表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書類一枚で終わった婚約なので、気にせず王都の端で魔導具工房はじめます  作者: 住処


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/20

第16話:執務室の秘密

 鉄道会社からの、寝台列車への温熱マットレス導入に関する申請は、すぐに魔導具審査局に提出された。


 局長であるアレクシス様は、その報告を受けると、表情一つ変えずに部下に命じた。


「前例のない案件だ。安全性と性能について、最も厳格な基準で審査を行え。私が直接監督する」


 アレクシス様は、公爵として、そして審査局長として、一切の私情を挟むことなく、リリアーナ工房の製品を厳しく審査した。


 提出された分厚い安全性データ、長時間稼働テストの結果、素材の燃焼実験報告。

 その全てが、彼の設けた高い基準を、余裕でクリアしていた。


 審査結果は、もちろん『優良』。


 彼はすぐに認可の書類にサインをし、鉄道会社との歴史的な契約は、正式に締結されることになった。

 公務は、ここまで。


 しかし、その数日後。

 ベルンハルト公爵家の執事の名で、リリアーナ工房に、一枚の個人的な発注書が届いた。

 注文の品は、『魔力循環式温熱マットレス』が一つ。


 そのマットレスが届けられたのは、王都にあるベルンハルト公爵邸。

 そして、設置されたのは、公爵の広大な執務室の片隅にある、仮眠用の小さなベッドの上だった。


 アレクシス様の仕事は、常に激務を極めていた。深夜まで書類仕事に追われ、執務室の仮眠ベッドで短い眠りを取ることもしばしば。


 その短い休息の質を、リリアーナ工房の製品が劇的に向上させた。マットレスの穏やかな温かさは、彼の張り詰めた心と体を、深く、優しく癒してくれた。


(……なるほど。これは、確かに画期的だ)


 彼は、その温かさに包まれながら、この製品を生み出した女性の顔を思い出していた。

 冷静で、合理的で、それでいて、その瞳の奥には確かな熱を宿している女性。

 彼女の作ったものが、今、こうして自分を癒している。


 その事実が、アレクシス様の胸に、これまでに感じたことのない、不思議な感情を灯した。


 ある夜更けのこと。

 緊急の報告のため、側近の騎士が許可を得て執務室に入った。

 主は仮眠中かと、そっとベッドの方へ視線を向けて、騎士は息を呑んだ。


 そこにいたのは、いつもの『氷の公爵』ではなかった。

 リリアーナ工房のマットレスの上で、穏やかな温もりに包まれ、普段では考えられないほど、安らかな表情で眠っている主の姿があった。


 まるで、幼い子供のような、無防備な寝顔。


(アレクシス様が……あのようなお顔を……)


 側近は、その光景に衝撃を受けた。


 そして、その安らかな眠りを実現しているのが、噂の『リリアーナ工房』の製品であることに気づき、全てを察した。我が主君が、辺境の工房長に寄せている感情は、単なる庇護欲や、才能への評価だけではない。


 もっと、個人的で、もっと深い、何かだ。


 騎士は、報告を後回しにすることを決めると、音を立てないようにそっと部屋を退出した。


 氷の仮面の下に隠された主の人間的な一面を、偶然にも垣間見てしまった夜だった。

 アレクシス様のリリアーナへの想いは、もはや公私の区別なく、彼の日常の、そして心の深い部分にまで、静かに、しかし確実に浸透し始めていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

よろしければ☆で応援してもらえると、とっても嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