7:あいつ(勇者)って今何してるの?
「ただいま〜。」
「おかえり〜お疲れさぁ〜ん。」
「おかりなさい。」
「……。」
いつものように誰にもいない家に言った言葉。しかし、返答があった。それに対する驚きもあるが気になるのはそこじゃない。
クローカーは台所からこちらに顔を出しているだけでまだいい。目の前に広がる酒瓶の惨状。一本の瓶を持ち椅子に腰掛けていたのがその犯人。
ノアは手を挙げながら大声を出す。
「なあにやっとんじゃこらー!!風!」
腕を振り下ろした。
「ん?」
その瞬間、シャロンの頭上に魔法陣が描かれ、風の槍が降り注いだ。
「おっと。」
その刃先をシャロンは手で掴む。だが、槍から放たれた風力により酒瓶が空中に浮く。
「あっ。」
クローカーが右足を前に出す。そこからは黒い陰が生まれ、酒瓶が落ちる地面にも生まれた。そして陰に吸い込まれるように酒瓶が入り、クローカーの足元の陰から出てくる。
「室内ですよ。気をつけ」
「あ?久しぶりの手合わせ、してやろうか?ミー。」
シャロンは椅子から降りて興奮気味に言う。が、
「私の!家で!酒!飲むな!茶葉に移ったらどーしてくれるの!」
ノアは次々に風の槍を自分の周りに生み出し、シャロンへと投げていく。
「んな魔法で、アタシに通用すると思ってんのか?」
シャロンは襲いかかってくる槍を全て掴み、粉砕する。その様子を見ていたクローカーが溜息を吐き、両手を軽く広げ、空中に二つの黒い陰を作り出す。それはシャロンとノアの足元にも作られた。
「あーもー!シャロンが悪いんだからね!Br」
「二人とも、」
影の中に両手を入れると、二人の足元にその手が現れ、足を掴み、
「近所迷惑ですよ。」
下へ引き抜いた。その瞬間、ミレナとシャロンの片足が下に沈み、クローカーの元へ現れた。衝撃で二人は屈んでしまったが代わりとして正気に戻った。淡々と、言葉が紡がれる。
「何で酒飲んでんの。」
「焼け酒。」
「何でよ。」
「_____る」
「アリストロキア家の血族が学園にいましたでしょう。それを報告するためにルージアを探していたのですが……学園内で運悪く教師と出会してしまいまして」
「ちょっと待って。え?」
「はい。」
クローカーは掴んでいるノアの足から手を離し、ノアもその影から足を引き戻して無言で服装を整えた。酔っ払ったシャロンはそのままに、椅子に座りもう一度問う。
「はい??」
「ルージアを探している際、教師とでく」
「んーー。」
ミレナは理解に苦しむ。そして控えめな声で問うた。
「そう言えば、あいつって今何してるの?」
「あいつとは」
「ルージア。」
「「………。」」
「確かに。言ってませんでしたね。
______勇者ルージアは騎士学園に通っています。」
ノアは頭を抱えた。
「____えぇ?もうほんっと意味わかんない。」
クローカーは台所で水の入ったグラスをシャロンへと届けた。彼女も溶けた脳で理解し、飲み干す。酔いが柔らいだシャロンは陰から立ち上がり、ノアと対面となる椅子に腰掛けた。
「あんたが寝坊してる間に、吸われた生命力が学園に行きついてるって判明してからあいつが先に調査に行った。"アノコト"もあいつに任せてる。つか、クロは言おうとしてたぜ?あんたとその姿で会った日に。」
ノアは己の姿がまだ変装魔法を施されたものであることに気づき、魔法を解く。目を瞑り遡った。あの日の記憶を____
「その魔道具によって吸われた生命力が学園のどこかに集められてるんです。ただ学園を守る防御結界によりどこに行き着くのかは分かりません。騎士学園の方には__」
「でもその学園お貴族様の学園でしょ?」
クローカーの発言を遮っていたのは紛れもないミレナだった。ミレナは俯き、指を擦り合わせる。
「ごめん、クロ。」
「構いませんよ。」
クローカーは台所から運んできた一杯の紅茶をミレナの前に置いた。ミレナは目を細め、心なしか目に水分を含む。
「育てた甲斐があったなぁ…」
「はいはい。」
ミレナはその紅茶を口に入れ、味わった。
