第15話:冬の需要と鉄道会社
王都で聖女様がボヤ騒ぎを起こしていた頃、辺境の地には、厳しい冬の足音が近づいていた。
この地域の冬は長く、厳しい。暖炉の火だけでは、体の芯まで温まることは難しい。特に、夜の冷え込みは、多くの住民にとって悩みの種だった。
「この寒さを、どうにかできないか……」
工房でセナが寒そうに肩をすくめるのを見て、私は新しい製品のアイデアを思いついた。
前世でいうところの、電気毛布やホットカーペットの原理だ。
「リオ、セナ。冬に向けた新製品を開発します。『魔力循環式温熱マットレス』です」
私は早速、設計図を書き上げた。
マットレスの内部に、熱を伝える特殊な液体を封入した、極細の管を網の目のように張り巡らせる。
その液体を、ごく微量の魔力で稼働する小型のポンプで循環させ、台座に設置した魔石で温める。
これなら、火を使わないので安全だし、一晩中快適な温度を保ち続けることができる。
開発は順調に進み、完成した試作品は、まさに革命的な寝心地だった。
「あ、あったかい……! リリアーナ様、これ、天国です!」
「……お布団から、出たくない……」
寒さで震えていたリオとセナが、マットレスの上でとろけたような顔をしている。
この『魔力循環式温熱マットレス』は、発売と同時に、冷えに悩む辺境の住民たちから爆発的な支持を受けた。
特に、年配の方々や、体の弱い子供を持つ家庭から注文が殺到し、私たちの工房は、嬉しい悲鳴を上げるほどのフル稼働状態となった。
そして、その評判は、意外なところまで届くことになる。
ある日、工房に、蒸気鉄道会社の紋章が入った立派な馬車がやってきた。
現れたのは、鉄道会社の購買部門の責任者だと名乗る紳士だった。
「リリアーナ工房長とお見受けいたします。本日は、ぜひともおたくの工房の製品を、我々の路線に導入したく、ご相談に参りました」
話を聞くと、こうだった。
この国を縦断する長距離の寝台列車は、北部の寒冷地を通過する際、車内の寒さが乗客から度々不評を買っていたという。
そこで、安全で効率的な暖房設備を探していたところ、私たちの温熱マットレスの噂を耳にした、というわけだ。
「ぜひ、寝台列車の全客室に、おたくのマットレスを導入させていただけないでしょうか。もちろん、契約金は弾ませていただきます」
提示された契約内容は、騎士団からの発注を遥かに上回る、とてつもない規模のものだった。
それは、私たちの工房の事業が、もはや辺境という一地域の問題ではなく、国全体のインフラに関わるレベルに達したことを意味していた。
「……お受けいたします。我が工房の総力を挙げて、ご期待に応えましょう」
私が契約書にサインをすると、紳士は満面の笑みで立ち上がった。
「素晴らしい! では、正式な契約には、魔導具審査局の安全基準の承認が必要となります。すぐに王都で手続きを進めましょう。ベルンハルト公爵閣下も、きっと喜んでくださるはずです」
鉄道会社との契約。
それは、私の存在を、もはや王太子殿下も、そして国王陛下でさえも、無視できないほど大きなものにした。
そして、アレクシス様と私が、今度は公的な場で、パートナーとして協力する新たな舞台が整った瞬間でもあった。
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