の司令官に直接交渉に向かった。


「これを、食堂で試供品として使っていただけませんか? もちろん無料です。その代わり、兵士の方々の正直な感想を聞かせていただきたいのです」


 司令官は最初、訝しげな顔をしていたが、「無料で試せるなら」と私の提案を受け入れてくれた。


 結果は、私の予想を遥かに上回るものだった。

 翌日から、駐屯地の食堂では、ちょっとした奇跡が起こり始めた。


「なんだ今日のシチュー! めちゃくちゃ美味いぞ!」


「昨日のカレーも絶品だった! おい、今日の当番は誰だ? 腕を上げたな!」


「いや、俺はいつも通りに材料をぶち込んだだけなんだが……あの新しい鍋がすごいんだよ! 火にかけて放っておくだけで、勝手にプロの味になるんだ!」


 料理下手の兵士が作っても、誰が作っても、料理が失敗しない。焦げ付かないから、面倒な鍋洗いの手間も大幅に省ける。


 『リリアーナ工房の魔法の鍋』の噂は、瞬く間に駐屯地内に広まった。

 その評判は、ちょうど駐屯地を視察に訪れていた、王都の騎士団幹部の耳にも入ることになる。



 一方、王都のベルンハルト公爵邸。


 アレクシスは、約束通りリリアーナから届けられた『温度一定鍋』の試作品を前に、執務室で報告を受けていた。


「……以上が、辺境の駐屯地での調査結果です。兵士たちの評判は上々で、すでに『魔法の鍋』として伝説になりつつあるとか」


「ふむ……」


 アレクシスは、部下に命じてその鍋でシチューを作らせ、自らも試食していた。

 味は、報告書の通りだった。特筆すべき技術だ。軍の食糧事情を改善し、兵士の士気向上に大きく貢献するだろう。


 だが、彼の思考はそれだけでは終わらなかった。


(これは、軍事利用だけでは収まらない。一般家庭に普及すれば、人々の生活そのものを変える可能性を秘めている)


 リリアーナ・フォン・ヴァインベルク。


 あの辺境の令嬢は、自分がどれほど革命的なものを生み出したのか、理解しているのだろうか。

 アレクシスは、ペンを取り、一枚の公文書にサインをした。


「これを、リリアーナ工房へ」



 数日後。

 私たちの工房に、ベルンハルト公爵家からの正式な発注書が届いた。


「い、いち、じゅう、ひゃく……ひゃっ、100個!? リリアーナ様、100個の発注です!」


 リオが発注書を手に、震える声で叫んだ。セナも隣で、信じられないといったように目を見開いている。


 それは、審査局長としてではなく、『騎士団の装備近代化を推進するベルンハルト公爵』個人としての正式な契約書だった。


 工房にとって、初めての、そしてあまりにも大きな契約。


「すごい……すごいですよリリアーナ様! 俺たちの鍋が、国に認められたんだ!」


「……これで、材料がたくさん買える。もっと良いものが作れる」


 歓喜に沸く二人を見て、私も静かに喜びを噛みしめた。


 ターゲットを絞ったマーケティング戦略は、見事に成功した。そして、約束を守ってくれた氷の公爵様。


 彼が純粋に公務としてこの発注をしたのか、それとも、そこには何か別の意図が含まれているのか。

 彼の真意はまだ読めない。

 だが、今はただ、この大きな一歩を素直に喜ぼう。


「さあ、二人とも、感傷に浸っている暇はありませんよ。納期は一ヶ月後。今日から、工房はフル稼働です!」


「「はいっ!!」」


 辺境の小さな工房の歯車が、今、大きく、そして力強く回り始めた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

よろしければ☆で応援してもらえると、とっても嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و

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