「結局、ルージアに報告できてないってことでしょ。と言っても、別に報告しなくていいんじゃない?騎士学園なら関わることもないでしょうし。あの子が口外するとも思えないし…」
「それが関わっちゃうんだなぁ。」
「というか後々知られて暴走されるのも迷惑ですし。」
ミレナは首を傾げ、口元に指を当てて尋ねた。
「何でルージアが暴走することになるのよ。」
その瞬間、部屋には沈黙が生まれた。ミレナは只々疑問を口にしただけだが。クローカーは目を瞑り、居た堪れないような表情をする。対してシャロンは何を考えているのか分からないような顔で硬直したかと思えば一気に吹き出した。
「っはーははは!はは!ひーーーっひーーふっ、はっはは!はぁーーー。…っとにルージアが可哀想でならねぇなぁ。あんなにアプローチしまくってたのに…ふはっ。」
「はぁ??」
クローカーが手をパンと一回叩く。
「兎に角、ルージアの捜索中に教師達と何者かと接触しました。僕もシャロンも変装魔法を使えないためローブを被っていましたが、風魔法により顔が割れました。」
つまり、勇者パーティーメンバーが学園に何かしらの目的を持って潜入していたのだと知られたのだ。となればパーティーメンバーの捜索がより拡大され、学園の防御もより強固されるはずだ。
「私としても動きづらくなっちゃうかも…あれ、教師達とあと、、何者かって?」
「はい。見つかった際、状況把握のため索敵魔法を使いました。その中には教師以外の…気配がまた違う者の反応がありました。魔力量はかなり多いかと。」
「そ。まぁ、私よりは」
「あんた今子供だろ?昔程の魔力量でもねぇじゃねぇか。二次試験通過したのに呪縛も解いてねぇし……余計少なくなってるはずだぜ。」
ミレナは角砂糖を一つ紅茶に入れ、スプーンでゆっくり混ぜた。そしてスプーンを取り出し、カチンと音をたてる。
「…………。でもクロが見つかっちゃうなんて、珍しいね。スカウトの肩書きが折れちゃうよ。」
クローカーは集めた酒瓶を箱に片付けていた。そして最後の一本を入れて立ち上がり、やや下を見て口を開いた。
「人ではない物の索敵に集中していたんです。僕らのもう一つの目的、魔王復活の為の"核"。今回見つかったのも僕の不注意です。申し訳ありません。」
ミレナは立ち上がり、クローカーの元へ行く。まだ少しだけミレナより身長が低いクローカーを抱きしめ、頭を撫で始めた。
「大丈夫よ。二人だけじゃどーしてもカバーできないもんね。何よりシャロンが魔法を使えないのが悪いから。」
そう悪態をつかれたシャロンが机を叩き、ミレナを睨んだ。
「あぁ?」
「あら何?体術しか取り柄のないシャ・ロ・ン?貴方とバディじゃクロが可哀想。スカウトは魔法を使えるか強い人と組まなきゃ大変だろうに…よりによって格闘家。まだルージアの方が」
シャロンが肩を震えさせていたが己が強くないと称されればその怒りは頂点に達した。
「んだよやんのか!?クロ!どっか広いとこ転送しろ!」
「こーんなか弱い少女を懲らしめよっての?酷い!」
「どこがか弱いだ!」
「コホンッ!」
クローカーが強く咳払いをした。これで二人を制止するのは今日で二度目だ。
「ルージアからは長らく報告を聞いてませんから、ミレナ、貴方からルージアに聞いておいてください。僕らはもう学園内に潜入できませんから。」
「今日入れたじゃん、何で…あぁ、そう言うこと。結界ね。」
ミレナも気づいていたのだ。今日は試験日であるから外部からの受験生が出入りする。それに結界が作動しないよう一時的に解かれていたのだ。その隙に潜入したのだからもう長期間、潜入できる機会はそうないだろう。勇者パーティーのうち二名が潜入していたたと知られれば尚更なこと。彼らがやってきたのは学校側にとってどう思われるかは分からないが警戒されることに変わりはない。
「取り敢えず、試験合格おめでとうございます、ミレナ。予定通り、来月からは寮生活となりますので準備致しましょう。」
かなり間が空きましたが次回も投稿までに時間を要するかと思います。




