第13話:合理的な感謝
「――というわけで、あっという間に消えちまったんです! 絶対、普通の人じゃありませんよ!」
リオの興奮した報告を聞き終えた後、私は少しの間、考え込むように顎に手を当てた。隣では、話を聞いていたセナが、不安そうに兄の服の袖を握りしめている。
工房の裏をうろつく不審者。
それをどこからともなく現れた黒ずくめの男たちが連れ去った。
状況証拠から考えて、答えは一つしかない。
「……おそらく、ベルンハルト公爵閣下の差し金でしょうね」
「「ええっ!?」」
私の結論に、リオとセナが声を揃えて驚きの声を上げた。
「こ、公爵様が、どうして……?」
「先日の公式通達だけでは不十分だとお考えになったのでしょう。私的な護衛をつけてくださった、ということだと思います」
あの氷の公爵と呼ばれる人が、そこまでしてくれるとは。
普通に考えれば、あり得ないことだ。一介の工房主に、公爵が私兵を動かすなど前代未聞だろう。
だが、あの人の行動原理は、常に理にかなっている。
彼は私の作る魔導具に、そしてこの工房に、国益に繋がる価値を見出している。ならば、その価値を守るために、最大限のリソースを投入する。彼にとっては、ごく自然な判断なのかもしれない。
常人であれば、見えない誰かに四六時中監視されているなど、恐怖や戸惑いを感じる状況だろう。
しかし、私の思考回路は、少し違う方向へ働いた。
「なるほど……。これは、大変合理的です」
「ご、合理的、ですか……?」
「ええ。ちょうど、工房の規模も大きくなってきたので、警備会社と契約することも検討していたところでした。その人件費が丸々浮いたことになります。素晴らしいコスト削減ですね」
「「…………」」
私がにこやかにそう言うと、リオとセナは呆気に取られたような顔で、顔を見合わせた。
主人が、自分たちの知らないところで監視されているという異常事態を、コストカットの観点から肯定的に受け入れている。彼らの常識では、到底理解の及ばないことだろう。
「と、とにかく! リリアーナ様が無事なら、それでいいんですけど……」
「ええ、大丈夫ですよ。むしろ、これで安心して開発に専念できます。二人とも、心配してくれてありがとう」
私は二人の頭をぽんぽんと軽く撫でた。
彼らの私に対する忠誠心と心配りが、素直に嬉しかった。
数日後。
王都の魔導具審査局から、定期報告と書類の受け渡しのために、担当の役人が工房を訪れた。
私はその役人との打ち合わせを終えた後、帰り際に、にこやかに一つのお願いをした。
「すみません、一つ、アレクシス公爵閣下への伝言をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「は、はい。私でよろしければ」
「『おかげさまで、工房の警備費用を大幅に節減することができました。閣下の合理的なご判断に、心より感謝申し上げます』と、そうお伝えください」
「……は、はぁ……?」
役人は、私の伝言の意味が全く分からないといった顔で、何度も首を傾げながら帰っていった。
これで、あの方にも意図は伝わるはずだ。
言葉を尽くすよりも、結果で示す。行動で応える。
きっと、彼とはそういう関係の方が、うまくいく。
そんな奇妙な確信が、私の中にはあった。
そして後日、その伝言を聞いた氷の公爵が、執務室で一人、誰にも気づかれないほど微かに口元を緩めたことを、まだ私は知らない。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
よろしければ☆で応援してもらえると、とっても嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و




