第12話:見えない護衛
アレクシス様からの公式通達のおかげか、工房へのあからさまな嫌がらせは、ぱったりと止んだ。
リオもセナも、「さすがは公爵様だ!」と胸を撫で下ろしている。
しかし、当のアレクシス様は、それだけでは全く安心していなかったらしい。
「殿下の性格を考えれば、公的な牽制だけでは不十分だ。必ず、より陰湿な手段に出てくる」
王都の執務室で、彼はそう呟くと、新たな手を打った。
それは、公的な権力ではなく、ベルンハルト公爵家が私的に抱える、影の力だった。
「――辺境へ行け。リリアーナ工房と、彼女の周辺を24時間体制で警護しろ。ただし、決して相手に存在を悟られるな。これは命令だ」
その日の夜。
ベルンハルト公爵家に仕える、諜報と隠密行動に長けた騎士たちが、数名、密かに辺境の町へと派遣された。
もちろん、そんなことが行われているなど、私や工房の誰も知る由もなかった。
数日後の昼下がり。
工房の裏手で、資材の整理をしていたリオは、ふと視線を感じて顔を上げた。
見ると、少し離れた木陰で、見慣れない男がこちらを窺っている。挙動不審で、いかにも怪しい雰囲気だ。
(なんだ、あの男……?)
先日のクレーム騒ぎが頭をよぎり、リオは警戒心を強めた。
ほうきを槍のように握りしめ、声をかけようか、それとも工房に知らせに戻るべきか、迷ったその時だった。
サッ、と風が吹いたかのような、ほんの一瞬。
どこからともなく現れた、黒ずくめの男たちが二人、不審者の背後に音もなく回り込んでいた。
一人が不審者の口を塞ぎ、もう一人がその両腕を背中に捻り上げる。
あまりに鮮やかな、無駄のない動き。
「!? な、なんなんだ貴様ら!」
不審者がくぐもった声を上げるが、黒ずくめの男たちは一切答えない。
そのまま、まるで麻袋でも運ぶかのように不審者を引きずり、あっという間に路地の闇へと消えていった。
「…………え?」
リオは、手に持ったほうきを取り落とし、目の前で起きた出来事が理解できずに、ただ呆然と立ち尽くしていた。
まるで、幻でも見ていたかのようだ。
しかし、不審者が立っていた地面には、彼が落としたのであろう短剣が一本、鈍い光を放って転がっている。
あれは、幻じゃない。
そして、あの黒ずくめの男たちは、一体何者なんだ?
(俺たち、何かに守られてる……?)
リオの背筋を、ぞくりとした悪寒と、それと同時に奇妙な安心感が駆け抜けた。
彼は慌てて工房の中へ駆け込むと、息を切らしながら、事務所で帳簿をつけていた私に一部始終を報告した。
「リリアーナ様! た、大変です! 今、工房の裏で、お化けが出ました!」
「リオ、落ち着いてください。お化けではなく、幽霊です。それに、昼間からは出ませんよ」
「そういうことじゃなくて! なんか、怪しい奴が、黒い影みたいなのに連れてかれました!」
支離滅裂なリオの報告。
しかし、その必死な様子から、ただ事ではないというのは私にも伝わってきた。
私はペンを置き、彼の話をじっくりと聞くことにした。
この異常事態が何を意味するのか、私にはすでに見当がついていたからだ。
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