第14話:聖女の焦りと失敗作
辺境でリリアーナ工房の評判が高まるにつれて、王都では聖女マリア様の影が、日に日に薄くなっていた。
アルフォンス殿下の寵愛は相変わらずで、夜会では毎晩のように彼女の「奇跡の光」が披露されてはいた。しかし、それだけだった。
民衆の間では、実用的な魔導具を次々と生み出す辺境の元令嬢と、ただ光るだけの聖女、という比較が公然と囁かれるようになっていたのだ。
「なぜですの、アルフォンス様! わたくしの方が、あんな女よりずっとすごい奇跡を起こせるというのに!」
「もちろんだとも、マリア! 君の美しさと奇跡は、この世の何物にも代えがたい!」
アルフォンス殿下はそう言って彼女を慰めるが、マリア様の焦りは募る一方だった。
このままではいけない。自分も、民衆の支持を得られるような、何か形になるものを生み出さなければ。
そうだ、あいつが魔導具とやらを作るなら、わたくしは『聖具』を作ればいいのだわ!
そんな安易な発想に至ったマリア様は、早速行動を開始した。
「聖なる力を使えば、きっとリリアーナ様よりも凄いものが作れるはずですわ!」
彼女はアルフォンス殿下におねだりし、王宮の宝物庫から、最高級の魔石やミスリル銀といった、非常に高価な素材をいくつも持ち出させた。
そして、王宮の一室に閉じこもり、見様見真似での聖具作りを始めた。
彼女が作ろうとしていたのは、『聖なる力で飲み物がひとりでに温まるカップ』。リリアーナ工房の『温度一定鍋』に対抗したつもりの、浅はかなアイデアだった。
「わたくしの聖なる力よ、このカップに集え!」
マリア様は、ミスリル銀のカップに、宝物庫から持ち出した巨大な火の魔石を針金でくくりつけると、そこに自分の聖なる力――と彼女が信じている魔力を、無計画に注ぎ込み始めた。
付与術の知識も、魔力制御の技術も、何一つない。
ただ、闇雲に力を込めるだけ。
当然、結果は悲惨なものだった。
力の制御を失った魔石は、急激に熱を暴走させ始める。
「きゃっ!? な、なんですのこれ! 熱い!」
カップは真っ赤に輝き、針金が焼き切れる。そして、暴走した魔石は、耳障りな甲高い音を立てたかと思うと――
――ドカンッ!!
小規模な爆発を起こした。
幸い、大事には至らなかったが、部屋のカーテンに火が燃え移り、ボヤ騒ぎへと発展。
駆けつけた衛兵たちによって火はすぐに消し止められたものの、マリア様は顔も髪もススで真っ黒。高級なドレスも焦げてボロボロになっていた。
「マリア! 大丈夫か、マリア!」
駆けつけたアルフォンス殿下に抱きしめられ、彼女はわんわんと泣きじゃくった。
「ひどいですわ、アルフォンス様! きっと、リリアーナがわたくしを陥れるために、呪いをかけたに違いありませんわ!」
「なんだと! あの女、そこまで……! 許さん、絶対に許さんぞ!」
失敗の原因が、完全に自分の無知と無能にあることを棚に上げ、全ての責任を私に押し付ける。
この一件は、王宮内で「聖女様のトホホな大失敗」として、侍女や衛兵たちの間で笑いの種になった。
そして、アルフォンス殿下のリリアーナ工房に対する憎悪と焦りを、さらに危険なレベルへと押し上げる、決定的な引き金となったのだった。
地道な研究と試行錯誤を重ねるリリアーナの成功と、思いつきと嫉妬だけで行動し、見事に自爆する聖女様。
その対比は、誰の目にも、ますます鮮明になっていった。
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